木漏れ日と、スライムと、
小休止を終えて、俺たち一行はおっさんにつれられるがまま、森の奥へと進んでいく。
ある程度進んだところで、森は暗さを増してきた。背の高い樹が群生し日の光を退けているのだ。
暗くなった半面、地面は堆積した木の葉でおおわれて、泥が顔をのぞかせることもなくなったため、歩く分には余裕ができて良いことだ。
こんな木の葉で覆われた地面であってもおっさんの足音は静かで、意識しなければ聞こえないだろう。
サンタスもその事に気づいたようでおっさんに話しかけていた。
「おっさん!すげーな!どうやって歩いてるんだ?足音の消し方教えてくれよ!」
「これはね~。あれだよ。慣れだよね。」
サンタスは簡単にはぐらかされてしまっている。
俺が見た所、履物の底に工夫がありそうだが、慣れというより圧倒的な技術だ。日ごろから野生の生物を相手にしている為に磨かれた技術だろう。
「ねぇアル!」
「ん?」
「まだつかないのかな?」
「ほら、木漏れ日の角度を見てみろ。真っすぐだろ?昼飯のために休憩するはずだ。」
「ふーん、おなかすいたね!」
「あぁ、何を食うのかね。」
太陽の位置が昼時を指しているが、ハントはいつ始まるのやら・・・。と思っていると、急に視界が開けた場所に出た。少し大きめの泉があり、太陽の光が神々しく降り注いでいる。
「なんか、妖精でも出てきそう・・・。」
リンがつぶやく。確かに今までの林道とは別世界な感じがする。
「はーい、皆さん、ハントポイントに到着したよ~。休憩にしようか。」
おっさんがザックを地面に置きながら肩や首を回しながらストレッチを始めた。
「おっさん!昼飯の準備をするのか?」
サンタスは嬉しそうに尋ねる。奴にしっぽがあればブンブンと振ってよだれを垂らしていそうだ。
「そうだね~。じゃ、みんな準備するよ?なるべく一人にならないようにすること~。危ないと思ったら助けを呼ぶこと~。火は起こしといてあげるからね~。」
「?」
おっさん以外の全員の時間が止まった。
「もしかして、今から獲物を狩るってことですか?」
俺は全員が思っていることを口にした。
「?、ハントポイントに行くって最初に言ったよね~?」
「ここに着くまで何にも遭遇しなかったのに?」
「結構いたよね~?大型の物はいなかったけどね~。」
俺たちが話をしながら歩いていた中で、獲物は身を隠していたようだ。ビルットとコーギは準備を始め、リンはオロオロし、サンタスとギニンはまだ固まっている。
「しゃぁない、探すか・・・。」
「いってらっしゃ~い。」
「サンタス、行くぞ!」
おっさんことザスタに見送られながら森の奥に歩き出す。
「あっ、ちょっと待って~。」
「ん?」
「スライムに気を付けてね~。」
「あぁ、師匠から聞いている。大丈夫だ。」
「ねぇ、何のこと?」
歩みを進めながら、リンやサンタス辺りにスライムに関する注意事項を伝える。
「スライムって知ってるか?」
「透明なプルプルの奴よね?」
「そうだ、透明な奴は討伐してはいけないんだ。」
「なんで?」
「それはね!」
コーギが話に割って入ってきた。
「基本的にスライムは、瘴気を吸って生きているの。だから、人間は襲ってこないし、自然の為にも大切な存在なのよ。」
「ふ~ん、スライムは殺しちゃダメなのね・・・。」
「ただし!」
師匠から聞いた大切な話をするためにイニシアチブを取り直す。
「ただし、色の濃い、黒っぽいスライムは討伐が必要だ。」
「えっ?聞いたことないわ?」
コーギも知らなかった様だ。
「黒いスライムは、瘴気を蓄えすぎて危険なんだ。黒くなると手近な動物等に寄生し、動物を魔獣化させてしまうらしい。だからその前に発見した場合は、潰して燃やすことが推奨されているんだ。」
「!魔獣化?!」
一般的に知られていない事実を伝えると、全員の表情が変わった。
「じゃあ、最初から潰しちゃえばいいじゃないか!」
俺もそう考え、師匠に同じ質問をしたものだ。だが、しっかりとした理由もある。
「そうすると、森が瘴気に侵されて、森全体が魔獣の製造域になってしまうんだ。こうなってしまったら、国の一つくらいは平気で地図から消えてしまう・・・。らしい。」
予想以上に大きな話に、皆が黙り込む。
「スライム、すげぇな。」