リンの日常
「だいぶ話し込んじゃったわね!すぐ追いかけるわ!!」
そう言うとルーナは自分のマントを小脇に抱え、ドアを蹴り開ける。そのまま正面の窓を開けダイレクトに外へダイブした。
「あ~、あれなら大丈夫だ、多分、もう追いついただろう。」
ズべッ!という音がかすかに聞こえた。
「あれ~、ルーナさんが降ってきたぁ!」
木ノ葉亭の玄関から数歩先、焼き鳥の屋台で鳥串を買い、3本目の串を頬張りながら驚くリンがいた。
華麗に二階から飛び降りたルーナは、リンがまだこんな所にいるとは思わず、思いっきりこけてしまった。
「あっ、あれ~、リンクルちゃん?まだここにいたの?」
「うん、ここに入る前に、鳥串がおいしそうだな~って。」
「そぉ~ぉ。ちょっと用事があるから、一端部屋に戻ってくれるかな~。」
「いいよ!」
ルーナさん、笑顔が引きつってる。こわいよ。
「はい、いいよ。リンちゃんは、フケが出ない呪いをかけておいたよ!んで、これ、ネックレス。つけておいてね!」
「ありがとう!ぅあ~!きれ~!」
「リン、もういいぞ、そろそろ軍への報告を頼む。サンタスとギニンが重傷だ。俺たちは看病のため、数日は軍本部へはいけない。」
「わかってるよ。ちゃんと伝えておくから。」
「あと、あれだ・・。」
「なに?」
「合格者への一時金があったら、ついでに貰ってきてくれ、ないか?」
「はいは~い、わかったよ。」
じゃ、行ってくるね!とリンが外へ出ていった。
一応確認のため、窓からリンの動きを見てみようか・・・・。
鳥串!!!
どんだけ好きなんだ。普段は食いしん坊キャラじゃないのに、鳥串だけは違うらしい。はよ行け!
「サンタス、おきないな~。」
サンタスの頬をぐりぐりしながらビルットがつぶやく。どんな記憶を見ているのだろうか。少しニヤついた表情がむかつく。
逆にギニンは、かなりつらそうな表情だ。呼吸が荒く汗もすごい。
「ルーナさん、さっきのマインドヒール?ってやつをかけてやった方が良いんじゃないでしょうか?」
コーギの提案に、「そうね」と一言つぶやき、むにゃむにゃと呪文を唱え、マインドヒールをかけた。
ギニンの表情はあまり変わらないが、呼吸は正常に戻ったようだ。
「マインドヒールって、どんな効果があるんだ?
「これはねぇ、心の傷を癒すのよ。」
「そんな事が出来るのか・・。確かに、俺も記憶の中で、暖かい何かに包まれた後、気分が楽になった気がする。」
「あ、俺も!誰かが呪文をかけて、暖かくなったなぁ。焚火みたいになってた。」
俺とビルットは同じ効果が出ていたはずだが、受けた印象は違ったようだ。
「寝ている人にかける精神魔術だからね、効果があなたたちの記憶と結びついて映像に現れたのよ。」
「なるほど、俺はメグって人が回復魔術をかけてくれていたな・・・。」
「!メグ!!メッ、メグ!?」
「どうした?変な発作か?」
「メッ、メグさんに会ったことがあるの!どこで!いつ?!」
「記憶の中、多分前回の魔獣襲撃の時だから、七年くらい前か・・。確か、この街の広場になっている辺りだったはずだが。」
「なっ、七年前・・・。じゃ、じゃあ、今は居ないのね?いないのよね!」
「あれ以来、一回くらいだったかな?顔を見たのは。」
「それはいつ?」
「えぇーっと、師匠が収監されてすぐだから、二か月は経っていないと思う。」
ルーナの顔色が死人の様になっている。ギニンよりもすごい汗、荒い呼吸。この人こそマインドヒールが必要なんじゃないか?
「わ、わたしは!」
「?わたしは?」
「居ない!ここに居ない!・・・ディグに伝えなきゃ・・・。逃げなきゃ・・ヴァールに伝えなきゃ・・・。逃げ・・。アンナ・・。たすけ・・。」
ルーナは一瞬気がふれたように見えたが、すぐに元に戻る。
「機会があったらまた会いましょう。その二人は夕方には目を覚ますわ。・・・さょなら!!」
メグさん。ルーナに一体何をしたんだ。




