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しあわせの国  作者: 狼眼


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遠い道のり

「ちょっと重いけど、行きは下りだし、帰りは水が無いし。」


何気なく話していた言葉が、今になって恨めしい。

力の入っていない人間を担ぐことが、ここまで難しいものだとは思わなかった。

酔いつぶれたサンタスを運んだ時も、寝たまま起きないロア師匠を動かした時も、ここまで大変ではなかった。酔っていても寝ていても、無意識のうちに体のバランスはとろうとする。しかし、体に力が入らないと、腕の隙間からこぼれてしまいそうな、そんな感覚に襲われる。


「ミリアム!大丈夫か?意識はあるか?」

「・・・ん。」


何とか意識はある様だ。

闘いの際に腕に巻く布をミリアムに巻き付けてはいるが、上手くバランスが取れない。

なるべく揺らさないように体制を立て直し・・・。よっ!


「うぅぅ!」

「すまん!」


バランスは改善されたが、無駄にミリアムにダメージを与えてしまった様だ。



俺は、ただただひたすらに坂道を上る。

松明は使えないので、ウィル・オー・ウィスプで辺りを照らしながら進む。


デュアル様からのお使いで旧リーフに武器を取りに行った時、ロア師匠とチィリン王国へ向かう際に山を登った時、形は少し違うが、色々な経験が役に立っている。

走りながらの精霊召還や山道を走って上るなど、通常であればしなくてもいい様な事だが、少しは効率よく進めているのだろう。


「ミリアム!大丈夫か?」


こんな声掛けを何回繰り返しただろうか。

ミリアムの腕は、手首の辺りまで紫色になってしまっている。

少し前からミリアムの返事はなくなってはいるが、意識はまだある様だ。返事の代わりに耳元で少し強く息を吐く、それが今の返事になっている。



ようやく、洞窟の入り口が見えてきた。

外の涼しい空気が流れてきて心地が良い・・・。一旦出口で休憩をしよう。ミリアムも横に寝かせてあげよう。


俺の体力もかなり消耗している。一旦休んで・・。


『そのまま進みなさい。ここで休むことはなりません。彼女を横にすれば、体の毒素は頭に廻りやすくなるのです。もう少し、がんばりなさい。』


疲れがたまった俺の耳に、誰かが囁いた。

毒が、頭に廻る?確かにそうかもしれない。ミリアムが倒れてからずっと、俺が負ぶっていた事で、頭は常に上にあった。幻聴かもしれないが、ここでミリアムを下ろす気にはなれなくなった。


『もう少し・・・頑張るの・・・。』


また、女性の声がしたような・・・。


「だれ?」

『私に構っている暇は無いのですよ?ほら、少し手を貸してあげます・・・。』


何かの声が止んだあと、俺の体が熱を帯びてきた。辛い暑さではなく、心地の良い暖かさと言った方が良いだろう。


「ありがとう。」


俺は、誰かは分からない相手に礼を言うと、再び歩き始めた。

暑い洞窟を只々上ってきた疲労が、幾らか解消された様だ。これならまだ歩ける。


辺りは既に暗くなっているが、このエリアには敵と呼べる相手は居ない。

警戒をしながら進む日露が無いのが唯一の救いだろうか。


少し進んだところで、木の精霊ドライアードが語り掛けてきた。


『もうちょっと右側にいきなさい?進路がずれているわよ?」

「ありがとう。あ!そうだ!森の民の誰でもいい!ミリアムがフレイムリザードの毒にやられたって伝えてくれないか?早く手当てをしないと!」

『分かったわ。・・・・伝えたわよ?解毒剤をもってこっちに向かってくれるって。』

「助かる!ありがとう!!」


これで少しは時間の短縮が出来た。・・・ミリアムの解毒が間に合えばいいのだが・・・。

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