もうすぐ鐘が鳴る
「あら、ごきげんよう」
声を掛けてきたのは同年代のリンクルだ。花屋の娘だが、メイジの才能があったため、軍からの熱烈な勧誘を受けたらしい。ちなみにこいつも本日の試験に参加する、はずだ。
「おはよう、リン。犬の散歩かい?」
「そうよ、私の日課だもん!」
巷では花屋の看板娘と言われており、普通に実家を継いでもそこそこやっていけそうなのだが、軍の方が安定した収入が期待できるため、一旦は軍に入るらしい。将来的には「花屋をしながら気楽に生活したいわ~」と言っていたが、お前、実家をなめるなよ?おじさんたちの仕事ぶり見てるだろ。
箱入り娘の典型だな・・・。
「で、今日の準備は済んだのか?」
「えぇ、パパが準備してくれたわ。」
「その服装じゃ行かないよな?着替えに帰るなら急げよ?」
「えっ、も、もちろんよ!この格好じゃ、あれよね!」
こいつ、まさか、フリフリのドレスで城壁外に出ようとしてたのか?
犬は連れて、行かないよな・・・。
「そうだな、動きやすい服装が良いぞ、まぁ、メイジ志望ならローブとかでもいいと思うが、フリフリは止めとけよ。」
「もちろんよ!ママが用意してくれてるわ!・・・多分。」
「じゃあ、そろそろ帰って着替えな。俺は準備が終わってるから、もう少し走ったら集合場所に向かうよ。」
「わかったわ!じゃ、後でね!」 「メロス!走るわよ!!」
彼女の家は、7年前の魔獣襲来で被害を免れた区画に有った。そのため実家もあり、仕事もある。
俺が救出されてから軍にお世話になるまでの間、師匠の伝手で居候させてもらっていた事がある。
とてもいい家族だったので、俺的にはリンが軍に入ることを勧めはしなかった。戦いの際のメイジは、後方からの支援が主だが、メイジを警戒する者たちは先に後ろを襲撃することも少なくはない。決して安全ではないのだ。しかし「剣で切りあう方が100倍危険でしょ?」と論点をずらしてほほを膨らませてくる。
「ま、何かあったら、おじさんに申し訳が立たないからな~。」
メロスに引っ張られて走るリンを見送ると再び足を進める。
しばらく走って林道を抜けると、広場の辺りで人だかりができていた。
時間も気にはなったが、朝早くからの人だかりも気になるので、情報収集をすることにした。
「何かあったんですか?」
「あぁ、なんでも勇者様が出発なされたそうで、一目見ようとやってきたんだが、どうやら一足遅かったらしい。」
「勇者、様?」
「そう、勇者様だ。遥か遠い地からこの王国を助けに来てくれたそうな。」
「へぇ、立派なお方もいるもんですね~。強いんだろうな~。」
わざわざ王国を助けに、遥か遠い所から・・・。なぜ?
と考えていると、隣に立っていたおばさんも割り込んできた。
「そうなのよ~。とっても強いらしいのよ~。明日から暫くは、森の獣の肉が安く出回りそうね~。」
「そ、そうなんですね~。すごいですね~。」
周りのおじさんおばさんが、話に割り込み続け、広場が勇者談義で盛り上がってしまったので、情報収取はここまでとしよう。
「勇者様か・・・。あれ、肉?まずくないか?」
試験中の食料の事を思うと、不安しかない。
急いで宿舎に帰って食料(予備)を追加で投入すしていると、2つ目の鐘が鳴り響いた。急げ~!




