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しあわせの国  作者: 狼眼
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春になったら入隊試験!

命の恩人でもあるザイール師匠と、檻を挟んで向かい合う。

装備品は木の棒、しかしながら物凄い眼力でこちらを見据えている。

慣れていない人だったら、漏らすな・・・多分。


「俺に合わせろ、準備はいいか?」

「はい!」


とは言いつつも、まだ上手くできた事がない。

師匠の言う「合わせろ」とは、指二本分くらいの太さの棒の先にこちらの棒をぶつけろと言っているのだ。


「はっ!はっ!ほっ!」

「しっかり狙わんか!ほら!」

「はっ!はっ!ほっ~!」


時折檻を叩く音は響くものの、木の棒が打ち合う音は聞こえてこない。


「小隊長~、こんな暗い所じゃ無理っすよ~。アルもバテてるじゃなんですか~?」


直接日の光が入らない地下牢は正直訓練には向いていないと思う。ミスって檻を突いてしまえば素手にはつらい衝撃が来る。あまり多くミスをすると手の皮が破れてしまうだろう。


ガキン!・・カラン・・と、二つの音が響いて訓練は終了する。


「あ、ありがとう、ございました。」


結局、今日も汗まみれの状態で檻を叩いて木の棒を落としてしまった。


「いいか、上下は多少ずれてもいいが、左右はしっかり狙えよ?今日は以上だ、昼飯の準備をして来い。」


今一つ理解し難い指導と木の棒を受け取り、地上への階段を目指していると同僚のサンタスと腰巾着のギニンが声をかけてくる。


「アルバート、お前いつまであんな特訓してんだよ!春の入隊試験以降で渡される武器はブロードソードだぞ?意味ない練習すんなよ。」

「意味ないぜ~?」

「そうだな、でも、小隊長の強さの秘訣があると思うんだ。盗めるなら盗みたいだろ?」

「はっ、勝手にしろ!俺はそんな寄り道はしないぜ!どうぞ、ごゆっくり~。」

「ごゆっくり~?」


そう、16歳の春には入隊試験を受けることができるようになる。そうすれば決まった給金が貰え、雑用からもおさらばできるんだ。

サンタスの言う通り、入隊試験以降はしばらくの間ブロードソードを支給される。少々幅の広い直剣で攻撃、受けが行いやすい為、新兵には重宝されている。ただ、鋳造品のため強度は期待ができず、下手に樹木へ切りつけようものなら、間違いなくその剣の寿命は尽きてしまうだろう。

だから、というわけではないが、師匠の刺突技は有意義であり、会得したい技術だと思う。まぁ、命の恩人への憧れもあるんだけどね。


「さぁて、お仕事お仕事!」


木の棒を杖代わりにして階段を上る。

かすかに緑の香りを連れてくる風が地下の湿気を取り払ってくれる。


あと10日もすれば春の入隊試験だ。

試験が終わるころには師匠も地上へと戻ってこられるだろう。

入隊試験は簡単な野外演習だと聞いている。城壁から少し進むと密林が行く手を阻んでいる。その密林で3日間の演習を行うらしい。

俺は、正直、密林の魔獣が怖い。人間と相いれない存在というだけでなく、何やら不思議なほの暗い感覚が心の中を巡り、それが恐怖となって感じられるのだ。魔獣(見たことはないはず)の事を考えるだけで手足が震えて・・・。


「アル!!おせーよ!早く来い!!」


サンタスが怒鳴った声で漠然とした不安の海から引き揚げられた。


「あ、わり。」


明日は師匠に試験の事をしっかり聞いておこうと心に決め、厨房へと足を速めた。


アルバートの漠然とした不安をよそに王国は暖かな光に包まれていた。

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