第3劇 「初めまして」
「さあ、遊びましょうよおじさん」
白い少女はアダムに微笑む。だがアダムは動けないでいたそればかりか身体は小刻みに震え歯がカチカチと音をたてる。
「お前、お前は一体なんなんだよ!お前からは何も感じないこの現状への恐怖や疑念そして絶望普通の人間なら絶対に感じる筈の感情がお前には無い!」
アダムは直ぐに身構えるアダムの言う通り少女には何も無かった、少女はアダム達やこの世界そして今の置かれている現状等一切興味がなかった。唯一つだけ足元に倒れている少女の事だけは気に掛けていた。
その感情は愛や友情、いやもっと深い彼女にしか無い感情だった。
「待っててね有栖今からこのゴミ共を片付けたら直ぐに助けてあげるからね」少女は屈み込むと血反吐を吐く有栖の額に軽くキスをすると周りを見渡す。
「それじゃあ、今から貴方達には死んでもらうね」
少女は手に着いた有栖の血を自分の唇に塗るとそのまま伸ばし紅い笑みを作った。
その異様で禍々しいメイクを施した少女目掛けて男達の一人が何かを投擲した。
「あら、プレゼントにしては渡し方が乱暴ね」
少女はいとも簡単に投擲されたナイフを掴むと手慣れた手付きでナイフを回す。
「何勝手な事してんだよ!奴に武器をくれてやるなんて本当に使えない奴等だな!」アダムは直ぐに激昂しながらも身構える。ナイフを逆手に持ち手を前に出しながら腰を落とす教科書通りの臨戦態勢へと入る。
アダムのに続き男達も自らの獲物を構える。
「アハハ、大の大人が揃いも揃って情けないなぁそんなにか弱い私が怖いの?」男達は無言で円陣を組んでにじり寄る。傍から見れば多勢に無勢少女に勝ち目等無い筈だった、だが男達は後悔する何故なら彼女に刃物を与えてしまったのだから。
「グァァァー!」「どうしたんだボリス!?ガハ!」
「一体何なんだよ!」男達の悲鳴が上がる。最初の男ボリスは少女に対して近付きすぎた。
彼は槍の扱いに長けており少女との間合いも十分に取れていた筈だった。
「こんな長い棒で私が喜ぶと思ってる?」それがボリスが聞いた最後の言葉だった。
少女は槍との間合い5メートルの間を瞬時に詰め反応が遅れたボリスの首を跳ねた。
そして異変に気付きボリスに話し掛けたもう一人の男の腹を刺しそのまま顎に掛けて上へと振り抜いた。
この間僅か2秒の出来事だった。
「ボリス!アラン!化物だ!あんな化物に勝てる訳ねえよ!」咄嗟に一人円陣を解いて逃げ出そうとする。
「逃さないよ、誰もね!」少女はボリスの槍を拾い上げると腕の力だけで走り去る男へと投げる。
「助けてくれ!ばけも、、、」男の命乞いは届かず槍は男の背中から突き抜け木に刺さった。男は崩れ落ちながら槍を指す、見ると槍には男の心臓が刺さっており主を失ってもなお鼓動を続けていた。だがその鼓動も弱々しくなり数秒で止まると同時に男の命も終わった。
「ナイスショット!逃げるから悪いんだよ?」少女はケラケラと幼い子供の様な無邪気な笑い声を上げる。
「イカれてやがる、この異常者が!」アダムを除いた3人の男達が一斉に少女に飛びかかる。
「そうだよ!それを待ってたよおじさん達!」
少女は嬉々として迎え撃つまず一人目の手首を切り落とす、そして2人目を男が落とした手首を顔に投げつけ怯んだ所を喉を一突きし絶命させる。
そして最後の3人目はナイフを男事捨て去り変わりに落ちていた棍棒で膝を砕き苦痛でのたうち回る男の頭を棍棒で何度も何度も殴りつけた。
そして男の頭が潰れた西瓜の様になり痙攣する身体を見届けた後手首を落とされ痛みで泣き叫ぶ男の首を掴みそのまま捩じ切った。
淡々と流れ作業の様に行われた一方的な殺戮を前にしても尚アダムは冷静だった。
ここまでは予想通りだ俺の長年の経験からコイツのヤバさは一目で分かった。俺は奴等と同じ鉄は踏まない。
「なんてありきたりな事でも考えてるんでしょう?」
3人を殺戮した後少女は間髪入れずアダムの元へと来ていた。
「化物が!」アダムは直ぐに横薙ぎにナイフを振る。
「残念でした〜貴方のナイフ止まって見えるよ?ちゃんと殺る気出してよねお•じ•さ•ん?」
少女はアダムの横薙ぎを手で摘むとそのままアダムの金的を潰した。
「うわぁ痛そうだねでもおじさん達が悪いんだよ?私の大事な有栖をイジメたんだからね」少女の目の前でアダムが股を抑えながら声にもならない声でのたうち回る。
「それじゃあ片付いたし有栖を助けなきゃね」少女は転がる死体からパーツを抜き取ると横たわる有栖の元へと向かう。
「安心して有栖私が直ぐに治すからね」少女は有栖に優しく慈悲深く微笑むと有栖の治療を行った。
「有栖、有栖、起きて有栖?」誰だろうか私を呼ぶ声がする。
「有栖?有栖?起きなさい有栖」何でだろうか今目を開けてはいけない気がする。だが彼女の意思に逆らうように瞼がゆっくりと開けられる。
「やっと起きたわね有栖さあお母さんを見て!」目を開けるとそこには血塗れで首が取れかけながら私を睨む母の姿があった。
「嫌!来ないで!」有栖は咄嗟に仰け反るすると彼女の足に何かが当たる。
「酷いじゃないか有栖お父さんはお前を愛していたのに」足元をみると顔がザクロの様になった血塗れの父の身体が横たわっていた。
「違う!違う!違う!違う!私はやってない!違う!」
そう叫んだ後有栖は飛び起きた。
「痛い、え?私生きてるの?」有栖は身体の痛みこそあれど傷が塞がり命の危機から救われていた。
「あれは夢だったの?」さっきまでの変わり果てた両親を思い出しながら立ち上がろうとすると。
「有栖!」後ろから急に抱き締められた。
「え?ちょっと待って!」有栖は直ぐに振り解き振り向く。そこには自分とよく似た白い少女が居た。
「貴方は誰?私を助けてくれたの?」有栖が困惑しながら聞く。
「やっぱり憶えてないんだね」少女は哀しげな表情を見せたが直ぐに笑顔を取り戻し言った。
「初めまして私の名前はレイシー貴方を護る為に生まれた化物よ」彼女はそう言いながら無邪気な笑顔を向けていた。
第3劇 完 第4劇に続く