消えたい男
・・・チッ!なんでこんな所に赤い悪魔が居やがる・・。
俺は、コサンド王国の国境付近を目指し馬を走らせてきた。
仕事で各地へ向かったことがある俺だが、こっち方面はまだ来たことが無かった。
既に乾季に入っているというのにこの寒さだ。今にも雪が降りそうな分厚い雲が揺蕩っている。
ロゼッタの奴に活力を奪われた状態で放置されなければ、もっと早くここまでこれたのに・・・。あいつの遊びに付き合うんじゃなかったな。
ふと前方をみると、遥か前方に土煙が見えた為、念のため街道を外れ、高い樹の上に登った。
・・・のだが、まさかその土煙の正体が奴だったとは・・・。
「ついてないぜ・・・。」
囁くような独り言をつぶやく。
今もし、闘いになったとしたら、逃げきれるかどうか・・・いや、逃げ切れないだろうな。
赤い悪魔は、怪しげな魔道具に跨ってこちらの方へ移動してきている。
・・・あれは、確か・・・。クロウ・イロン王国で使われていた魔道具か・・・。
持って来たのか?
正直、見た目の悪さとバランスの悪さで敬遠されている魔道具を、こんな所で乗り回しているとは思わなかった。
俺はこんな状態だ。やり過ごす以外の手はない。
俺は、樹の上で、静かに赤い悪魔を見下ろす。向こうからは葉が邪魔して、こちらを見る事は出来ないだろう。
殺気も出さず、気配も殺して・・・と。・・・?なぜ立ち止まる?!こっちを見ているのか?
赤い悪魔の視力は化け物並みだと、報告で聞いた事があったが、この状態で見つかることは無いだろう。・・・いや、ない。絶対に無い・・。
無いと良いな・・・・。無いよね?
しかし、赤い悪魔はこちらをじっと見つめてきている・・・。
と、腰の辺りから短弓を取り出した。
あいつ!弓も使えるのか?
確かに、冒険者を続けるのであれば、剣だけでは苦労する事も多いだろう。
弓も使えて当然という所か・・・。
赤い悪魔は、短弓を俺に向けると、目に力を入れ、殺気が膨れ上がった。
まずい!やられる!!
そう思った時、俺の頭上辺りから、大きめの白い鳥が飛び立った。
それを合図にしたように、赤い悪魔は矢を発射した!
放たれた矢は、狙い違わず白い鳥に突き刺さり、鳥を地面に引きずり降ろすことに成功したようだ。
「よし、今晩は鳥を焼いて喰おう。」
赤い悪魔は、鳥を確保しに魔道具を降り、矢が刺さった状態の白い鳥を回収していった。
・・・鳥を狙っていたのか。・・・殺されるかと思った・・・。
・・・怖かった・・・。
用心のため、少し高く上りすぎた事も有り、軽傷であってもこの高さから落ちると大変な事になるだろう。
赤い悪魔が去った事を確認した俺は、やっとの思いで木から地面に降り立つ。
力が入っていたのだろう。右腕のあった場所からは血が滲みだしていた。
「しっかし・・・。俺も運が悪くなったよな・・・。仕事は失敗するし、魔法武器は奪われるし、腕は切り落とされるし・・・・。挙句の果てには、腕を治しに来た旅先で、赤い悪魔に殺されそうになるし・・・。ん?いやいや、赤い悪魔の視界から隠れおおせる事が出来た事を考えれば、運気が巡ってきたのかもしれないな!うん!そうだ!!きっとこの先、良いことが有るぞ!」
そう考える事にした俺は、親方様から教えてもらった奇跡の泉探しを再開するのであった。
「・・・ん~。この鳥、今一だな・・。殺気を殺したアサシンっぽい奴が狙っていたから、よほど美味しいのだろうと踏んでいたのだが・・・。あの男、グルメじゃないな・・・。横取りするまでも無かったか。」




