木ノ葉亭の新年
木ノ葉亭の姉妹店である二葉亭を後にして、ロア師匠を探して木ノ葉亭に戻ってきた。
「いやっしゃ・・・あら、お帰りアルバート君!」
街中は結構賑わっていたが、木ノ葉亭のなかもかなりの賑わいを見ている。
この人たちは、普段はどこにいるのだろうか?
日頃から気だるそうに仕事をこなしているクローディアさんも、ホールを歩き回って注文を処理している。
「おばちゃん!ロア師匠は見なかった?」
「さぁね!朝早く出かけて行って、まだ帰ってきていないよ?」
おばちゃんは、焼き立てのチキンステーキを皿に盛りながら答えてくれた。
「ここで飲んでれば、そのうち来るわよ。・・・ほら、階段わきのテーブルが空いているから座んなさい。」
クローディアさんが、空いた皿とジョッキをもってカウンターに帰ってきた。
「じゃぁ、そうしようかな・・・。おばちゃん!そのチキンステーキ、おいしそうだから、俺にもちょうだい!」
「あいよ!座って待ってな!」
・・・・って、階段わきのテーブルって、いつも桶が置いてある場所じゃん!
座る場所すらないんですが・・・。立ち飲み屋状態ですね・・・。
「はい、お待ちど。」
「クローディアさんは休まないんですか?」
「あぁ、今日は書き入れ時だからね。休んでらんないわ。」
クローディアさんがチキンステーキとエールを持ってきてくれた。
・・・香ばしく焼けた鳥肉が、冷えたエールによく合う!
「クゥ~!!!」
「お!旨そうだな!」
声が耳に届く前に、俺のチキンステーキがひと切れ奪われた。
「ロア師匠!お、おめでとうございます。」
「あぁ、今年もよろしくな。」
「所で、師匠は朝からどこに行ってたのですか?」
もう一切れチキンステーキを頬張りながらロア師匠が答える。
「朝から・・ていうのは・・・ちと・・・違うな~。んぐ。」
「違うとは?」
「昨日の夜から飲んでたんだよ。ここで・・・。で、外で出店が始まったから色々廻ってんだ。」
「で?」
「で?とは?」
「寝ずに遊びまわっていた・・・と?」
「フッ・・・経済を回していたのだよ・・・。」
変なポーズで恰好を付けるロア師匠。酔っぱらっているのか、寝ていない事でのハイテンションなのか・・・。
「そう言えば師匠。この辺りでは見る事がない獣人が来てましたよ。」
「あぁ、そんな奴らも居たな・・・。一時は絶滅寸前だったんだがな・・・。」
「デュアル様のお陰で助けられたとか・・・んで、この国内に移住する計画もあるらしいです。」
「そか・・・。また、迫害が無ければいいんだがな・・・。」
ロア師匠が少し遠い目をした。何かを思い出したのかもしれないな。
階段にもたれかかって、目頭を押さえている・・・。
「よほど・・・、過去に・・何かあったのですね?」
「・・・。」
「師匠?」
「ぐぅ・・・。」
「・・・。」
昨日から飲んで騒いで遊びまわっていたから・・・寝ちゃったのね・・・。
俺とクローディアさんで、ロア師匠を2階の部屋に運び入れ、ベッドの上に放り投げておいた。
「アルバート君。お疲れ様。」
「いつもの事ですから・・。」
客の入りが落ち着いてきた木ノ葉亭で、俺は夜までのんびりと過ごすことにした。
夕刻には疲れ果てたサンタス達が夕食に来ていたが、食事も喉を通らない様で、エールばかりを煽っていた。
外が完全に暗くなった時には、魔術学院のメンバーが、夜空に向けて爆裂魔法を放ち、夜空を赤く染め上げていた。
爆裂魔法の音で起きてきたロア師匠、一仕事を終えて食事に来たメグ・リアさんとリンクル・・。
新年の初日は、賑やかに過ぎていった。




