旅立ちと別れ
師匠が持っていた情報は、決定的な何かではなかったが、今の俺の状況から動くための切っ掛けには十分だと思う。
「コーギは故郷へ戻るのか?」
「・・・。ええ、母の薬を買いに出かけたはずが、数年間家出していたとは思わなかったからね。心配で・・・今すぐにでも向かいたいと思っているわ。」
「わかった。サンタスは今後、どうする?」
「俺は、俺は街を出る!人の記憶を奪って、良いように操ろうとする国のお膝元なんかに入れるかよ!もう、旅の準備はできてるぜ!」
「そうか、ギニンは・・・。」
「・・・。」
辺りを見回しながら無言で頷くギニン。取り戻した記憶でサンタスの悪影響も感じながらも、国への信頼は無いようだ。
「ビルット、お前はどうする?」
「俺か・・・。別に、どうでも良いんだが、操り人形は・・・気分が悪いな。」
「そうだな。で・・・。リンはどうする?」
俺たちの中で、唯一この街に家族がいるリンにとって、街を出る事は抵抗があるのではないだろうか?
俯いて、もじもじしながらリンはゆっくりと話を始める。
「私、はね。私は、家族と離れたくない。でも、アルたちとも一緒に居たい!どぉしたら良いんだろ・・・。」
「・・・・。」
勿論、だれも答えを出すことはできない。自分の事を他人が決めたところで、必ず将来に後悔を残すことになる。なぜあの時、あのような判断したのか、と。
それを他人が決めていた場合、怒りの矛先はどうなるのか?
それが分かっているが故に、言葉に出せないのだ。
「リン、お前は俺たちに決めてほしいのか?」
「そうじゃない!けど、どうしたらいいのか、どうしたいかが分からないのよ!」
「分かったわ、私が悪者になろう。リン、あなたは残りなさい。」
「え?」
コーギの思いがけない一言に、リンは顔を上げた。
「私は、親元を離れ、というか意図せず離されて安否も分からない。とても最悪な気分なの。でも、あなたは、今のあなたは、昔の私とは決定的に違う!
あなたの両親は健在で仕事ができている。あなたは呪いが説かれ、魔法の使い方を思い出した。そしてその魔術を鍛えることで、呪いを跳ね返すことも可能なはず!か弱い無力で無知な少女じゃないのよ!!」
「おい、そんな言い方・・・。」
「そう、だよね。ごめんね。変な事言いだして。・・・私・・・ここに残る。」
「リン!」
コーギの言葉で何か吹っ切れたのか、それとも自棄になったのか。リンが居残りを決意した。
「リン、そんな急に答えを出さなくてもいいんだ。」
「ううん、違うの。私、コーギちゃんの言葉で思い出したの。私、魔術を使えるのよ!抵抗力も強くなるの!だから、呪いに影響を受けずに、この街に居れるの。・・・そしたらね、みんながこの街に帰ってきた時、その時に事情を知っている人や味方がいた方が良いじゃない?だから・・・私は残る!」
コーギちゃん、ありがとね。と微笑み、リンは決意を固めた。
揉めるかと思った話し合いも、それぞれの思いの形が決まりまとまりを得た。
「じゃぁ、俺はみんなを壁の外まで、見送ればいいのかなぁ~?」
「「「「!!!」」」」
「おっさん!いつからここに・・・。」
誰も気が付かない内に、俺たちの背後に座っていたおっさんことザスタが声を掛けてきた。
内心「まずい!聞かれた!!」と思ったが、おっさんの発言はどういう事だ?
「ん~?リンクルちゃんと一緒に入ってきたよぉ?ギニン君は気づきそうだったけど、おしかったねぇ。」
「ちっ!」
「で、軍には入らないのかなぁ?」
「だったらどうなんだ!あんた!何しに来たんだ!!」
警戒状態でおっさんを睨みつける。リンを除く全員が今にも飛び掛かりそうだ。
「ちょ、ちょっと~。みんな怖いからやめようよぉ~。俺の話を聞いてたぁ?壁の向こうまで送るって言ったんだよぉ~。敵じゃないよぉ。」
「おっさんは、軍に所属してるんだろ?そんなんで良いのか?」
「別に良いんじゃないかなぁ?ローエム小隊なんて弱小だし?軍の予算も回ってこないから森でレンジャー暮らしだし?個人的には軍隊なんておすすめしないさぁ。」
若い子には死んでほしくない、と、小声でこぼして苦笑いをした。
「今日、遅くても明日の朝に出発すれば、色々ごまかせそうだしねぇ。」
「おっさん、すまない。おっさんの力でごまかしてくれるか?」
「お~けぇい~。君たちには、壁の外、街道の向こうの森で、死んでもらおうかねぇ~。」




