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しあわせの国  作者: 狼眼


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不穏な影

マリーさんを神の世界から物理的に引き戻して俺たちはリーフ王国を後にした。

探索チームとしては最後の出発だ。


「アルバートさん、少し話が長いからって、ゲンコツは無いんじゃないですか?」


マリーさんが頭を撫でまわしながら抗議してくる。


「マリーさん、周り見えます?」

「え?えぇ、普通に、爽やかな朝の景色ですわ?」

「俺たちが出発したのって、空が白んできた頃ですよね?なんで爽やかな朝の風景が見えるんでしょうね?」

「ん~。ほら、朝って、時間が経つのが早いって事じゃないですか?」


うん。なんとなくわかった。この人、神様マニアだ。

神に関する話は振らないようにしておこう。


「所でアル君。この街道をずっと進んでいけばいいの?」

「そうだな。今、太陽が上がってきた辺りの山脈まで・・・街も無いようだな。」


先日、魔術の実権をしていた草原が少し先に見えてきた。


「ついこの間、ここでキャンプしていたのに・・・なんだか目まぐるしい変化に巻き込まれたな・・・。」

「今更何を言っているの?あんた、なんだかんだと色んな厄介ごとに巻き込まれてるのに。」

「ごめんね。私があんな魔術を使えなければ、こんな事にはならなかったのにね・・・。」


リンが足元を見ながら・・と言うより俯いた状態で謝罪をしてくる。


「リン。お前の影響がどれほどあると思うんだ?考えてもみろよ、あの夫婦。武器が大好きな旦那さんと魔術が大好きな奥さん。リンが居ても居なくても、いずれはこんな事が起こったさ。恐らく、今まで何度もこんな事が起こったんじゃないかな?デュアル様もそこまで取り乱してはいなかっただろ?ロア師匠が色々教えてくれたけど、あの二人、昔っからとんでもない事ばかりしていたみたいだからな。」

「うん。そう・・思っておこうかな?」


まだ下を向いたままだが、少しは元気になっただろうか?


「アルバートさん?あれ、何をしてるんでしょうか?」

「ん?・・・あそこは・・・誰かいる?」


あそこは確か、魔術の実験の時にリンが岩を召喚した場所?

細身の男性っぽい影が見える。


「一人か・・少し警戒しておこう。」


俺は手でリンとマリーさんに合図を送り、街道脇の木陰に待機しておいてもらう。

ミリアムと俺とで男性に近づいてみる。


「おはようございます。ここで何をなさっているのでしょうか?」

「・・・。」

「どうしました?」

「・・・あぁ、少し、地質調査を頼まれまして・・・リーフ王国から・・・。」


一瞬焦ったような雰囲気があったが、焦りの気配は・・・既に無い。


「という事は、先日の魔術の実験の・・あれですか?」

「あぁ、ご存じで!そうなんです。昨日の魔術実験の結果検証として、王様から頼まれまして・・・。」

「検証ですか・・俺たちは剣士だから、あんまりよく分かんないですが、大変そうですね?」

「えぇ、王妃様が魔術に造詣が深いという事で・・・王様も力を入れてるんでしょうねぇ。」

「それにしても、こんな朝早くからなんて・・・。」

「ほんとですよね~。昨晩、急に城の謁見室で指示されまして・・・ほんと、まいっちゃいますよ・・。」


男は困ったような笑顔で頭をかいている。


「へぇ、昨日の晩って急ですね~・・・で?・・・貴様、何者だ?」


俺は、腰のベルトに差し込んであるナイフを、男の喉元に突き付ける。


「な!何ですか?いきなり・・・。王様の依頼を妨害すると、後で問題になりますよ?」


男はゆっくりと立ち上がり、両手を上げる。


「お前が指示された王様って、昨日の夜は城に居なかったんだがな?さらに付け加えると、こんな場所を調査する必要も無いんだよ・・・。」

「へ、へぇ。王様・・・どこに行ったんでしょうねぇ?・・・そこのお嬢さんの後ろの人に聞いてみましょうか?」


!リン達が出て来たのか?

俺は一瞬、後ろに意識を奪われた。


「アルバート!前!!」


意識を前に戻す前に、俺の腕ごと蹴り上げられ、ナイフが吹き飛ばされた。

しまった!こんなバカみたいな手に引っかかるなんて!


「まったく、お前はいつもタイミングが悪いよな・・・。」


男の声が一段下がった。

どこかで聞いた様な・・・声・・・。


「すまんミリアム。」


俺は背中のバスタードソードに手を掛け、体制を立て直しながら剣を構える。


「タイミング?どういう事だ?」

「・・・俺の邪魔をするって事だ!!」


男は大きな針の様な武器を構えて襲ってくる。


「この武器!お前!」

「あの時のアサシンね!」


男の武器を見る事でチィリン王国での襲撃を思い出した。


「俺は・・俺たちはなぁ、一度狙った獲物を逃したりはしない・・。これまでは運だけで助かってきたが、もう、幸運は訪れないと知れ・・・。」


声の抑揚もなく斬りかかってくる。全くタイミングが分からない。


「ったく!斬りかかって来る時は掛け声くらい掛けろって!」

「ふん!素人め!」

「前回とは違って、私も居るのよ!」

「前回?・・そうだな、確かに前回もこの女は居たな・・・。」

「前回も?」


変な言い回しでこちらの意識を逸らそうとしているのか・・。


「呑気に街道沿いで商人と酒盛りしてただろ?馬鹿みたいに・・・。」

「?・・・!あの!あの毒!お前が・・・。」

「やはり気付いてなかったか・・・ど素人が・・・。」


アサシンが一歩引いて足に力を入れている・・・。暗器を使うつもりか!


「お望み通り、掛け声をかけてやろう・・・くたばべぇ?」


アサシンが顔に打撃を受けて後ろへ吹き飛んだ。


「アルバートさん!大丈夫ですか!!」

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