次の目的地
ロア師匠の姿を見て、思わず吹き出してしまった後、「オマエノキオクヲケシテヤル。」という言葉と共にボコられて、目が覚めたのはその日の夕方だった。
「アルバート君、起きたのね?痛いところはない?」
「えぇ、大丈夫です・・。壁が、汚れていますね・・。」
「・・・ふき取るの、大変だったのよ・・・あなたの血・・・。」
ロア師匠の怒り、と言うか照れ隠しの効果により、あっという間に血だるまになってしまった様だが、その後デュアル様にお叱りを受けて、個室で凹んでいるらしい。
照れ隠しで半殺しにされていたら身が持たないが、あの体の動きは凄まじかった。
ベッドで上半身だけを起こした状態だったロア師匠が、次の瞬間には俺の目の前に浮いており、その後の記憶はない。
「さ、今日は寝ていなさい。一応上級神官の方に治癒してもらったけど、血の量は減ったままだからね。」
「分かりました。明日は木ノ葉亭に戻りますね。」
「・・・あんたもタフね。無茶はしちゃだめよ?」
「そういえば、ミリアムはどうしました?」
「ロアさんについて行ったわ。あの子の英雄だからね。」
そんな話をしていると、部屋のドアが開き、ミリアムが入ってきた。
「あら、目が覚めたのね?しばらく空中に滞在していた感覚はどうだった?」
「ロア師匠が目の前に現れた後の記憶はないよ。」
「そう。で、もう大丈夫なの?」
「あぁ、明日には復活する予定だ。」
「ふぅ~ん。まぁいいわ。ロア様から色々な話も聞けたし・・・私はこのまま収穫祭を楽しむわね。」
「楽しんで来い。俺は明日から楽しむさ。」
再び部屋の扉が空くと、ロア師匠とデュアル様が入ってきた。
「すまないな、アルバート。私がロアをおちょくったばかりに・・。」
「大丈夫ですよ。普段は優しいロア師匠が暴れるなんて、よっぽど恥ずかしかったのでしょう。」
「す、すまない。私も修業が足りなかった様だ。弟子を血だるまにしてしまうなんて・・・。」
「血だるまって・・・いえ、もう治してもらったので、大丈夫ですよ。明日には収穫祭を堪能できそうですし。」
申し訳なさそうなロア師匠と、その師匠であるデュアル様ではあったが、祭りの話が進むにつれて表情は明るくなってきた。
収穫祭の主な出し物や、デュアル様のお勧めの店等の話で盛り上がった。
一通り話をし終わった所で、デュアル様が真面目な顔で質問してきた。
「所で、だ。アルバート。お前はこのままロアの弟子を続けるか?」
急に話を変えてきたが、本来はこの話をしに来たようで、ロア師匠も真剣にこちらを見ている。
「・・・え、弟子、クビですか?」
「そうじゃない!私が、あんな大けがをさせてしまって・・。弟子を止めたがっているかと・・・。」
「じゃぁ、ロア師匠は、デュアル様の弟子を辞めたいんですか?」
「そんなわけないだろ!デュアル様は、私の師であり、目標でもあり、家族のような存在だ。」
「魔法剣にぶつかって、大けがをしてもですか?」
「当たり前だ!そんな些細な事で、この絆が途切れるとでも思っているのか?そんな事はあり得ない!」
「でしょ?私も一緒だとは思いませんか?」
「・・・。許してくれるのか?こんな、人を壊す事だけに長けた女でも良いと・・。」
「当たり前じゃないですか。そんな適当な思いで弟子をしていませんよ。」
ロア師匠が下を向いているので顔は見えないが、俺が弟子を辞めないかと心配していた様だ。
「な、言ったとおりだろ?これから、お前も、アルバートも、いっしょに成長していくんだ。」
「・・・はい。」
いつになくしおらしいロア師匠が力なく頷いた。
「で、アルバイト君。それとは別に、君には仕事を任せたいと思うのだが?」
「リーフ国王の依頼であれば、受けない訳にはいきませんが、どのような依頼です?」
「収穫祭が終わったら、死の森へこの手紙をガーラに届けてほしいのだが・・・。」
「・・・あぁ、そういえば、暫くガーラさんに会っていませんでしたね。死の森へ行っていたのですね?」
「そうだ、色々頼んでいる事があってな。こちら側も結構忙しいんだ。」
「分かりました!体調が回復して、収穫祭を楽しんだら行ってきますね!」
「あ、あの!私も・・・私も行っていいですか?」
「?ミリアムちゃんが?あそこは死の森と言われるくらい、ちょっとだけ危ない場所よ?」
「でも、死の森には、槌の民がいるって・・・聞いたもので・・・。」
一応クローディアさんが止めようとしてくれたが、剣の修復をあきらめていなかった様だ。
「いいよ。アルバートと一緒に行ってきなさい。剣の修復を依頼しに行くんだろ?だったら、剣が治るまでの間は、私の剣を貸してあげよう。チィリン王国では頑張ってくれたらしいしね。」
「ありがとうございます!!感謝いたします!」
という訳で、急遽死の森へ手紙を届けるクエスト+武器だけ女のお守りクエストが勃発した。




