壮絶なお出迎え
「貴様ら!そこで止まれぇ!!」
チィリン王国に凱旋を果たした俺たちは、なぜか門番に取り囲まれていた。
「ちょ!ちょっと!何なのよ!!私たちが誰だか知ってんの?」
「問答無用!!お前達!こいつらを捕らえて牢屋へぶち込め!!」
一体何の冗談?と思っている内に、全員が捕縛されてしまった。
と言うより、ロア師匠が殆ど抵抗なく捕まったため、俺たちも暴れるような事はしなかった。ほぼ言いなりの状態で、チィリン王国の地下牢に監禁される事になった。
そして、気になったのが、俺たちを捕縛した門番たちが、リーダーと思しき男に聞こえないように「・・・ごめんな・・。」と、囁いていた事だ。ロア師匠は何かを察していたようだが・・・。
「・・・師匠・・・。ロア師匠・・・。これって、どういう事でしょうか?」
俺たちは、一人ひとり別々の牢屋に投獄された。
「そうだな・・恐らくだが、クーデターだ。」
「クーデター?誰がそんな大それたことを・・・。」
「本人に聞いてみな・・・なぁ、ロ・アール・チィリンさん。」
ロア師匠の言葉に、一瞬の静寂が訪れた。
ロ・アール・チィリンと言えば、チィリン王国の国家元首の名前・・・。この牢屋に捉えられているのか?
「・・・ぇ、ぇぇ、すびばぜん・・・・。やだでばじた・・・。」
喉を潰されたのか、声がまともに出ていないが、少し離れた牢屋から声が聞こえた。
「酷い声だな・・・。クローディア、回復の魔術は使えるか?」
「そうね、王様の場所がしっかりと見えないと、難しいわ。・・・そもそも、どの牢屋から聞こえてくるの?手を出したりできる?」
「・・・じょっど・・・ぶでぃでず・・・。」
「クローディアさん、俺が精霊に頼んでみます。」
薄暗い牢屋の中で光源を作ることが出来れば、クローディアさんなら魔法を使えるかもしれない。
「光の精霊ウィル・オー・ウィスプ・・・この牢屋の通路を進んで、人間がいる牢屋の前で止まってくれないか?」
返答はなかったが、ウィル・オー・ウィスプは、俺の牢屋の目の前の通路に出現した。
声が聞こえたのは左側なので、とりあえずゆっくりと左側に進んでもらおう。
すると、すぐ隣の牢屋の前でウィル・オー・ウィスプは停止した。
「ここはあたしの牢屋だ。」
ロア師匠の声が聞こえたので、更に進んでもらう。
「ちょ、眩しい。早く進めて。」
この声はミリアムか・・・。
「で、ここは私・・もう少し向こうの様ね。」
クローディアさんの声、もう少し向こうか・・・。
ウィル・オー・ウィスプを更に進めると、クローディアさんの2つ向こうの牢屋の前で停止した。
「誰かいますか?」
「・・・ぃ・・る・・。」
「クローディアさん、2つ向こうの牢屋です!行けますか?」
「どうかな・・そこまで広い範囲の魔術じゃないから、何度か使って見ないと分からないわね。」
ジャラ・・・。その時、金属が擦れるような音がした。
「クローディア、おそらくチィリン王は壁際に鎖で固定されている。」
「・・やってみますね?」
クローディアさんは、杖を取り上げられているためか、呪文の詠唱を始めた。
「暖かなる炎よ、傷ついた者に暖かな癒しを・・ヒール。・・・手ごたえはないわね・・・。」
「何度かやってみてくれ。」
「杖が無いから、狙いがつけにくいのよ。・・・暖かなる炎よ、傷ついた者に暖かな癒しを・・ヒール!」
それから、幾度目かの回復の魔術ののち、やっと手ごたえがあった様だ。
「いった!上手く行ったみたい!・・・あぁ!もう限界・・・。」
クローディアさんの2つ向こうの牢屋から、ウィル・オー・ウィスプとは違う、温かみのある赤い光が見えてきた。
「・・・ぁぁああ。・・・申し訳ない・・英雄ロア・・。」
宴の席で聞いた、ロ・アール・チィリンの声が聞こえてきた。




