爽やかな朝に
乾季の終わりの風は、少し湿り気を帯びているものだが、今日は砂漠側から風が吹いているため、適度に乾燥していて心地よい。
柔らかなベッドで伸びを一つしてから起き上がる。今日の夜からは野宿が確定しているため、もう少し惰眠を貪りたい。
「・・・ぁぁ。よく寝た・・・。」
部屋のテーブルの上には、昨晩飲み交わしたワインの瓶が・・・増えとるがな。
どうやら、あの後ロア師匠が風呂上りに飲んだのだろうか・・・。
あれだけ飲んだなら、二日酔いも・・・無いか。水と同じように飲むからな~。
俺自身は、頭が少し靄が掛かっている様な状態で、まだはっきりしていない。
コンコン・・。
「はい。」
ノックの音に、無意識に返事をする。
スッと静かにドアが開き、メイドさんが入室してくる。
「おはようございます。お目覚めであれば・・・きゃ!ごめんなさい!!」
「へ?」
メイドさんは赤面して部屋を出て行ってしまった。
「・・?俺、変な格好してた?」
俺は自分の体を見下ろす・・・。部屋に備え付けてあった部屋着だ。
・・・確かに・・・俺は部屋着だ。
なぜ、隣にロア師匠が寝ているんだ?しかも、また全裸で・・・。
俺は一気に覚醒し、状況を把握する。
唯一開いているロア師匠用のベッドは、赤く染まっている。どうやらワインをぶちまけたらしい。
瓶の上部が切断されている事から、コルクを抜くのが面倒くさくなって、手刀で切断したのだろうか・・?
で、なぜクローディアさんのベッドで寝なかったのか・・・。
?クローディアさん?
クローディアさんの周りが、黒い靄で覆われている。
精霊視で見ても精霊力は発生していなかったので、魔術的な何かだろう。
クローディアさんの安否を確認するため、真横まで近づき声を掛ける。
「クローディアさん!クローディアさん!!」
反応はない・・・。
クローディアさんの腕を持って、生きていることを確認する。
・・大丈夫、生きている。
「・・・ん?なに?アルバート君?」
「あ、クローディアさん!大丈夫ですか?」
「え、何?よく聞こえな・・・あぁ、忘れてたわ。」
クローディアさんは、枕元に置いてあった香炉の蓋を閉めた。
すると、黒い靄が香炉に吸い込まれていった。
「おはよう、どうしたのよ、朝早く・・・。」
「いや、気が付いたら、クローディアさんが黒い靄に覆われていたんで・・・。」
「これね。これはマジックアイテムよ。寝るときに使うの。昨日は夜遅くにロアさんが戻ってきて、一人で晩酌始めちゃってね。あまりにもうるさいから、これを使ったの。薄暗くなって、周りの音が消えるから、野営には向かないけど、安全な部屋の中なら快適なの。」
クローディアさんは、香炉を荷物にしまうと、辺りを見回す。
「あら!アルバート君!・・・ロアさんと・・その・・しちゃったの?私が周りの音を聞こえない事を良いことに・・。」
「・・・分かっていて言ってますね?・・っていうか、なんであの人は、すぐ全裸になるんですか?」
「んふふ。あなたはロアさんの初めての弟子なのよ。可愛がられているのね。きっと、弟みたいに思われているのよ。」
・・・弟ね・・・。
強くて、強くて、美人で・・・こんなお姉さんが居たらいいな、普通の人であれば思うのだろうが、この人の異常な鍛錬を考えると・・・恐怖の方が強く表れてしまう。
「あ!そういえば、メイドさんがあの状態をみて、赤面して出ていったんだ・・・。」
「変な噂になるわね・・・ま、大丈夫よ。」
チィリン王国の英雄と同じベッドで、裸で寝ていた・・・絶対大丈夫じゃないな。




