夕暮れの街の片隅で
「男爵夫人、ここに下への隠し扉があります。おそらくは、地下室か地下道へ続いていると思われます。」
「分かったわ、注意しながら開けてみましょう。」
「はっ、調べたところ、罠は無いようですが、魔術で錠がなされています。」
「・・・でしょうね。・・見せなさい?」
ハンナ様は扉の上で、指をくるくると回し、小声で短い呪文を唱えている。その横顔が、夕日に照らされて、とても幻想的に思える。
「・・・アンロック」
カチッっと音を立てて魔法の錠が外れる。
「いいわ、行きましょう。・・・松明・・・よりも・・・アルバート君、光の精霊を出して?」
「は、はい!・・・光り輝く精霊よ、力を貸してくれ・・・。」
俺の目の前が次第に明るくなり、手のひらを広げたくらいの光の玉が生まれた。
『なに?よんだ?お仕事?』
「一緒についてきてくれるか?」
『うん、いいよ?』
光の精霊は、俺の右肩付近をふわふわと浮かんでついてくる。
「じゃ、行くわよ?」
「はい。」
「先ずは私が降りて確認します。」
ギニンが先頭を買って出たので、精霊の光で梯子付近を照らす。
「便利だな、俺も習おうかな・・・。」
「そうだな、町に戻ったらガーラさんに聞いてみようか。」
そう声を掛けながら、俺が二番目にしたに降りた。
ハンナさんは・・・魔法で落下速度を調整しているのか、梯子も使わずに降りてくる。
その後に神官が続いて降りてきた。
「ハンナ様、色々な魔術が使えるのですね?って、当然ですね。日常的に色んな魔術を使っているのですか?」
「そんな事は無いわ?必要な時に、必要なだけ使うの。」
「・・・今の降りる魔術って、必要でした?」
「・・・下からだと、見えるでしょ?」
「・・・暗くて、見えませんよ・・・。」
「何よ、今の間は。」
「いえ、なんでもないです。」
「まぁいいわ。アルバート君、精霊をもう少し前方に配置してもらえる?」
ハンナ様の要望に応え、精霊にお願いする。すると、光の精霊はギニンの少し前を照らすようにゆっくりと進んでいった。なんていい子なんだ・・・。
「男爵夫人、扉です。」
「カギと罠は?」
「ない、と思います。」
「・・・人の気配は?」
「・・・何とも言えません。」
「・・開けるわよ!」
ギニンが力を込めて押すと、扉がゆっくりと開く。
扉が開くと、その隙間から微かに光が漏れてきた。宝珠の光だろう。
「・・・ここは・・・。」
扉が完全に開くと、そこは少し広い空間があった。・・・空間、そう、目の前には何もない。地面でさえも。
「更に下が有るのね。」
部屋の構造が筒状になっており、俺たちは筒の上部にいる状態である。
「あの、下で輝いているのが宝珠でしょうか?」
「そうね。あれが宝珠よ。・・・急ぎましょう。」
部屋の壁沿って、らせん状に階段が下に続いている。人が一人通れるくらいの幅なので、一列になって進む事になるが、全体を見渡しながら降りる事が出来るので、少し安心できる。
「・・・夫人、足音です!」
「!一旦戻るわよ!!早く!急いで!!」
夫人の指示で、扉へ向けて階段を上る。
扉まで到着したところで下の方で扉が開く音がした。
「先手を取られたわね。」
扉から、白くゆったりとしたローブを纏った、小太りの老人が姿を現した。
「グリフ!」
ハンナ様は、国王の名前を口にして目を見開いた。




