追撃
ロア師匠が俺を見下ろしている。
「どうした?精霊は倒せたのか?にしては、竜巻は止んでいないが・・・。」
「・・・すみません。まだ倒せていません。結構ダメージは与えたと思うんですが・・・。」
「なら、追撃のチャンスだな!」
「追撃・・・ですか?・・・今?この状態で?」
「大丈夫よ。一回の魔術で傷は治るわ。痛みは残るけど・・・。」
「やったな!行けるぞ?」
「痛みが・・・。」
「ほら、竜巻の威力が戻ってしまうぞ?さっきとは違い、相手からの攻撃は無かった。お前の想像通り、かなりのダメージを与える事が出来たのだろう。なら、今行くしかないな!」
「・・・はい。・・やります!」
「ほら、二回目の魔術がかけ終わったわよ。痛みも少しは和らいだでしょ?」
「・・・クローディアさん、ありがとう!」
そう言って、俺は立ち上がり、竜巻に、上位精霊のジンに向かって駆け出した。
足元の砂と、それを巻き上げる強烈な風は、容赦なく俺に吹き付ける。が、最初ほどでは無い!
「とどめだ~!!」
剣を強く握り、振りかぶる!
その瞬間、下からの風が俺を襲った。
ジンが防御の魔法を発動させたのだろう。
俺は、タイミング悪く魔法にぶつかって、真上に打ち上げられた。
「や、ば!」
空中での姿勢制御は・・・無理!
一瞬、時が止まったかのような感覚になり、急降下が始まった。
最後のチャンスだ。落下しながら、ジンに切りつける!これしかない!
体勢は無様ではあるが、剣をしっかりと握りなおす。あとは・・・気合いのみ!!
「ぅらぁぁぁ!!!」
叫んだからと言って、威力が変わるわけではないが、精霊相手には気合も武器になる。
竜巻を真ん中から半分にするような勢いで剣を動かす。
「ぁぁぁああああああ!!!」
ドジャ!
嫌な音と共に、砂の上に落下した・・・背中から・・・。
余りの衝撃に息が止まり、丘に打ち上げられた魚の様にのたうち回った。
・・・下からの風と、砂で勢いが殺されていなければヤバかったかもしれない。
『・・・Uozokonnnegnnin・・・』
ジンが俺の顔を覗き込んでいる。風が弱まり、竜巻も止んでいた。
『・・Akianaheduru Sowotokioris Smo・・・』
何やら呟いている様だが、悪意は感じられない・・・正気に戻ったのか・・・?
・・・あれ、体が動かない・・・。
腕が変な場所に見える。そう認識した直後に激痛が走った。
「んぁぁああああっ!」
向こうからクローディアさんが駆け寄ってくるのが分かったが、涙で良く見えなくなってきた。
「ほら、ちょっと痛いわよ?」
クローディアさんは、おもむろに腕をつかむと、ごりゅ!っと音を立てて動かした。
「ちょっとぉぉおおおお!めっさ痛い!!!」
「我慢しなさい。首から落ちてたら死んでたのよ?腕だけで済んでラッキーじゃない。」
そう言いながら、回復の魔術を施してくれた。
ここまでクローディアさんが近寄ってきたという事は・・・。
「俺、ジンを倒せましたか?」
「・・・ん~。多分。竜巻が亡くなったし、魔力もかなり薄くなったし・・・でも・・。」
「でも?」
「アルバート!自分の剣を見てみろ。」
「剣?」
細い布で手首に固定されている剣を見ると、薄い青色に光っている様だ。
今までの剣とは違い、風の精霊力を感じる・・・これって・・・。
「ジンが、剣に入った?」
「・・・みたいだな・・。デュアル師匠は何も言って無かったよな?」
「ええ、剣を頂いた時も、とくには・・。」
「・・・おそらく・・・その剣は、デュアル師匠が精霊魔法を習得した後に、遺跡から発見した剣だろう。師匠が【精霊剣】って言っていたやつだと思うが、精霊を取り込むとは・・・。」
確かに・・・。意識を集中すると、ジンの意識が感じられる。
力が戻るまでは、この中に居る、らしい。
その代わり、ジンの力を少しだけ貸してくれるとか・・。
デュアル様、こんな剣を貰ってもいいのでしょうか・・・。あの切れ味に、精霊力まで・・・。
この剣に見合う持ち主になるために、まだまだ努力が必要な様だ。




