風だけが駆け抜ける道
雨季に終わりをつげ、乾季を知らせるような乾いた風が木々の間をすり抜けてくる。
ここはグリフ王国の城壁から森に入って間もない場所。
気候的にはさわやかで過ごしやすいのだが、雨季の影響を残す森の中、足元はぐちょぐちょで、ものすごく歩きずらい。というか、前を歩くサンタスが跳ね上げる泥が膝辺りまで跳ねて、俺の装備を汚してくる。
サンタスの奴はこんな事も気が付かないのか、と苛立ったが、サンタスの前を歩くレンジャーのおっさんが泥を一切巻き上げない歩き方をしている為、気づかないのだろう。俺も泥を跳ねさせない歩き方は出来ていない様で、後ろの奴の足元を汚しているようだ。
「ぬかるみを歩くコツはな、歩幅を小さくするんだ。大股で歩こうとすると、後ろの奴を汚すだけだから気を付けろよ~。」
そういう事は先に言え!と思いつつも、歩幅を調整してみる。が、なかなか上手くいくもんではない。
「慣れだよ、慣れ~。」
後ろを振り返りもせず、俺の葛藤に気づいたのか、絶妙なタイミングで話を繰り出してくる。
横を歩いているリンは、上手に歩けているようだが、前を歩いているギニンが盛大に泥を飛ばしているようだ。ハーフパンツの裾あたりまで泥がついている。
「ちょっとあんた!もっと丁寧に歩きなさいよ!」
スタッフの先についているオーブの様な部分でギニンを小突く。
ギニンは小柄だから、周りにスピードを合わせるとなると、歩数で稼ぐか、大股で歩くしか方法がない。
「仕方ないだろ~。これでも精いっぱい飛ばさない様にしてんだ!」
「前のおっさんを見習いなさいよ!」
「ザスタさんな~。おっさんは止めてね~。」
「あのおっさんのマネなんかできるかよ!こんなぬかるみ歩いてるのに、足音も聞こえないんだぞ!」
「ザスタさんな~。おっさんじゃないよ~。」
「あんたが下手なのよ!足!踏ん張りすぎてるの!」
「だから身長差を考えろよ!スピード的に無理だろ!文句があるならおっさんに言ってくれ!」
「ザスタさんな~。お前ら、わざと言ってんだろ?・・・もういいや。」
あぁ、かわいそうなおっさん。
一部を除いて、泥はねしない歩き方で歩いているが、慣れない歩き方をしたせいで普段以上に疲労感がある。更に吸い込む空気が乾燥している為か、無駄に水分が欲しくなってくる。
不意に前を歩くおっさんが振り返り、サンタスの足が止まった。
「じゃぁ、この辺で一服しようか~。」
「ナイス!おっさん!」
「・・・・。じゃあ、地面が濡れている時の休憩の仕方を教えるよ~。」
森の中、小休止を行う場合は座り込まないのが基本らしい。木の根や倒木などに腰掛けることはあっても、地面に直接座らない様だ。地面がぬかるんでいる時は、吸血性の生物が蠢く環境であり、場合によっては毒に侵されることもあるそうだ。
おっさんからは木の根や小石を使った足のマッサージを勧められたので、見よう見まねでやってみた。
「アル、水持ってないか?」
俺の後ろを歩ていたビルットが声を掛けてきた。こいつも王国軍(見習い)だったはずだが、あんまり接点がなかったな。飯の時に少し話した程度だが、いつの間にか一緒のチームとして行動していた。
「コーギは持ってないのか?」
コーギはビルットの知人で、時々一緒にいるところを見かける。将来は女剣士を目指しているらしい。
俺、リンクル、サンタス、ギニン、ビルット、コーギ、この6人が今回のチームメンバーだ。
「もう、飲んじゃった。」
「燃費悪いな~。」
宿舎で多めに詰め込んだ水袋を渡すと、速攻で飲み始める。
「くぅ~。まずい!」
水袋に入れた水は、適度に温まり、皮の香りがしみ込んだ、何とも言えない不味さを醸し出していた。