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しあわせの国  作者: 狼眼


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爽やかな朝

兎肉がこんがり焼けた頃に、師匠は目をさました。


「・・・いい匂いだな。」


頭をぼりぼり掻きながら上体を起こした。


「よし!食うか!」


胡坐をかいた膝をポンっと叩いて気合を入れた様だ。

寝起きが良いのはとてもいい事なのだが、全裸で胡坐をかくのはやめて頂きたい・・・。

師匠はそのままの状態で「肉をよこせ」と言ってきたので、先に身支度を整えてください。と反論しておいた。

師匠は、しぶしぶビキニアーマーを身に着け、焚火の傍にやってきた。


「はい、師匠、どうぞ。」

「あぁ、ありがと。」


師匠は兎肉に食らいつきながら、俺に話を振ってきた。


「で、ろうだった?あふぁのけいこふぁ。」

「師匠みたいに、上手く動けませんね。どうしても剣先がブレてしまうんです。」

「・・・まぁ、力みすぎもあるからな。もっと自然に剣が振れるようになったら、そのブレも無くなるよ。・・・焦るな。」


その後、この兎は何処で獲っただとか、この先に美味そうな木の実が実っていたとか、他愛のない話をして食事を終えた。


「よし、アル。道のりはあと1日分と言ったところだ。走っていけば、昼には着けるな!」

「そうですね。」

「なら、今日は、風の精霊に頼んで、向かい風の状態で走ろうか!」

「・・・ここで負荷を増やすとか・・・。マジっすか?」

「ほら、あたしとアルで昨日の水袋を使ってしまったからな。その代わりだ。」

「水なら水の精霊ウンディーネに作ってもらいますよ!」

「あぁ、いいから、ほら、風の精霊を出して出発だ!」


俺はしぶしぶ風の精霊に頼んで、向かい風を起こしてもらう。


『・・・辛くない?』


風の精霊シルフが優しく語り掛けてくる。


『辛くないことは無いが、鍛錬だそうだ。ヨロシクね。』


シルフは笑顔で頷き、風を送ってくれる。


「よし、良い風だ!アル!行こうか!」


・・・今日も師匠は元気だ。


さすがに向かい風と乾燥の同時攻撃はきつい。しかし、今日は向かい風を解除してはいけないらしい。そのため水の精霊に頼んで、水分補給をすることもできない・・・。

喉の渇きに限界を感じたころ、前方に崖が見えだしてきた。

・・・そういえば、この向かい風、どこまで壁に近づいたら消えるんだろう?近くまで行ったら試してみよう。





息をするのも辛くなってきた頃、崖が目の前にそびえたっていた。

・・・風は、まだ吹いている。・・崖に手を付けてみる。しかし、風は止まらない・・・。

凄いな!壁と手の僅かな隙間からでも風を感じる・・・。


精霊の力に感心していると、ロア師匠が訪ねてきた。


「どうした?その壁に、何かあるのか?」

「いえ、壁に手を付けても向かい風か止まないので、精霊の凄さを痛感していたのです。」

「・・よくわからんが・・。止まるなよ?」

「あ、はい!」


師匠が凄んできたので、すぐに走り出す。少し走ると、洞窟が大きな口を開けている所が見える。

最初、この洞窟に挑んだときは、5人のパーティーでおっかなびっくり進んでいったものだ。それが、男爵領に通じる単なる道であったと知ったのは、洞窟を出てから・・・。

洞窟を守るゴーレムや、魔法剣ローフルのファイター形態、デュアル男爵。様々な強者と相対する事となった。


今では随分昔の様に感じてしまう・・・。


「おい、アル、精霊を光の精霊に変えてくれ。」

「あl、ハイ。」

「こっち側は臭くてかなわん。」

「・・・ですよね~。」


精霊祭で浄化したエリアはゴーレムの向こう側のみ。こちら側は獣類の糞尿の臭いが充満している状態だ。


「あ、そういえば、風の精霊に頼んで、結界の様に風を纏うと、臭いも抑えられますよ?」

「!じゃ、それで。」


俺はシルフの送還を止め、風の結界をお願いした。


「・・これ、いいな。・・・今までのあの苦労は・・・。あたしも精霊に話しかけれればいいのに・・・。」

「ロア師匠には、類稀なる剣術があるじゃないですか。」

「でも、デュアル師匠は、私以上・・・更に精霊術、古代魔術、神聖術にまで精通していらっしゃる。私が目指すべき場所は、あの遥か高見なのだ!!」


ロア師匠は、拳を天に突き上げて宣言した。

しかし、デュアル様は、どれだけの研鑽を積んで今の状態に至ったのだろうか?ハンナ様やガーラさんは、デュアル様の事を器用貧乏と言っていたが、出来る事と出来ない事の差は、果てしない差がある。

俺も、いずれはデュアル様の様な剣士?になりたいものだ。




洞窟内も走る続けていると、ゴーレムが道を塞いでいる空間までやってきた。

さすがのロア師匠も足を止める。

俺は、この隙に結界を解除し、水の精霊に水をめぐんでもらった。


「・・・くっさ!アル、結界!・・・は、もういいか。」


ロア師匠は腰に下げている袋からブレスレットを取り出した。

ブレスレットは赤く輝き、ゴーレムを赤く照らしている。


すると、ゴーレムの一部が石の扉に変わり、通路が出来た。


「・・・魔道具ですか?」

「あぁ、あたしがここを通るたびに、ゴーレムを作り直さなくてはならないからと、ハンナさんが作ってくれたんだ。・・・10体目くらいの頃かな・・・。」

「確かに・・・面倒そうですね。」

「あぁ、これで手間が省けるから有難い。まぁ、剣の一振りの差だけどな?」


・・・。ゴーレム・・・一撃なんだ・・・。

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