山小屋
俺たちを手招きして誘導していたおっさんが、山裾にある小屋の中に俺たちを誘った。
「はよ。こっちゃこ。」
「はやく、こっちにきなさい、ってことですわね?」
「多分、そうだと思う。」
おっさんの発言には、いちいち脳内変換が必要になって来るので、意思の疎通が難しい。
ガンドラ地方の方言なのだろうが、すでに古代語と現代語の差ほどの難易度が有るといっても過言ではない。・・・いや、言いすぎか。
「ちゃぁ、そっこらっぺにさあっけ。」
何だろう、とりあえず寒い風が入らない様に扉を閉める。
「ほり、さあってっけ。」
「座りなさいって事じゃないの?」
旅芸人一座として各地を回ったミリアムでさえ、聞き取りが難しいようだ。
小屋の中央には、焚火用のスペースが設けられており、その周りには太めの丸太が無造作に置かれている。
俺たちは、ミリアムの言葉を信じて丸太に腰を掛けた。
「あんちゃ、ちゃぁのんけ?」
「・・・・。」
おっさんが、薪に火をつけようとしながら声を掛けてくる。火をつけてほしいのかと思い、サラマンダーを呼び出し、火をつける。
「!あんちゃ、まほーつけえっけの、ったまげったぁ。」
「えぇ、まあ。」
どうやらおっさんは、ミリアムの調子が悪そうなのを見かねて、休憩場所を用意してくれたようだ。
お茶を頂き、ほぼ聞き取れない言葉を只々聞く時間が流れる。
小屋の中で焚火にあたりながら体を休め、体温を取り戻す。
おっさんが兎肉のスープを作ってくれた。・・・ただのうすしお味だったが、結構な美味しさだった。
「おっちゃん、世話になったな。」
「おじさま。先程差し上げたお神酒は、ゆっくり飲むか、水で薄めて飲んでくださいね。」
「あぁ、っけの~。おっちゃさけっこつえ~から、へっちゃっちゃ。」
マリーさんがお礼にと渡したお神酒。一応注意は促したので大丈夫だと思うが、下手に飲んでしまえば昏倒し、寒い山小屋で命を落とす危険もある。
「あっちゃ。もっぺんまほーみせてっけの。」
「・・・。」
「多分、魔法をみせてって事じゃない?」
「あぁ、そう言う事か。」
この寒空の下、何の精霊を呼ぼうか・・・。
俺はドライアードを召喚した。
『ドライアード、すまないがこの小屋を補強してあげてくれないか?』
『えぇ、いいわ。こんな感じでいいかしら?』
ドライアードが手をかざすと、小屋の回りから蔓が伸びてくる。蔓は次第に絡み合い、太くなっていく。
小屋を取り囲む様にうねりだし、小屋の板の隙間等が埋まっていく。
「んげぇの。ちゃたいっけぇこやんなったなぁ~。」
小さな掘立小屋は、あっという間に立派なログハウスの様な小屋へと変わっていった。
『ありがとう。』
『また呼んでよね。』
正直俺も驚いた。こんな事が出来るんなら、道中のキャンプが楽になるじゃないか。
「アル君、すごいね。こんな事も出来るなんて。これなら夜の見張りなんていらないんじゃない?」
「そうかもな。森の近くなら、これで十分すぎるだろう。ドライアード、グッドジョブ!!」
おっさんに手を振り、小屋から離れる。
おっさんも手を振り、俺たちを見送ってくれた。
「アルバートさん、先程の精霊術は見事でしたわ。今日はあの魔法で同じように小屋を作ってくださるんですよね?」
「え、あぁ、そうしようかと・・・。」
「なら、今夜は飲めますね!」「飲みませんよ。」
少々食い気味に否定をしておいた。
「・・・・・・・・!!」
風に乗って何かの声が聞こえたような気がした・・。
男の叫び声の様な・・・。
気のせいだろうな。
俺たちはクロウ・イロン王国方面へむけて歩みを進めた。




