危機、いまだ去らず
サンタスにぶつかりつつロックリザードの巨体をかわした俺とサンタスは、岩の斜面を転がった。
「すぐに立ち上がれ!」
おっさんの言葉に痛みをこらえて膝立ちとなる。が、サンタスは顎と頭に打撃を受け悶絶している。
「サンタス!こっちだ!早くしろ!」
「アニキ!」
ギニンがサンタスの脇を抱えて移動を開始する。
ロックリザードが体液を振りまきながら地面を這いまわる。近寄る者を引き裂かんと、牙の折れた口を大きく開けながら・・・。
「こっちだ~!トカゲ野郎!!」
ビルットは、俺の曲がったブロードソードを岩に叩きつけながら、音でロックリザードの注意を自分に向けた。
ロックリザードはのたうち回りながらもビルットを標的に据えたようだ。
「ビルット!小川の対岸へ飛べ!」
ビルットはコーギの声に頷き、小川を軽く飛び越えた。
ロックリザードは小川を目指す。体液をまき散らしすぎたのか、歩みの勢いは削がれている。小川にたどり着き、水辺に入ると小川の水が赤く染まっていく。
小川の対岸に前足を掛け、ビルットに追いつこうとする。
「させるかー!」
コーギが剣で前足を払う。ロックリザードはバランスを崩すが、転倒するほどでもなく移動を続けようとする。
「来るな!落ちろ!来るなー!」
幾度か繰り返された攻防の後、ロックリザードは動かなくなった。
「みんな、わるかったねぇ。おじさんのルート選択と戦闘指示が甘かったようだよぉ~。これは、後でこってり絞られるパタ~ンかなぁ。」
ロックリザードは水に沈めたまま、今回の遭遇戦につての反省会を行っていた。
「ルート選択って、なんでこのルートだったんですか?」
今回も出番と疲労が少なかったリンが質問をした。
「この近くを勇者一行が通ったはずだからさぁ、強めの獣はいないと思ったんだよぉ。」
「勇者さんたち、倒せなかったのかな?」
「いやぁ、勇者達からすればウサギや豚と変わらないのさぁ。」
「危険は無い、って判断したってことね。」
コーギは自分の刃が通じなかった獣を、勇者がどの様に考えているかを知って、勇者との世界が違う事を痛感した。
「まぁ、でも、今回はみんな頑張ったねぇ。サンタス君はタイミングを取るのがうまいねぇ。大きなアドバンテージだよぉ。
コーギちゃんとアルバート君は、指示に従わなかったけど、いい攻撃だったよぉ。コーギちゃんのあの突きの重さ。ハルバードやランスを使っても良いかもしれないねぇ。」
女騎士を目指すコーギは、馬上で使用する武器が合うかも、と言われて少し嬉しそうだ。軍でも一部の上層部にしか騎乗は許されていない。戦場で馬を駆る女騎士、それは彼女の究極の夢だった。
「アルバート君も突きを放っていたねぇ。素早い三連撃。ブロードソードとは思えない正確な突きだった。レイピアやエストックでもいいと思うが、君の体格や筋肉を見る限りは、バスタードソードやグレートソードでも行けそうだねぇ。力と正確さがあれば、きっといい軍人になれるよぉ」
「師匠が良いんだよ。」
「へぇ、誰に教わったんだい?」
「ザイール小隊長!」
「あぁ、彼か・・・。今はまだ牢屋のなかだろぅ?」
「鉄格子越しに教わっていた。」
「君も彼の思想に共感しているのかねぇ?」
「?思想かどうかは分からないが、強さは認めている。それに俺の命の恩人だ。」
「そうか・・。」
少しの沈黙の後、ビルットの評価も始めた。
「君の機転で近くにいた3人の危険を減らすことができたよぉ。ナイス判断だったねぇ。まぁ、剣で石を叩きすぎたせいで折れちゃったけどねぇ。」
「で、ギニン君、いいサポートだったねぇ。リンちゃんは、相手を見て攻撃魔法が出せるようになったら挑戦しようねぇ。今回、二人は相性が悪すぎたからねぇ。僕もだけど・・・。」
リンは、今回も出番がなかった事でシュンっとなってしまった。




