濃くなる瘴気、薄まる勝機
俺たちが仕掛けた罠まで目と鼻の先の所で異様な気配に皆の足が止まった。
「なんだ、この気持ち悪い空気・・・。」
サンタスが小声でつぶやく。
濃く暗い霧のようなモノがそこにあるような、森の一部分だけが薄暗く濁っている。
「何か、動いている・・・。」
コーギが剣に手をかけながら静かに近づく。
「蛇?」
大人の手首ほどの太さの蛇が、黒っぽい何かに顔を突っ込んでいるみたいだ。俺は、師匠の言葉を思いだすと同時に皆に声をかける。
「これ、スライムだ。しかも瘴気をかなりため込んでいる。蛇に寄生しようとしているんだ。」
「なんかグロテスクだな・・。放っておいて平気なのかな?」
ビルットが半歩下がりながら聞いてくるが、もちろんここは否だ。
「寄生するって事は、魔獣化するって事だ。このままにしておくとすぐに蛇の魔獣が誕生するはずだ。」
「じゃぁ、ど、どうすんだ?」
「今討伐しないと、きっと大変なことになる。罠で拘束できているうちに討伐しよう。」
俺も背中のブロードソードに手を掛け、軽くひねって布を外す。
「どこを狙うんだ?スライムか?蛇か?」
サンタスも棍棒を構える。ギニンもサンタスに合わせてナイフを構えた。
「アル、わ、私、どうしようか・・。」
リンは魔術の素質はあっても、攻撃魔術を覚えている訳ではない。そのため、今回は安全な場所にいてもらおう。
「リンは、敵が見える位置で、なるべく後ろにいるんだ。目を離すなよ?」
「うん、そうする。」
「コーギ、どっちを狙えばいいと思う?」
「そうだな、同時に叩くか、寄生しきった所を一斉に叩くかじゃない?」
「早いうちに叩こうぜ!今なら、動いてないし!」
「アニキ、すでに寄生は始まってます。ここでスライムの一部が分離したら、厄介じゃないですか?」
「ぶ!分離?するのか?」
「わかりません。」
ギニンの意見は尤もだが、魔獣化した蛇がどのような変化を遂げるかは未知数だ。素人集
「わかった、同時に行こう。」
「よ、よし、俺様は蛇を叩く!」
「まて!鈍器ならスライムの方が・・・。」
サンタスは俺の話を聞かずに蛇へと殴り掛かった。コーギとビルットがスライムへ。ギニンはサンタスに続いて切りかかっているが、注意喚起した俺は一足遅れてしまった。
「とりゃ~!!」
「シッ!」
「えっ!」
「なっ!」
サンタスの攻撃が一瞬早く決まったため、蛇がしなりスライムを空中に打ち上げる形となってしまった。
寄生が始まっていた蛇だが、棍棒の一撃で地面にめり込み、ギニンに尻尾を切断され、頭部を炭のような状態になったまま絶命したようだ。で、スライムは・・・?
「サンタス君!上!よけて~!!」
リンの叫び声がサンタスに恐怖を与えた。大振りで棍棒を打ち下ろした直後で次の行動へ移せないでいる。
「アニキ!失礼!」
ギニンがサンタスを突き飛ばそうと体当たりをした。しかし体格差がありすぎて、その場で倒れこむだけで精一杯だった。
「サンタス!」
「よけろ!」
ビルットとコーギは盛大に空振りした姿勢を立て直しながら叫ぶ。
長い、とても長い一瞬の内に黒いスライムはサンタスとギニンを目掛けて落下していく・・。




