もうすぐ出来ると思うんだけど
俺たちが居住地を建設している間に、伝書鳩を飛ばしている。
なので、5日後には最初の移民団が到着すると予想される。
「アンクリウスさん。あそこの大き目な小屋は何に使うんですか?」
「あぁ、あれはですね・・・。初回の移民は、孤児とその保護者や薬師が複数名来る予定なんです。なので、集団で過ごせる場所があった方が良いかと思いまして・・・。」
「なるほど、子供用だったんですね。」
「今回来るメンバーは、全員がこの小屋で過ごす予定ですが、薬師だけはあちらの小屋を使う予定です。」
「薬師ですか・・・。こっちの方ではあまり見かけませんよね?」
俺は聞いた事が無いので、ロア師匠にも聞いてみようか。
「そうだな。薬師よりも神官や魔術師が人の体を治しているからな・・・。薬師の需要は少ないな。」
「なぜ、薬師なんでしょう?」
「それはだな・・・・。彼らが迫害された時に、神の信仰を失ったからだ。」
「失った?」
「あぁ、昔から僅かながら獣神官は存在したんだが、囚われの身になった数年後には神を信じられなくなったんだ。」
「なるほど・・。」
迫害されたり、奴隷として扱われるという事は、信仰までも捨てさせられるほどの厳しい状況だったのであろう。
多少の苦難であれば、神からの試練と捉えて、希望を見る事は出来るが、希望を遥かに超えた絶望が彼らに襲ったのだ。
そこから救い出したのがデュアル様やハンナ王妃だったのだ。王や王妃に絶対的な信頼が植え付けられただろう。
「移民にょ護衛は誰が来るにゃ?」
「それなら、俺の兄のカンディンが来るらしいよ~。」
「そうだったな。あぁ、コロネやチュロは大人しくしていると良いがな・・。」
ハンマーを地面に立てて、軽く寄り掛かったアンクリウスさんが、仲間がいるであろう北西の空を眺めて呟いた。
北西にある山には、いまだに雪が降り続いているが、問題なく来ることは出来るのだろうか。
「アンクリウスさん。ここに向かうのって、どうやって移動してくるんですか?」
「基本的には商人と同じ様にコーチやキャラバンで来ると思いますよ。さすがに数日間の旅では野宿続きだと疲れますからね。大き目なテントなんかも持ってきているはずですよ。」
「こっちの準備が無ければ、俺たちが迎えに行っても良いんですけどね。」
「いえいえ、これも今後の訓練になりますから。」
作業を再開したアンクリウスさんに合わせて、俺も杭打ちの作業を再開する。
「ロア様。おれモ杭づくりに廻ります~。」
「そうか。では、先端を削るのを・・いや、割る方がお前に向いているか・・。頼もう。」
「師匠。あと50本くらいで杭は終わりそうです。その後は丸太を積んでいく感じですかね?」
「そうだな、板では心もとない。岩でも良いが、この草原では岩を探すのも一苦労だ。」
「・・・師匠。これこそ精霊ので番じゃないでしょうか?ノームに頼んで石壁ってのもありですよ?」
「いや、石壁はよほどの厚さや高さが無いともろいものだ。ドライアードに茨を作ってもらった方が良いかもしれないな。」
少人数での建築作業は、魔術や精霊術が重宝される。しっかりとした杭を打ち付けたのであれば、茨を巻き付けるのでも効果は十分出そうだ。
「この辺りで試してみましょうか。」
既に打ち終わっている杭を前に、ドライアードを呼び出し茨を作ってもらう。
「ドライアード、ありがとう。」
木の精霊が笑顔で手を振り、茨の中へ消えていった。
「ロア師匠、どうでしょうか?」
「ふむ、そうだな。野獣や雑魚妖魔の類であれば十分だろうな。人間を相手にした場合は、どうだろうな・・・。剣で切られたり、火を放たれたり・・・。」
「凄い!!急に草が生えてきた・・・凄まじい術ですね。」
「これが精霊術って奴ですよ。・・・しかし師匠、そこまで考えると、城壁の様な巨大な建造物になってしまいますよ?」
「それもそうだな。タラレバを考えていたらきりがない。よし、この茨の柵でいこう。」
精霊魔法は禁止と言われながらも、生活に関しては精霊魔法は欠かせないものになっている。
「す・・すごいにゃ!草が生えて来たにゃ!!」
「共和国でモ、見る事は出来ない術だな~。」
こうして移住地が着々と出来上がっていった。




