第2劇 「やっと会えたね」
「醜いでしょう?私は16の時に連れてこられてそれ以来ずっと精気を吸われているの」老婆が虚ろな目で語り出す。「この場所は女王の食料を調達する為の場所、奴等は農園と呼んでいるは」
「農園?食料?それってまさか」有栖がこの異様な状況を見て察する。「そう、私達は女王の餌を提供するだけに生かされた家畜なんだよ」老婆が絶望に満ちた声で言った。
「酷い、何でこんな事が出来るの?同じ人間なのに」
有栖は沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。
「貴方はまだ奴等の施術を受けて居ないみたいねさあここから逃げて、貴方だけでも助かって」老婆は古びた鍵を有栖に渡した。
「この鍵は、」有栖が受け取ると老婆が牢の入り口を指指す。
「これは奴等に施術を受ける際に連れて行かれた時に盗んだ鍵よ、これがあれば全てのドアを開けられる」老婆の話を聞き有栖は牢の鍵穴にはめ込む、すると鍵の形が変化しガチャリと音を立てて扉が開いた。
「それは特別な呪いが掛けられているの鍵穴に差し込めばその扉に適した鍵に変化する。」
「こんな良いものをありがとう、必ず貴方を助けるは」
有栖は地下牢を後にし階段を駆け上がる、一番上まで上がり鍵の掛かった扉を開け外に出た時だった。
「お嬢ちゃん何処に行こうってんだ?俺達も付いて行ってやるぜ?」扉を開けた先の広場でタバコを蒸せながら佇むアダムと男達が笑みを浮かべながら見ていた。
「寂しいじゃねえかよお別れもなしに出ていくなんてよ」アダムはタバコを捨てながら言った。
「貴方達地下に居た人に何をしたの?あの管は何?それに女王の食料って」有栖は怒りと恐怖に満ちた顔でアダムに訴える、アダムは平然とした態度で口を開く。
「君の見た通りさ彼女達は女王の餌でしかないそれ以上でも以下でもない。君だって豚や牛と言った家畜に対して情なんて沸かないだろう?」アダムは静かに応えた。
「異常よ、貴方やっぱり狂ってるは!同じ人間なのにどうしてそんな事が言えるの?貴方にも家族が居るでしょう?それなのにどうして人に対してあんな酷い事ができるのよ!」有栖は感情に任せて叫んだ自然と言葉が溢れ出し目の前の悪魔に対して説く、だが有栖の言葉を聞いた後アダムも含めた男達が声を挙げて笑う。
「いやあ、良いスピーチだねお嬢ちゃん久しぶりにまともな意見が聞けたよ」アダムが小馬鹿にしたように言った。
「だが、そろそろお喋りを終わらせようか今から君も下の家畜と同じく施術を行わせてもらうよ」アダムの顔が冷たい無表情に変わった。それを合図と言わんばかりに男達が有栖を取り囲む。
「大人しくしていれば痛め付けたりしない、さあ来てもらおうか」アダムが言うと部下の一人が有栖に近づく。そして有栖を拘束しようと手を掴んだ瞬間。
「グァァァ!手が!俺の手が!」
男の手が引き千切られ宙を舞う。
「許さない、貴方だけは許さない!」有栖はのたうち周る男を掴み物凄い勢いでアダムに投げつけた。
「お嬢ちゃん、どうやら君は普通の人間じゃないようだな」アダムはさっと横に避ける。
「お前ら手を出すなよ、久しぶりの狩りの時間だ」
アダムは静かに腰からナイフを抜くと有栖に向き合う。
「君は良い餌になりそうだな」
「必ず殺してやる!」
二人は言葉を交わすと獣の様に飛びかかった。
「終わったな、久しぶりに楽しめたぜお嬢ちゃん」
アダムは千切れ掛けた腕を自ら引き千切り捨てた。
そんな彼を血溜まりの中で有栖は見ていた。
周りの男達は歓喜しアダムの手当てを行う。
「身体能力はすげえが他はまるで素人だな、それじゃあ俺は殺せないぜ」
アダムは虫の息となった有栖に歩み寄る。
「こ、殺して、や、、る」有栖は力無く腕を上げるが直ぐにアダムに踏み潰される。
「気が変わった、お嬢ちゃん君は家畜にするには勿体ないそんな一生を終える位なら今ここで俺が殺そう。」
アダムは有栖に跨るとナイフを下に向ける。
「あばよお嬢ちゃん」
アダムは有栖にそう告げると有栖の心臓目掛けて深々とナイフを突き刺した。
「クバァ!ガハ!ゴボ!」有栖は口一杯の血液で溺れる。とても熱く、苦しい、これが2度目の死なの?こんな呆気なく二度目のチャンスは終わるの?
嫌だ、こんな屑に殺されるなんて、嫌だ、嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ
嫌だ!
薄れゆく意識の中で有栖の脳内にハッキリと声が聞こえた。
「有栖?私を呼んで?有栖助けてって言って?またあの時みたいに私を呼んでよ?さあ、さあ、さあ、さあ、さあ!私を呼んで!?」
その声を聞き有栖はあの時の事を思い出す。それは両親が死んだあの日、私はその光景を後ろからずっと見ていた。悲鳴を上げながら私の名前を呼ぶお母さん必死に止めて有栖!と何度も叫びながら首から噴水の様に血を噴き出しながら倒れ込む、お母さんは手足をピクピクと痙攣させながら血の海に沈んでいく。
そしてお父さんは返り血に染まった私を見て驚愕して何かを叫んでいたが、直ぐに持っていた刃物で刺され崩れ堕ちるそして何度も何度も刺されお父さんも真っ赤に染まっていく。
そして全てを終わらせた後彼女は私の方を振り返り言った。
「これで大丈夫だよ有栖もう貴方の邪魔者は居ないよ、これで二人きりだね」彼女は私の姿で優しく微笑んでいた。
「違う!違う!違う!違う!違う!違う!チガァァァァーう!」
有栖の突然の断末魔にアダムが飛び退く。
「ビックリしたぜ!最後にすげえ声出すんだな?」
有栖は激しく痙攣しながらピタリと止まる。
そして有栖の刺された箇所からそれは現れた。
「有栖ったら素直じゃないないんだから、でもそこがとても愛しいわね」彼女は有栖の胸を開きながら現れた。
その姿は真っ赤に染まった白銀の髪と透き通る様な白い肌をした美しい少女だった。
「何だよこいつは、何なんだよ!」アダムは凄まじい悪寒を感じながら叫ぶ。
少女はゆっくりと周囲を見渡すと最後に足元に転がる有栖を見た。
「やっと会えたね有栖、待っててね今このゴミ共を殺すから」少女はそう言うとゆっくりとアダムに視線を向ける。
「さあ、遊びましょう」彼女の冷たい笑みを見てアダムは今までに無い恐怖を感じていた。
第2劇 完
第3劇に続く