それは7年前、突然の出来事だった
あれは7年前、雨季が終わり、人々が乾季に向けた準備を始めるころだった。
俺はメグや仲間を連れて、薬師団の護衛として王国外縁部、隣国との境に横たわる大森林に来ていた。俺は25歳、メグは21歳で、生活の為と、小隊のランクアップ要件を満たす為のいつもの活動だった。
「まだ湿気が多いな。メグ、魔獣が出ても落ち着いて、使う魔術は選べよ?」
「ちょっと、だれに言ってんのよ!この、わ・た・し・が!そんなヘマをするわけないでしょ!!」
「ん?この間の演習でお前の同期の、あいつ、何とかってやつが燃やされたって言ってたぞ?」
「はぁ?そんなねぇ、魔獣とメイジの間に飛び出てくるような軽率な行動をするほうが悪いでしょ!第一、私が呪文を唱え終わるころに、「ここは任せろ!」って割って入ってきたのよ?あいつ等が悪いのは明白じゃない。」
「あいつら、って、一人じゃなかったんだ、燃やしたの・・・。」
「どーでもいいでしょ~。馬鹿な行動しなけりゃ当てないわよ。」
「あぁ、当てたんだ・・・。当たったんじゃないんだ・・・。」
「さぁね!」
「お前、団体行動、ほんっと苦手な。薬師団には絶対に当てるなよ?」
「わかってるわよ、薬草があるから炎系は使うなって釘刺されてるし。」
「頼むぞ、小隊の昇格に影響するんだ。」
「はいはい、まぁ、そんなに頻繁に・・・。ねぇ、あれ、何?」
メグは空の一点を見つめて意識を集中している。
「ん?黒い霧?羽虫の大群か?」
「嫌な感じがするわね。行くわよ!」
「ちょ、まだ任務の途中だろ!薬師団はどうする!どこに行くってんだ!」
「そのくらい自分で判断してよね!私は街の方へ向かう!多分ここの方が安全なはずよ!」
「おい!」
メグはそのまま走り出していった。俺が知る限り、メグの予感が外れたことはない。きっと大ごとになるはずだ。俺はすぐに薬師団と話をして、しばらくここに残留すること、護衛を5人残していくことを告げて、残りのメンバーとともにメグの後を追った。
城壁の一部が見え始めたころ、空に浮いていた羽虫のような物はなくなっていた。
「あれは、なんだったんだ?」
「おい!ザイール!城壁が黒くなっていないか?」
仲間の言葉に目を凝らすと、城壁が黒く蠢いている。
その中心部に赤い光が輝き、一拍おいてから爆炎と変わった。さらに一拍おいてゴゥンという爆裂音が響き渡る。メグの魔術だ。
魔術の衝撃が城壁の黒いものを吹き飛ばしている。・・・もちろん城壁も無事ではなさそうだが・・・。
「魔獣だ!急げ!」
黒く蠢く物体を魔獣と認識した俺は、仲間に指示を出しさらにスピードを上げる。
城壁では2発目の爆炎が魔獣と城壁の一部を焼き飛ばしている。
魔獣が識別できる距離まで近づいたときに3発目の爆炎が轟いた。仲間の数名がその爆炎の衝撃で足を止めた。
「遅いわよ!火に弱そうなやつは大体焼いた!まだ息があるやつの始末は任せるわ!」
メグの魔術で焼き切れていない魔獣は大型の物がおおいな。エストックでは不利か・・。
そう判断した俺は、近場の城門へ向かう。
門兵は勿論いない。逃げたか、殺されたか・・・。
俺は門兵の詰所に立て掛けてあるバルディッシュ(槍)を拝借してメグの後を追った。
少し走ったところでメグを見つけた。
「大丈夫か!」
メグは街を見て呆然としている。
「これ、どうしろっていうのよ・・。」
俺たちの目の前にはなん十体もの魔獣が街を荒らしている。何かを探すように・・・。
王国軍も出動し、討伐が開始されている。近場ではロウエフ小隊の騎馬隊が大型魔獣を追い詰めてはいるが、数の上ではまだ魔獣が優勢だ。
「メグ、土魔術で魔獣を拘束してくれ!」
「え、えぇ・・・。大地の理をこの手に・・アースバインド!」
昼前に始まった闘いは、夕刻まで続き、街の4割を守ることができた。
その後、エフジェイ大隊が中心となり、壊滅した街の捜索が始まったため、俺たちも生存者を探して街を歩き回るのだった。
前回の魔獣の攻撃で両親を失ったメグは、怒りと悲しみの入り混じった表情で必死に探索を行っている。俺も気持ちは同じだ。こんな惨状は二度と見たくはないと思っていたのに・・・・。
「・・・・。」
「何か聞こえた!メグ!こっちだ!」
かすかな音を頼りに瓦礫の山を慎重に歩み進める。
「た・・て・・。」
どうやらがれきの下に生存者がいるようだ。
「メグ、瓦礫をどかすぞ、頼む!」
「大地の戒めを解き放て・・・ディクリーズ」
メグの魔術の確認をすると同時に瓦礫をはねのけると、太い柱の僅かな隙間に挟まるような形で倒れている少年を発見した。
それがアルバートとの最初の出会いだった。




