雪が降る街
もう乾季だというのに、この地ではまだ雪が降っている。
雨季も過ぎた事もあって、水分の多い雪ではなく、サラサラとして積もらない程の雪が降っている。
しかし、馬で旅をしたとしても、雪が止む乾季の真っ盛りに到着するのだが、今年はこの魔道具のお陰で、こんなにも早く到着する事が出来たのだった。
「少し・・・早かったか・・・・。」
私は、シュイロボウソウギュウの赤い皮で出来たマントを羽織り、断崖に立っている。
対岸にはコサンド王国があるのだが、そこに至る街道が大きくえぐられており、人の力では到底渡ることが出来ない程の崖が、人の往来を妨げている。
「今年も・・・、橋は架かってないようだな・・・。」
私の旅の目的の一つに、コサンド王国が復興を求めて橋を架けていないかの確認を行う事だ。
現在は、辛うじて船を使った貿易が行われている様だが、デュアル様がえぐった大地のお陰で、海流が乱れてしまっている為、かなり遠回りをして、危険な遠洋にまで出ていかなけらば行けない様になっているらしい。
「さて・・・。」
私は魔道具から降り、魔道具に掛けていた大剣を引き抜く。
左足を大きく前に出し、体をひねる様に大剣を左肩にあてがう。
呼吸を整え・・・。気合いを溜める!
「ッダァッ!」
気合いと共に大剣を振りぬく。それと同時に右足を踏み出し、スピードの乗った大剣の勢いを殺さずに、袈裟斬りへと転じる。
ほぼ同時に繰り出した斬撃が、対岸へ向けて音よりも早く飛んでいく。
ボボフ!
暫く間をおいて、対岸に斬撃が到着したのだが、当たった音はするものの、何かが削れたり、破壊されるような事は無かった。
「やはり、この程度か・・・。」
この数年、やっと対岸に届くようになったのだが、まだ届くだけなのだ。
「私の斬撃が、やっと届く距離・・・その幅で、大陸を切り裂くとは・・・。」
改めてデュアル師匠の偉大さを思い知らされる。
私があの域まで到達するには、どの様な鍛錬をしなければならないのだろうか・・。
弟子などを取って遊んでいる暇など無いのではないか・・・。
「今一度、師匠に相談してみるか・・・。」
2つ目の目的を終えた私は、大剣を鞘に収め魔道具に乗り込むと、断崖に沿って進み始める。
幾人もの旅人が通ったためか、溝に沿って道が出来はじめているようだ。
「・・・あの辺りだったな・・・。」
遠目に見える丘の手前に旅人たちが休息をとる宿場町がある。
その場所へ向けて魔道具を駆る。
半壊状態の建物がいくつか残っているが、それ以外は野草に浸食されきっている。
「ここも変わったな・・・。レア・・・。まだ生きているのだろうか・・。」
遥か昔に逢えなくなった少女を思い出す・・。
ここには人の気配もなく、誰かに話を聞くことも出来ない。たとえ人に聞くことが出来たとしても、何年も前の事など覚えている人も少ないだろうが・・・。
「ん?これは・・。」
半壊の建物の横に石が積まれており、そこに花束が置かれている・・・というより置かれていたと言った方が良いだろうか、雪でしおれた花束が石にへばりついていた。
「誰かが見舞ったか・・・。」
この宿場町は、その昔、山賊に襲われて廃村となったのだ。
私の一番嫌な記憶が眠る地・・・。忘れられない思い出・・・。忘れたくない人・・・。
私はやっと冷静にこの地を眺める事が出来る様になってきたのだが、リアはまだ来ることを拒んでいる。
「無事でいてくれ・・・。」
悔恨の念と自責の念をこの地に残し、私は帰るべき場所へと足を向ける事にした。




