とりあえず麓まで
酔いどれ神官マリーが起き上がるまでに暫く時を要したが、その間に俺たちは狩を行っていた。
寒くなる前に栄養を蓄えようと、様々な動物を見かけたが、今回は鳥をしとめる事にした。
「あ~あ、熊の方が食べ応えが有ったんじゃないの~アルバート君?」
「あのな。俺のミスで逃がしたみたいに言うなよ?熊は割に合わないんだって。倒すにも少し危険だし、倒しても持ち運べる肉の量を超えてるだろ。」
「でもほら、鳥もとれたことだし、良いじゃない。ね?」
リンが丸焼けになった鳥を枝にくくり付けながらミリアムを諭す。
「でも、あれだね。アルバートの精霊魔法はかなり使えるね!もう、精霊術師一本で行けんじゃないの?」
「褒めてもらえるのは有難いが、俺は強い剣士を目指しているんだ。騎士道やしがらみに縛られる騎士ではなく、自由な剣士・・・カッコいいと思わないか?」
「あぁ、自由は良いよね。貴族や王族に仕えるのはちょっと・・・って思うね。」
俺も丸焼けになった鳥を枝に括り付けていく・・。全部で5羽の雉が獲れた・・・と言うか獲ってもらったかな?
サラマンダーを呼び出して、鳥が獲れるか聞いてみた所、あっという間に鳥を丸焼きにしてしまった。
精霊の力・・・恐るべし!
「あら・・・いい匂いですわね?」
「マリーちゃん起きた?」
「えぇ、ゴメンナサイね。祈祷の後はいつも眠くなってしまうんですの・・。不思議ですわ~。」
不思議ですわ~じゃないよ!っと心の中で突っ込みを入れつつ、神の啓示の話を進める。
「マリーさんが酒を飲んだ後・・・」「お神酒ですわ。」
「お神酒を飲んだ後・・すきにせよって言ったけど、それって、この周辺や山脈にはハンナ様が居ないって事で良いんだよな?」
「・・・多分、そうなるわね。あなたに声を掛けられた後、仲間内から権利を勝ち取って祈祷をしたのだけれど、その時は・・・かの者と共に妃をさがせ・・・だったから、神も現状をご存じなのですわ。」
「だったら、王妃の場所を教えてくれればいいものを・・・。」
「神は人に試練を与えるものなのです。」
マリーさんがまた天を仰いでいる。
「でもさ、お酒を飲まないと・・・」「お神酒ですわ。」
お神酒を飲まないと啓示がえられないって、ちょっと面倒だよね?」
「神と盃を介して情報を分かち合うのですから、当然の事なのです。」
まぁ、神の声が聞こえない俺たちには、異論を唱える事も出来ないわな。
「よし、じゃぁ、神の言葉に甘えて、山脈の麓沿いに進もうか。平原よりも狩がしやすいし、水の恵みも得られやすいし。」
「うん、賛成!」
「良いんじゃない?」
「そう致しましょう。」
マリーさんが寝ていた敷物を片付け、山脈の麓へ向けて歩き出した。
リーフ王国の国境を過ぎたから、もうここはガンドラ王国に入っている。
国が違えば法も違う。人に接する時には十分に気を付けていこうか。
「この山脈も、ガンドラ王国なんだよな~。」
「アルバート。何を言ってんの?ガンドラ王国は、山、そのものなんだよ?」
「山そのもの?山の上にあるって事か?」
「正確には、山の上にも、山の中にも・・・。だよ?」
「中?」
「そう、中。山をくりぬいて城を建てたり、洞窟を利用して町を作ったりって感じね。山の幸っていうより、鉱物の採掘が有名だよ。」
「へぇ~。昔の槌の民みたいだな。」
「槌の民もいるんじゃないかな?」
「ミリアムは意外と物知りなんだな。」
「ふふん。でしょ~。これでもチィリン王国、ガラシ王国、ガンドラ王国は何度も言っているわ。ほんとはシャナン・バラ王国にも行きたいんだけど・・・。ちょっと遠いしね。」
流石は元旅芸人の一座に居ただけはあって、近隣諸国の情報はある程度知識としてあるらしい。
ミリアムが頼もしいと思ったのは・・・うん、今が一番頼もしいと思っている。
夕焼けが西の山に落ちた頃、俺たちはようやく山脈の麓へたどり着いた。
大きな山脈なので、麓とはいってもなだらかな坂が続くようになってきた程度だが、草原からはかなり距離を開けた場所である。
今日はここで野営をするとしよう。




