二人のは永い眠りに就く
「「ぎゃーーーーーーーーー!!!!」」
木ノ葉亭の二階、一番奥の部屋に絶叫が響き渡った。
ルーナが二人に解呪を施した直後の出来事だ。
「俺も、こんなんだった?」
「ここまでじゃないよ。これが下で起こっていたら、すごい騒ぎになっていたと思う。」
一体何回記憶操作をされたのやら・・・。
ルーナがマインドヒールをかけている。が、三回目のヒールで手を止めた。
「ふぅ、もう限界!」
「え・・・。大丈夫なのか?」
「早く起こそうと思ったら、もう少し回復しないといけないけど、ちょっと休ませて。」
そう言うと、ルーナは椅子に腰を下ろし飲みかけのエールを流し込む。
「っは~。ったく、なんなのよこの国は。歪んでるわね。」
「しかし、国はなんで記憶の操作をし続けるんだろう?」
ビルットは記憶をたどりながら疑問を口にした。確かに、国の影響で魔獣が襲ってくるのなら、国を挙げて原因対処に当たるべきだし、襲撃をわかっていながら後手に回るのも意味が分からない。おそらく、俺たちの記憶が戻ったところで、王国の秘密を知ることは難しいだろう。まったく、国の上層部は何を隠しているのやら・・・。あれ、何か忘れているような・・・。
「そういえば、呪いって結局なんなんだ?」
「呪いって言っても色々あるのよ。例えば、薬と同じ。体に良い薬でも、使い方を間違えれば体に悪影響を及ぼす。呪いも同じよ。呼び名が違うだけなの。場合によっては呪術と言ったり、寿命を延ばす類の呪いは寿術とも呼ばれているわ。」
「じゃあ、基本は魔術、って事なんだ・・・。」
「そうね。人が認識しやすい呼び方にしているだけね。」
「そういえば、さっき一階で見習い神官がサンタスに回復魔法をかけてくれたけど、あれも同じなのか?」
「う~、根本的には違うわ。体を癒す魔法は私も使えるけど、神官が使うのは【神術】と呼ばれていて、何かの力を借りて行う術なの。私が使う魔術は、自分の精神力や身の回りの僅かなエネルギーを混ぜて使うんだけど、神術は精神力と、得体のしれないものの力を借りているの。」
「神術って言うくらいだから、神の力じゃないのか?」
「神ねぇ、私は見たことも無いし、神様に助けてもらったことも無い、と思うから信じていないけど、信仰心溢れる人にはそう思えるんでしょうね~。」
「で、ルーナくらいのメイジになれば、魔術を感じたり、抵抗したりする力が一般人より強くなるってことか・・。さすが勇者パーティーだな・・・。」
「まぁね、勇者って、正直、違和感でしかないけど・・・。」
「?どういう事だ?」
「だって、勇者って騒いでるのはこの国だけよ?私たちは単なる高ランク冒険者なんだから・・・。」
しかし、遠方よりわざわざこの国を救いに来てくれたのは、勇者といえる行動じゃないか?と思っていると、コーギが割り込んできた。
「では、どういった方々なのですか?」
「私たちは、国を持たない放浪者と呼ばれる冒険者なの。そういえば、コーギちゃんの故郷を拠点にしていたこともあったわ。」
「!いつですか!町の様子はどうでした?」
「あそこはいい町だった。辺境といえる場所にありながら、自然の恵みにあふれ、街の人もいい人ばっかりだったな~。冒険者を辞めたら、あそこに住みたいくらいよ。
ちなみに、一年前の事だけどね。」
「どう、ですか・・・。」
「落ち着いたら帰ってみたら?」
「はい・・・。」
コーギは故郷を想うように天井を見上げている。そんないい町だったら、俺も行ってみたいな。と、思いながらも何を忘れているのかが分からない。こういう時はいっそ諦めるのが簡単なんだが・・・。
なんだろう?
「じゃ、みんなの呪いも解除したし、今日はゆっくり休もう・・・。」
「あ!」
「あ?なに?」
「呪いって見えるんだよな?」
「そういったけど、もう忘れたの?」
「いや、ほら、リンが・・・。」
「・・・あーーー!呪いを解いただけだった!!」




