野営地
死の森と外界を隔てるように街道が伸びている。
森と平原の間に線を引いた様な感じと言えば分かりやすいだろうか。死の森へ好んで入るものは、近隣のレンジャーか、野外訓練の兵士、薬草採取や討伐依頼のある冒険者くらいだろう。
交易をおこなっている商人のキャラバン等は、街道から平原の方に少し入った所でテントの設営を行っている。
今日もいくつかのキャラバンが街道脇で野営中だ。
「あんちゃんたち、冒険者かね?」
キャラバンから男性が歩いてきた。
「まぁ、そんなとこですね。そちらは?」
「こっちはガーリモンド商会のキャラバンさ。最近はグリフ王国・・・いや、リーフ王国だったな。そのリーフ王国の調子が良くてな、食料品やら武器やら、なんでも売れんだよ。有難いね~。」
「それは良いですね。ガーリモンド商会と言えば、この辺りでも有名な商会じゃないですか。」
「そうだよぉ?も少しすっと、別のグループも到着よていさ。キャリッジとコーチが8台来るから、今夜は結構な王所帯になるよ。」
森の中に入らなければ、野獣は襲ってくることは少ない。今回の様に大規模なキャラバンの場合は、あえて多くの人数で集まることで、野獣の襲撃を減らす目的がある。
魔獣や妖魔に対しては効果は無いが、無駄な見張りを立たせる事を減らすことが出来て一石二鳥なのだ。
「でよ、君らは戦えんだろ?よかったら一緒に交じらねぇか?」
「え、良いんですか?」
「ええよええよ、見張りは5回に分けっから。そのうち1回に立ってくれればええから。こっちも助かるでよぉ。」
「では、お言葉に甘えます!」
既に焚火をつけて野営の用意は終わっていたが、見張りに立つ時間が短くなるのは有難い。
すぐに焚火を始末して、荷物をまとめ、キャラバンの輪に加わることにした。
キャリッジやコーチは幌を張っている荷馬車なので、平原からの風を防ぐように停められている。
街道側に焚火をいくつか作り、森からの奇襲を警戒する様な配置になっており、その一番端の輪の中に無いることになった。
さすがに食事をめぐんでもらう訳にはいかないので、自分達用の焚火を再設営する。
「おお、あんちゃん!魔術師か!ほれ!みろ!火の魔法だよ!」
「おぉぉぉ。すげーなー。」
「魔術じゃなくて、精霊術ですけどね。」
「じゃぁあんちゃん!水の魔術は出来んのか?」
「できますけど?」
「ちょっと待っててくれよ・・・・・大将!大将!!」
2つ向こうの焚火の輪から、ごついおっさんがこっちにやってくる。
「なんじゃニラ。こっちはもう飯食っとんじゃぞ?」
「大将!このあんちゃん、水の魔法が仕えまっせ!」
「おぉ!そりゃええな!あんちゃん!今日の見張り番はこっちでやるから、うちのキャラバンに水を恵んでくれんか?」
「・・・そんな事で良いんですか?」
「あぁ、水は必需品だが、やたら重くてかさばる。いつもギリギリでやっとんだわ。水が有ると無いとでは大違いじゃ。」
そんなこんなで、俺とミリアムは、大将について回り、複数のグループの水樽を満たしていった。キャリッジとコーチを合わせて18樽。ウンディーネに分け与える精神力もかなりのもので、今日は確実に熟睡できそうだ。
ミリアムはと言うと、俺の後ろをついて回り、キャラバンのおっさんたちに、肉やら、肉やら、肉やら・・・。沢山の食料を貰っていた。
「あら、ありがとう!おじさまって素敵ね!こっちのおじさまも中々いけてるわね?」
いつの間に、そんな大きな籠を貰ったのか、両手を広げたくらいの平籠を頭の上に乗せている。
平籠の中には、様々な肉や肉や肉が入っており。数日分は有りそうな量を恵んでもらっていた。
一番端のグループの水を入れ終わり、元の場所へ戻るころには、ミリアムコールがちらほらと聞こえてきた。
「ミリアムちゃん!あとでこっちにおいで!一緒に飲もう!」
「ミリアムちゃん!こっちには甘い菓子があるよ!」
「ミリアムちゃ~ん!!」
ミリアムは笑顔と愛想を振りまきながら歩いている。
労力を提供したのは俺なのに・・・ちょっと顔が整った女って・・・得な。




