火の準備はできている!
俺たちは森に罠を仕掛けると、一端おっさんの待つ泉まで撤退した。
「お帰り~。何か取れたかね?」
焚火の横で背中を丸めながら枝を削っているおっさんが、片手を振りながら俺たちを出迎えた。
「俺の発案で罠を仕掛けてきたところさ!な、ギニン!」
「へい、アニキ!」
おっさんは俺たちの表情を見て、何かを察したようだ。
「へ~。器用な子もいたんだね~。じゃぁ今晩の飯は大丈夫そうだねぇ。」
そうか、昼飯はないんだな・・・。まぁ大丈夫だろう。サンタスも昼抜き宣言を聞いた後は笑顔が引きつっている。
「じゃぁ、夜の準備をみんなでしようか・・・。」
おっさんはのっそりと立ち上がると、自分の荷物からロープを取り出している。
「今日は特別、天幕だけ張ろうか~。」
「テントは張らないんですか?」
コーギの質問に、チッチッチ、と指を振って応える。
「基本は外套だけだよぉ。森の中では何があるかはわからないからね~。いつでも動けるようにしておくんだ。バックやザックにもたれかかったりねぇ。疲労が溜まっているときは枕にして横になるだけなのさ~。慣れないうちはきついかもね~。」
「ではなぜ、天幕を?」
俺は疑問をそのままぶつけてみた。
「女の子が朝露にぬれたらかわいそ~でしょ?」
ギニンといいおっさんといい、女性に甘いのな!どれだけ紳士っぽく振舞っても、清潔とは言えない身なりが台無しにしているぞ!まぁ、威張っているだけの奴よりは共感してやろう。
ふと、視界の端に何かをとらえた気がした。
目を向けてみると、泉から透明なものが這い出してきている。
「あ、あれは・・・。」
「あぁ、スライムだね。怖くないよ~。人を怖がるからほっといても大丈夫だよ~。」
「あれがスライムか!」
サンタスが棍棒を握りしめて振りかぶる。
「アニキ!さっきの・・ごにょごにょ・・・。」
ギニンがとっさに助言をしてサンタスを止めた。腰巾着だと思っていたがやるじゃないか、ギニン。考えの足りないサンタスが暴走しないのは、こいつが巧みに操作していたのか・・・。
サンタスは振り上げた棍棒をゆっくりと肩に乗せ、何事もなかったようにスライムを見送っている。
「スライムは原始生物だから単純な作りでねぇ~、水分と瘴気と簡単なコアがあれば生まれてくるんだよ。でも、生体があまり詳しくわかってないから、新しいことが分かったら、王国の学者に報告すると、金一封が貰えるってさ~。」
おっさんがおどけながら教えてくれた。
「まぁ、君たちは学者志望じゃないから、そろそろ罠を見に行くといいよ。何がかかっているかな~。」
「?何がって何ですか?」
「君たちの仕掛けた罠に、何かがかかったって言ったんだよ~。」
このおっさん。さすがプロのレンジャーだ。音も気配も全く感じなかったが、おっさんには分かったらしい。俺はこの気配感知のコツを聞いてみた。
「風で動く葉の音とは違う音がしたんだよぉ。音からして小型の動物かな?常に気を配ることさ。慣れだよ慣れ~。」
森の中で広範囲に気を配り続けると心が疲れる。だから普通の奴はパーティーを組んで負担を分散するのだ。
「ほらぁ、早くいかないと、ほかの奴に獲物を持っていかれるよ~?」
確かに!俺たちはギニンを先頭にして森の奥へ舞い戻っていった。




