遺跡の虫と侵入者
風の上位精霊であるジンを退けた俺は、クローディアさんの回復の魔術を掛けてもらい、何とか回復し、歩けるようになった。
だが、ダンジョンに入るほど万全な状態でもない為、少し長めの休憩を入れる事にした。
「アルバート。竜巻に切りつけに行ったあの動きは中々だったぞ?30点やろう。」
「・・・30点・・・。体がちぎれるような思いをして、30点ですか。・・・あの3倍ちょっとで100点・・・。想像したくないですね。」
「そうだ、まずは100点を目指せ!そこからだ!」
「?100点は最初の目標なんですか?」
「当たり前だろぅ。まずは一人前になってもらわないと、話にならん。」
「クローディアさんは何点くらいなんですか?」
「魔術の事はよくわからないが、80点くらいじゃないか?」
「2年前、リア様には75点って言われました。」
「ハハハッ。あいつは魔術師界隈では恐れられているらしいからな~。75点か。まずまずだな。」
なんやかんやと、だれが何点だと言いながら、その休憩は終わりを迎えた。
ロア師匠が言うには、この遺跡の最大の難関は、水場がない事。しかし俺には精霊が力を貸してくれるから、その辺りは問題ないだろう。
それ以外はゴーレム系や、爬虫類系、虫系が巣くっている可能性が多いそうだ。
「ちなみに、さっきのジンと内部の難易度を比較すると、どれくらいの難易度なんでしょうか?」
「私は竜巻とは戦ったことがないから分からん!・・・まぁ、当時の私で3日かかった。」
「?あれ?1週間ほどじゃなかったんですか?」
「ほぼ3日間、飲まず食わずで戦っていたんだ。街に戻ってリフレッシュする期間も必要だろ?」
「・・・3日・・・なんだか行けそうな気がしてきた。」
「ほらアルバート。クローディアに百足を近づけるなよ?発狂して魔術を暴発させてしまうぞ?」
「な、なんで、こんなに・・・虫が!!」
大きめの百足が、通路の奥、天井、砂の中からわらわらと迫ってくる。
大人の腕程の太さがある胴体だが、魔法剣にかかれば抵抗なく切り捨てる事が出来る。しかし、問題はその量。
松明を地面に突き立てている場所には寄ってこないから、火が苦手なのだろう。
この剣に宿ったのがサラマンダーやイフリートであれば、一気に蹴散らすことが出来そうだが、力を失ったばかりのジンでは、虫に対して効果的な攻撃が出来そうもない。
「こなくそ~!!」
「ほら、後ろの壁だ!」
「ぬぁああ!」
「バスタードソードだからと言って、大振りになるなよ?こういった閉鎖空間では、それなりの、最適な動きで敵を倒すんだ。」
「はいぃぃぃ!」
「・・・仕方ない・・・ほら、クローディア。もう一本、松明を準備しておけ。・・・アルバート!こっちは大丈夫だ。好きにやれ~。」
ロア師匠は、時々近くにやってきて、百足の死骸を蹴り飛ばして空間を作ってくれている。それだけで、足元の心配をしなくて済むのがありがたい。
「・・・アルバート・・・。誰かに付けられたかもしれないな・・・。虫との挟み撃ちか・・・。小癪な。」
「ロアさん?わたし、松明の傍から動かないからね!・・・虫、嫌だからね!!」
「大丈夫。大した奴じゃない。この距離で感知されるという事は、斥候ではないから、奇襲もできないだろう。私の拳で十分だろう。」
ロア師匠が、剣闘士のごとく拳に布を巻いている。
あの拳を喰らったら、レザーアーマー位なら破壊できそうだ。・・・相手がかわいそうになる。
「アルバート。そっちは任せたぞ?もう少しだろ?」
「は・・はひ・・!」
ロア師匠の言葉に応えたあと、ロア師匠の顔が目に入った。
まるで、新しいおもちゃでも見つけたかのような、楽しそうな笑みを浮かべている。
・・・これは、早々に虫を片付けておかないと、とばっちりが来そうだ・・・。




