前略、檻の内側より
俺の名はザイール。王国軍ハイエル小隊の隊長だ。
平民の家に生まれながらも中々の出世をしている。すごいだろ?
まぁ、今は俺専用の個室で只々時間をつぶしているだけだが・・・。
【忘却】の魔法は定着まで時間がかかるらしい。かけられた直後に記憶を失うのだが、ちょっとした会話や風景を見ることで記憶が戻ってしまうらしいのだ。だから解放までは【制約】の魔法で様々な言動が制限されているんだ。まったく、面倒な・・・。
今回俺は、・・・何をやらかしたんだかは知らないが、多分、中隊間の小競り合いが原因だろう。どこの中隊もランクを上げることで必死だからな。
しかし、檻の中は暇すぎる。小僧の指導を終えても無駄な時間を持て余してしまう。
「なぁ、小隊長。」
隣の個室から声がする。
「俺、そろそろ出られそうだ、腕輪の光が消えかかっている。」
「そうか、それは何よりだ。あと1日ってところか?」
「そうっすね、小隊長はまだですか?」
「俺は回数を重ねているからな・・・。まだ光は消えそうにない。」
「この個人差は、なんなんでしょうね?」
「あいつの話によると、同じ魔法を受け続けると抵抗値が上がるらしい、だから定着まで時間がかかるんだとよ。」
「メグの姉さんですか・・。所で今回は姉さんは入れられてないんですかね?」
「あいつは軍が好きじゃないからな、しばらく王国内を見て回ってるらしいぞ?それより、姉さんって言ってると、また燃やされるぞ?同い年なんだろ?」
「そんなんで燃やされてちゃたまらんっす。他言は無用で・・。」
メグ・リア、俺の小隊の副小隊長で、軍では重宝されるメイジだ。希望すればアイ中隊に所属できるものを、「忙しいのはいやだ」「自由でいたい」などと言って俺の周りをウロチョロしている。周りからはいろいろ言われているが、まぁ現状ではただの妹分だ。
「いつもなら、そろそろ面会にきてもいい頃なんだがな。」
「・・・えっ、脅かさないでくださいよ~。」
メグがアルバートと同じくらいの頃、あいつは魔獣の襲来で家族を殆ど失っている。まぁ、俺もアルも似たようなもんで、従軍している奴らの大半は魔獣により何らかの影響を受けた奴らだ。人口が激減したこの国では、だれもが助け合いながら生活している。そんなところも【しあわせの国】と呼ばれている所以かもしれない。
「おい、ガイン。外に出たら入隊試験の直前だ。危険度の高い魔獣の排除を頼むぞ。」
「えぇ、毎年の事なんで大丈夫です。それに、この辺の魔獣なんて定期巡回で潰してますから、大した奴は出ないはずです。」
「気を抜くなよ?7年前も誰も警戒していない状態であの惨劇だ。常に警戒を怠るな。」
「了解です。」
魔獣は定期的に排除することで、暴走は起こらない。はずなんだ。しかし、過去2回、俺は魔獣の暴走に遭遇し、生き残っている。
「あの時も、凄まじかった・・・。」
7年前のあの暴走、アルバートとの出会いをふと思い出した。