新たなる脅威
泉の畔のキャンプスベースを離れ、泉に流れ込んでいた小川沿いに進んでいく。
三日間の演習であれば、次のベースで夜を超えれば、最終日は街に帰るだけだろう。
ただひたすらに小川をたどって歩きながら、携帯食をかじる。
「行軍中は足を止められない事もあるからねぇ。こういう食事も慣れておいてねぇ。」
携帯食は基本的に塩分と脂分が多い為、直食いは少々厳しい。
パン系の主食も持ってきていたので、何とか無難に食事を行える。
食事を始める直前にリンが携帯食のおねだりをしてきたが、どうやら出発前の
「ぅあ~!アル!ありがとう!」の意味がわかった。完全にあてにしていた様だ。
「アル~。お水頂戴~。」
「お前ら・・・。」
香湯を作る前に沸騰させた泉の水を渡していく。
「コーギ、水は持ってきてないのか?昨日も・・・。」
「私、パンを持ってきていないから、さっき飲んじゃった。」
「俺は給仕担当・・・、も、してたけど。演習じゃなかったら終わってたぞ。」
おっさんは歩きながら「足元、ちゅういしてねぇ。」と、楽しそうに話を聴いている。
しばらく歩いていると、小川の流れも細く急になり、足元には大きめの石が増えてきた。
「もう少し登ったら休憩だよぉ。」
いつの間にか道は登りになっており、みんなの雑談が消えていた。
小川は支流となっており、急ではあるがきれいな水が流れている。そして周りの木々は腰丈くらいの藪が目立ち、日当たりが良すぎる。乾いた風と日当たりのよさで、口の中の水分が持っていかれている。
水を渡した後だから荷物は軽くなっているのだが、あの重さが懐かしい。
「よぉし。休憩しようかぁ。」
おっさんは、少し開けた場所で手慣れた様子で焚火の準備を始める。
「俺の水を飲んだ奴!川で水汲んで来いよ!」
「俺は飲んでないからな!っふ!」
「さすがアニキ!」
「お前らに言ってないだろ・・・。」
とは言いつつも、サンタスたちも湯を沸かしだした。
ふと気が付くと、おっさんが丘の上の方を凝視している。
「みんなぁ、静かにするんだ・・・。」
おっさんの緊張が伝わってきた。その雰囲気につられて、みんなが丘の上に目線を走らせる。
「なんだ?どうした?」
「アニキ、静かに・・・。」
「岩が、動いている・・・。」
俺が目を向けた先には、蠢く岩があった。
「ロックリザード・・・。」
おっさんが微妙な笑顔でつぶやいた。
ロックリザードは岩に擬態する大型のトカゲだ。暖かい季節は活発に活動し繁殖を行う。そのために食欲も旺盛になるのだ。おっさんの持つショートボウではダメージを与えることができない天敵種の一つだ。
「サンタス君、君の武器を貸してくれるかなぁ?」
「はっ!俺の武器は俺が使う!俺に任せろ!」
「・・・君は・・・。仕方がない、じゃ、指示に従うんだ。」
「アニキ、大丈夫ですか?」
「蛇のリベンジマッチだ!任せとけ!」
ロックリザードの動きは俊敏とは言えないが、岩場でも良く走る。肉食らしく牙は鋭く、爪も岩に傷をつけるほどだ。支給品のブロードソードでも太刀打ちが出来ない。唯一刃が通るのは、口の中か、常に隠されている腹だけだろう。
「サンタス君、いいかい、この距離で分かりずらいと思うけど、あいつは君より大きくて重い。狙いは一瞬だ、奴が口を開けた瞬間、上あごをかち上げるんだ。このチームで奴に有効な武器を持っているのは君だけだ。いいかい?」
サンタスはこん棒をぎゅっと握りしめて気合をためた。
「君たちは巻き込まれない様に少し離れて・・。」
「くっ、こんな敵に、こんなトカゲに、私の鍛錬が及ばないとは・・・。」
「コーギ、おっさんの指示に従おう。」
コーギとビルットは小川の方に後退する。
「アル、私たちも・・・。」
「リン、今出来ることは、退く事だけか?」
「出来ることって・・・。・・・・!私の魔術!?」
「違うな。」
俺も一応鍛錬は積んできたつもりだ。
神経を研ぎ澄まし、おっさんとサントスとロックリザードの動きを目で追った。
「サンタス、準備!」
「応!」
「今だ!」
ロックリザードが口を開いた状態でサンタスに襲い掛かった。




