一瞬の誤差
おっさんの叫び声にサンタスが応じる。
「くたばれぇ!!」
迫りくるロックリザードに腰が引けながらも、こん棒を振り上げた。
こん棒に合わせておっさんが口の中にショートボウを放つ。
グギャ!
「チッ!」
サンタスのこん棒はロックリザードの牙を折り、バランスを大きく崩させた。
おっさんの矢も歯茎にあたったのだが、見事に跳ね返されている。
「サンタス、もう一回だ!」
「お、応!」
牙を折られたロックリザードは、警戒を強めてこちらの様子をうかがっているようだ。
「おっさん、もし、口を開けなかったら、どうすればいい?」
「とりあえず鼻面を狙って、振りぬくんだ。鈍器はそれが一番強い。」
「俺も、やる。」
「アルバート、君の剣は曲がったままだろ。次に当てたら折れてしまう。ここは控えろ!」
ビルットが俺を引き留めるが、腰の引けたサンタスに運命を委ねるわけにはいかない。
「俺の運命は、俺が決める!他人に決められるなんてまっぴらだ!!」
「じゃぁ、せめて、まともな武器を持て。折るなよ!返せよ!」
ビルットが俺に剣を投げて寄越した。
「私も行く!」
コーギが俺の横に並んでロックリザードに向けて歩みを進める。
俺はビルットの剣を拾い上げ、絡まっている布を外した。
「コーギ、恐らくサンタスは次も当てるだろう。その時にあごの下か腹を狙うんだ。」
「切り払うのか?突くのか?」
俺は最近まで師匠に教わっていた技を思い出す。
「無論、突きだ。」
「突きは苦手なんだが・・・。」
「大丈夫だ。」
コーギに師匠から教わった突きの要点を伝える。
「いいか、コーギ。剣の腹と手の甲を並行にするんだ。剣の構えは目の高さで。肘から先が剣だと思え。袈裟斬りと同じ要領で体重を乗せて剣を打ち出すんだ。獲物は大きいから、当たるはずだ。」
「わかった。合わせる。」
コーギはロックリザードから目を離さずに頷き答える。
「ん~、口をしっかり閉めてくるね。」
「よし・・よし、鼻面だな。」
「おそらく次は突進してくるから、タイミングをずらさない様に。」
「・・・鼻面・・・鼻面・・・。」
「いいかコーギ、サンタスは周りを見ないバカだから、こん棒を振り切った後に突進しないと、こっちも殴られるから気を付けろ。」
「了解。」
「サンタス、来るぞ!」
「・・・鼻面・・・鼻面・・・。」
「行け!」
「っ鼻面~!!!」
「「行くぞ!」」
サンタスは大きく振りかぶり、ロックリザードの鼻下を打ち上げた。
ロックリザードのダメージは少ないようだが、顎がのけぞった。
「「やぁーーー!!」」
俺とコーギは同時に駆け出し狙いを定めた。
剣を目線の位置に構え、肘から突き出す。
コーギの剣が顎下に突き刺さり、更にロックリザードの巨体をのけぞらせる。
俺はコーギよりも少し長く溜めを作り、コーギよりも更に下を狙う!
師匠の教えを思い出す。横にぶれない様に・・・。突く!!
ザザザッ!
俺の突きは喉、胸、腹を突き刺し、腹を刺し切った時にロックリザードが倒れ込んできた。
俺は体をひねってロックリザードの巨体をかわしたが、その先に居たサンタスに頭突きを見舞う事になってしまった。




