小川の水を赤に染め
一通りの評価が終わった後におっさんは小川に目を向ける。
「そうだね~。ロックリザードの解体でもしてみようかぁ~。トカゲ系の解体をしたことある人はいるかなぁ?」
「何度か、したことはあります。」
「お料理で少し。」
ギニンとリンが声を上げた。
「じゃぁ、二人にお手本を見せてもらおうかなぁ~。素材剥ぎまではギニン君。食材の解体はリンクルちゃんにお願いしようかぁ。」
サンタスと俺とビルットでロックリザードを川から引き揚げると、開けた場所で仰向けにする。
ギニンは、コーギと俺がつけた切り傷からナイフを差し入れ、身に沿って隙間を通すような感じで皮をはぎ始めた。おっさん曰く、川が固い動物の方が皮を剝ぎやすいらしい。
俺たちが川の水を沸騰させ、水袋に注ぎ入れている間に、腹側はきれいに皮を剝がされていた。
「爪と大きな牙は外しておこうかぁ。」
ギニンは無言で頷きながら、手を止めずに作業を続ける。そして関節の隙間にナイフを通して腕、足、尻尾を切り分けていく。
「解体に参加しない四人は、切り離した部位を小川で血抜きをしようかぁ~。」
俺は尻尾を持ち、小川に浸す。関節部以外にも中央に切り込みが入れられており、血が抜けやすく加工しているようだ。
見る見るうちに小川は真っ赤に染まっている。
「はぁ~い。胴体もむけたよぉ~。」
血抜きをしている部位を石で固定し、二つに分かれたロックリザードの胴体を運ぶ。
胴体部を水につけると、ギニンからナイフを借りたリンが近寄ってくる。
「このまま内臓をバラすね~。」
「リンクルちゃん、心臓と胃と肝を外しておいてねぇ~。」
「はーい。」
リンは、ハーフパンツのまま水に入り、内臓部の解体に入った。戦闘時や解体時にも結構な血が出ていたと思ったが、それでもまだ大量の血が溢れてくる。
リン曰く、「水場があると、服が汚れなきから楽なのよ。」らしい。
暫くは、戦闘で出番の少なかった二人がメインとなって、店頭で見るような肉を作っていった。
部位を外すポイントなどを見ながら、俺たち四人はロックリザードの背中の岩を外していく。どうやら、体内で生成された体液が背中からにじみ出て、岩の様に形成されていく様だ。
皮と岩の間に刃を入れて、ゆっくりと力を入れることで、薄皮と一緒に岩が外れる。頭の部分をを俺とビルットが固定し、サンタスが尻尾部分を固定。コーギが時間をかけて削いでいく。剣の技量が高ければ戦闘時でも岩を剥ぐ事は出来るのだろうが、駆け出しの俺たちではそれこそ刃が立たない。
リンがロックリザードだったものを手のひらサイズに加工し終えたころ、ようやく小川は元の色を取り戻した。
・・・。あの泉、今頃大変なことになっているのではないだろうか・・・。
そんなことを考えつつも、焚火の周りで肉を燻し始める。
「ギニン君は器用だねぇ。部位の外し方は完璧だねぇ。」
「リンクルちゃんも良かったよ。戦闘技術も大切だけど、人は食べないと生きていけないからねぇ。特にメイジは後方での戦闘がほとんどだから、調理兵を兼ねることもあるんだよぉ。火もつけやすいからねぇ~。昔、調理をしようとして天幕まで燃やしてしまった不器用なメイジもいたけどねぇ~。」
ククッっと、思い出し笑いをしながらギニンとリンを労った。
「じゃぁ、遅くなったけど、食事にしようかぁ。」
肉が焼けたころには、夕日が辺りを血の色に染めていた。




