刹那の選択
目の前の一瞬の変化に、観客と化していた自分に気づいた。
師匠から教えられたスライムの対処法が脳裏に浮かぶ。
『切ることを考えるな、得物で殴るんだ。』
ブロードソードを上段の構えから腰のあたりまで下ろし、そのまま打ち抜くように剣で殴り掛かった。
「うりゃ!」
剣の側面は落下してきたスライムを、斜め下から打ち上げるような角度でクリーンヒットし、スライムは水の塊が地面に落ちた様な音を立てて茂みの奥へと転がっていった。
バランスを立て直したコーギがスライムへの追撃を行うべく、スライムが転がった茂みへと目を向けている。
「ねぇ、アル、あれって、スライムかな・・・。」
俺は、自分の心臓の音がうるさすぎて、コーギの声がうまく聞き取れていない。視界がぼやけ、急に汗があふれ出す。
全力で走り切った後のような息苦しさだ。
「うぁ、これは・・・。」
ビルットが藪のあたりをのぞき込んでいるようだ。
俺は冷静になるために、深呼吸を行う。剣を一振りしただけのはずが、膝も震えだしている。
周りが騒いでいない事を確認すると、俺はその場に座り込んでしまった。
「アニキ?」
ようやくギニンが体を起こした。
「あ、アニキ!ちょ!アニキ!!アニキー!」
ギニンがサンタスの体を大きく揺すったが、サンタスは力なく揺らされるがままになっている。
「嘘だろ?」
俺の頭の中で、最悪の事態がぐるぐると渦巻き、更に汗が噴き出てくる。
「おい!サンタス!!死ぬな!!!」
「えっ、なんで?なんでサンタス君が・・。」
リンが呆然としたようにつぶやく。
俺はサンタスのベルトをつかみながらもサンタスに這い寄る。死ぬな!と心の中で思うたびに、さっきまでの元気な様や、宿舎で威張り散らす様が思い出される。
異様な雰囲気にコーギとビルットも駆けつけてくる。
「どうしたの?サンタス?」
「どうなったんだ?アル!」
ビルットの問いに答えようにも思考がまとまらない。
「サンタス君、死んじゃったの?」
現実を受け入れたくないのか、リンの声も次第に大きくなっていった。
「サンタス君!ギニン君にぶつかっただけで死ぬなんてないよ!!」
「「「?」」」
「リン、なんて?」
「サンタス君がギニン君にぶつかって死んじゃったんでしょ?」
「「「?」」」
「アニキ?」
ギニンがサンタスの体を調べ始める。
「外傷・・・。なし。瘴気に侵された様な痕跡も・・・。なし。」
俺は、ギニンやリンの言っていることが今一つ理解できていない。
「呼吸・・。正常。心臓・・。正常・・。気絶しているようです・・・。」
気絶って何?きぜつ?キゼツ・・・。えっ、気絶!
どうやらサンタスは、スライムが目前に迫った段階で気絶してしまっていたらしい。
気絶と理解できると、無性に腹が立ってきた。
「ギニン君、死んでないの?よかったぁ~。」
リンも力が抜けたようにその場に座り込んだ。
ぶん殴って目を覚まさせようと拳を握るが、まだ上手く力が入らない。手のひらも汗で異様に濡れている。
ん?ズボンも汗で?やたら濡れているな・・。サンタスの周りも・・・。変な匂いも・・・。
「こいつ!失禁しやがった!!」
サンタスは気持ちよさそうに、夢の世界の住人を謳歌している。
それもじきに終わることだろう。
サンタスの水分まみれの拳が顔にめり込むまでの間。刹那の夢を見るがいい!




