昼までは座学?
皆が活動を始めだし、出発の準備を終えた後、おっさんがみんなを集めた。
「はい、皆さんちゅぅもくぅ~。」
おっさんが太めの枝を片手に話し始めた。
「これ、何かわかるかなぁ?」
「木の枝、ですよね?」
コーギの答えに首を振るおっさん。
「よく見てぇ、これ、昨日みんなが埋めた蛇だねぇ。」
「?俺たちが埋めた蛇は、頭だけ炭みたいになってたんだぜ?そんな真っ黒じゃなかった。」
「サンタス君、そうだねぇ、でも、これは君たちが埋めた蛇なんだねぇ。」
「炭化が進行している?」
「おしいねぇビルット君。炭化じゃなくて浸食だよぉ。」
「でも、動いてないですよね。」
「そうだねぇ、今はまだ動いてないよぉ。あと少しで魔獣化すると思うけどねぇ。」
そう言うとおっさんは蛇だったものを焚火に投げ入れた。
蛇だったものはゆっくりと燃えながら、一瞬ぬらりと動いてからは二度と動くことは無かった。
「要するにだねぇ、浸食はじわじわと進むのさぁ。特に頭から浸食された生物はねぇ、死んでるのと区別がつきにくいから気を付けないとねぇ~。今回きみたちは、スライムだけに気を取られていたねぇ。浸食は進む。覚えておいてねぇ~。」
「じゃあ、あのまま放っておいたら危なかったわけか・・・。」
俺は内心ぞっとした。もし、あのスライムが体に付いていたら、サンタスたちに当たっていたらどうなった?
俺の考えを察知したようにおっさんは話を続ける。
「今回の蛇は、罠で閉じれなくなった口の内部から浸食されたようだねぇ。通常であればそんなに簡単に浸食はされないんだよぉ。もちろん人間もおなじだぁよ。蛇みたいに大口を開けて大量に体内に侵入されたりしなければ大丈夫さぁ。」
いい勉強になったねぇ、とおっさんは締めくくった。
「そういう話は、事が起こる前に言うべきではないですか?」
コーギが抗議する。
「身に染みてわかっただろ~。僕はねぇ、実践で学んでもらうタイプなんだよぉ。」
まぁ、見守っていてくれた様だからあまり文句は言いたくないが・・。
「もし、黒いスライムに触っていたらどうなってたの?」
リンはみんなが聞きたかったことを聞いてくれた。
「うん、ばっちいねぇ。」
「ばっちい・・・それだけ?」
「浸食も万能じゃないよぉ。抵抗力、耐久力などなど、そう簡単に浸食はできないのさぁ。」
「そんなもんなのか。焦って損した・・・。」
「あっ、でもねぇ、気絶中は危険なんだよぉ、口や鼻から無抵抗に入られたら取り出せないからねぇ。」
サンタスが青ざめている。ギニンはサンタスに「アニキ、大丈夫ですよ」と声をかけ、なだめている。
「あと、そのほかで危険な時はいつだと思う~?」
「・・・寝ているとき・・・。」
「そうだねぇ、寝ている時もほとんど無抵抗だから危険なんだねぇ。だから焚火を絶やしちゃいけないんだねぇ。スライムは火が嫌いだからねぇ。」
ただ単に獣除けかと思っていたが、そういう意図もあったのか。
おっさんは少しの間焚火を見据え、泉の水をかけて火を消した。
「さあて、次のポイントに移動するよぉ。今日は移動しながら動物の気配なんかを探りながら歩いてねぇ。」
あれ、そういえば、昨日の飯は、おっさんがとってきた豚だったな。
兎がいない?
そう思いリンの方へ振り向く。
「?」
リンは不思議そうにこちらを見ている。
あれ、リンってあんな帽子かぶっていたっけ?
注意深くリンの頭を見てみると、緊張感のかけらもない兎が寝息を立てていた。




