第3劇 「七人の女王」
かつてこの世界は一人の創造主によって生み出された、その創造主の名をカトレア•フォン•ナインズ。
彼女が何処から現れ何者なのかそれを知るものは居ない。彼女の力は凄まじくたった一晩のうちにこの世界を創り上げたそして彼女は最初の女王として君臨した。彼女の創る世界は皆が幸福でなければならないと言う考えから人々から嫉妬、憎悪、憤怒の感情が取り除かれた。人々は彼女の思惑通り争いが起きることも無く皆が助け合う社会を築いていた。最初の内はうまくいっていたがある一人の少女が疑問に思った、何故自分は他の人に合わせなくてはいけないのだろう?何故人々はこの事に疑問を持たないのだろう?
女王は自我を持った少女を気に入り新しい名を与え自分の後継者とすべく少女を引き取った。その後少女の様に自我が芽生えた者達が6人現れた。
女王は最初の少女を加えた7人を自分の養女として迎えそれぞれの自我の成長を見守る事にした。
やがて彼女達は様々な分野に対して頭角を現した、ある者は人心を纏め上げる力を、ある者は世の中を驚愕させる様な発明を、そしてある者は楽園を築いた。
女王は娘達の著しい成長に対して喜びと同時に危機感を感じていた、このままでは自分の創り上げた理想の世界が壊されてしまうそうなる前に止めなくてはそんな女王の考えは的中した。
7人の娘達全員にはある共通点があった、それは何処までも際限の無い欲望と野心だった。そして7人の娘達は母である女王を殺した、女王が死んだことにより彼女が創り上げた幸福な世界は崩壊した。7人の娘達は女王の死体を食べ創造主の力を引き継いだ、そして彼女達はそれぞれの世界を創り上げ自分自身が女王となった。
「そしてこれが今の偽りの世界と呼ばれる世界となっていったのだよ」
バニーは語り終えると空のティーカップをテーブルに置いた。
「ならこの世界は他に7つもあるのね?」有栖はバニーに問う。
「そう言う事になるねそしてこの世界に君を呼んだ目的何だが」バニーの視線が有栖を見据える。
「率直に言おう君に7人の女王を殺して欲しいんだ」
口調は穏やかでありながらもその言葉には確かな怒りと憎悪が感じられた。
「私の一族はその昔創造主であるカトレア様に仕える従者だった、カトレア様は第一に我々の様な弱気民の事を優先してこられた。だが、そのカトレア様もあの悪魔達によって殺され身も心も全て食い尽くされた。」バニーは握った拳を震えさせる、その姿を見て有栖はバニーの奥底に眠る執念を感じた。
「でも正直に言って私に何のメリットがあるの?それに彼女達に対抗出来る手段すらないけど?」
「君にとってのメリットは一つだけある、それは7人の女王を全て殺し君がこの世界を一つにまとめた時。君は一度だけ全能の力を行使出来る」バニーの言葉に有栖が反応する。
「全能の力?それってもしかして」
「端的に言うと君の望む願いを一つ叶える事が出来る、しかも君が望めばどんな願いでも可能だ」
有栖はその魅力的なメリットを聞きもう一つの問の答えを待つ。
「そして二つ目彼女達に対抗する力の件だね、ハッキリ言うと今の君では到底太刀打ち出来ないだが一つだけ救済措置がある」バニーは手品の様に何も無い手からトランプを1枚出す。
「ジョーカー?」トランプの絵札を見て有栖がこたえる。
「それは彼女達に対抗し得る協力者の事を指す、彼等ならきっと君の助けになってくれる。そしてもう一つは女王の隙を付き暗殺するんだ」
「そんな事が出来るの?だって人外の力をもっているのよね?」有栖は無茶だと首を横に振る。
「確かに彼女達はこの世の理を抜けた力を持っている、だが彼女達自身の力は普通のか弱い乙女と変わらない力を行使できなくすれば生身の君でも簡単に殺せる。」バニーは指を鳴らす、すると部屋の壁が裏返り様々な武器が姿を現す。
「君にこれを渡そう」バニーがそう言って渡したのは黒い腕輪だった。
「何これ?」有栖がバニーから受け取ろうとした瞬間腕輪が有栖の腕に巻きついた。
「それは拘束の腕輪と言ってね、対象者を一度だけ拘束する力があるんだ。つまりこれで女王を拘束すれば簡単に殺すことができる」
「でも一度だけなんでしょう?一人は殺せても後は無理なんじゃない?」有栖が言うとバニーが更に計画を話す。
「そう、こんな回りくどいやり方をするのは最初の女王を殺す時で良いんだよ。何故なら二人目以降は最初の女王から奪った力を使えば良いからね」
「でもどうやって奪うの?」有栖の問いにバニーが答える。
「女王の生きた心臓を喰らえばその力を君の物に出来るんだよ」それを聞き有栖の顔が青ざめる。
「そんな残酷な方法、私出来ないよ!」
「それをしなければ力は受け継がれない、良いかいアリス?君の気持ちを考えれば胸が痛むがそれでも彼女達に対抗するにはやらなくてはいけないんだ」
バニーの鋭い眼光を前に有栖は萎縮する。
「最初に会った時から感じていたんだけど、貴方は一体誰に話してるの?」その問いを聞きバニーが驚くそして微笑み掛けながら言った。
「これは失敬私とした事が君はまだ有栖だったね?大丈夫一人目の女王を殺す頃には私の求めていたアリスになっているさ」バニーの不気味な態度を見て有栖は萎縮する。バニーの言うアリスとは何なのかその事だげが引っ掛かる。
「説明はここまでだね後は現地に行って覚えてもらおうかな、付いてきてくれるかい?」バニーに促され有栖は部屋を後にした。
「ここが女王達の居る世界への入り口だよ」
バニーの後を追い客室をでて長い大理石の廊下を渡った先にそれはあった。血のように赤いドア、凍てつく氷に覆われたドア、灼熱の鉄板の様に焼き上がったドアなどバニーに案内された広間には7種類の部屋があった。
「このドアの先には女王達の世界がひろがっている、君にはこのどれかのドアの先を通って異世界へと行ってもらい女王を殺して欲しい。」バニーがドアを見つめながら言った。
「一度行ったら帰ってこれないの?」有栖が聞くとバニーが答える。
「女王を殺すまではこちらには戻れない、だが女王を殺せば世界が本来の姿に戻ろうとする、そのほころびから再びこちら側に続く道が現れる。」バニーは有栖を優しく撫でる。
「本当に君を無理矢理連れて来てしまってすまない、全て終わったら君を元に居た世界に戻す事も出来る」
バニーが有栖を見る目はとても悲しげで憂いている。
「大丈夫だよそれにさっ気も言ったけど私はあの世界に未練はないよ」有栖はバニーの手を握りながら言った。
「それに感謝しているよ私に2度目の人生をくれてもらって」有栖はイタズラっぽくバニーに返す。それを聞いたバニーも自然に笑顔になる。二人はお互い笑い合うとドアの前に立つ。
「必ず無事で戻って来るんだよ有栖」
「やっと私に向けて言ってくれたね、任せて必ず生きて帰って来るから」有栖はバニーに見送られながら赤いドアを開けた。この先どんな結末が待ち受けていても今の彼女なら乗り越えられるだろう。
序章 第3劇 完
次回新章開幕