アサシン
砂埃をたてながら俺は地面を転がった。
脇腹からは血がにじみ出しており、服を赤く染めていた。
「皆さん、無事ですか!」
「えぇ、平気よ、王様も。」
「ミリアム!ロア師匠を!」「わかったわ!!」
食い気味に返事をしたミリアムは、全力で駆けていった。
「行かせん。」
「お前もな!!」
ミリアムに向けてナイフを投げようとするアサシン、その足をめがけて体当たりをお見舞いする。
「邪魔をするな!」
アサシンが放ったナイフは狙いがそれて、地面に転がった。
いい気味だ、と思った瞬間、脇腹が急に熱くなる。
「ぐぁ、・・隠し武器か・・・・。」
アサシンのブーツの先からいつの間にか鋭利な金属が出ており、俺の傷口を更にえぐっていた。
「アルバート君!」
クローディアさんがスタッフを構えて呪文を唱え始めた。
「メイジか・・・・面倒な。」
アサシンは体をねじり器用に立ち上がり、クローディアさんとの直線状に俺が入る位置へ移動した、
攻撃魔法を警戒しての事だろう。が、クローディアさんの魔法は・・・。
「暖かなる炎よ、傷ついた者に暖かな癒しを・・ヒール!!」
「・・・助かります・・・。」
脇腹の傷口が燃え上がり、傷を焼き尽くしていく・・・。
「サポートか、見掛け倒しめ。・・・ならば、やはりお前からか。」
細身の針の様な武器を構えて襲ってくる。エストックと同じような刺突武器だ。
師匠との特訓で刺突武器との戦い方は分かっている。が、懐に入り込んでくる戦い方には慣れていない。
「・・・」
「せめて、掛け声、や、予備動作、を、しろ、よな!!」
「それは素人がする事だ。」
無言で突きを繰り出し続けるアサシンに、少しずつ押されている。
暗くてよく見えない上に、予備動作もない・・・まあ、明るくても同じだろうが・・・。
あっという間に腕や腿に細かな傷が増えている。
「そろそろ・・しぶとい奴だ、とか言って、どっかいかない?」
「・・・」
アサシンの攻撃が少しだけ荒くなった。明らかに馬鹿にされている。
しかし、俺もただ単に声を掛けているわけではない。攻撃を俺だけに向ける為、俺に集中してもらう為・・・。
「行くわよ!よけて!!!」
「ん、むりです!!」
「・・・ブレードネット!!!」
アサシンを中心に、門兵の詰め所を丸ごと包み込むほどの巨大な光の網が現れた。
稲妻を蜘蛛の糸のように広げた網は、俺とアサシンを覆いつくす。
「いて!!ぎゃぁぁぁ~!!」
「ぐ、んんんん!」
二人とも、雷に打たれたような衝撃と、激痛で体が強張る。
「のぉぉぉ!!ぐ、ぐわぁぁああああ!」
「がががあがぇぁぁぁ!!」
光の網に触れた部分に裂傷が発生し、同時に雷で焼かれていく。
無限とも思われる激痛が終わったのは、気を失う直前であった。
「・・・ぁ・・・ぅ・・・。」
「ちょっと待ってね!・・傷ついた者に暖かな癒しを・・ヒール!」
「痛い、まだ痛いです。」
「傷ついた者に暖かな癒しを!!」
「・・・はぁ~。・・・強烈ですね・・・。」
「まぁ、上級魔術だからね~。大丈夫だった?」
「死ぬかと思いました。」
しかし、これでアサシンも動けないだろう。
今だ地面に倒れ伏して焦げている黒い奴。
「でも、おかげでピンチを乗り切れました。まぁ、避けて!で避けた所で食らっていましたけどね。」
「そうかもね。」
あんな広範囲の呪文を回避するのはまず無理だろう。
「ロア師匠、戻ってきませんね。」
「怒り狂っていたものね・・・。何人か・・・危ないかも・・・。」
そう言った時に、焚火が吹き飛んで赤い火の粉が舞い上がった。
続いて噴水で盛大に水柱があがる・・・。
最近、暴れる機会が少なかったからな~。
「戻ってこないのは仕方ないわ、ほら、こいつを縛って・・。」
「え?」
「あれ?」
黒く焼け焦げて倒れ伏していたのは、アサシンの服だけだった。
「え?中身は?」
「さっきまで居ましたよね?」
「悲鳴は聞こえたわ・・私には。」
あのアサシン、ブレードネットに焼き裂かれた体で逃げ出したのか・・・。一体どこへ・・・。




