第8劇 「JOKER」
「有栖、動かせる?」
「うん、平気だよ」
女王に折られた腕を擦りながら有栖は懐古する、女王との闘争から1週間が経ち二人は今レジスタンスの隠し街へと匿われていた。二人があの広場から逃げおおせた後街ではレジスタンスと民衆による衝突が繰り広げられていた。その規模は日に日に増していきこのままでは内戦状態になる勢いだった。毎日外では暴徒と化した住民達の足音や叫び声、それに混じって聞こえる子供の泣き声、それら全てがこの地下にまで響いていた。
「そういえばフランシスが私達に用があるから来て欲しいって言ってたよ」レイの伝言を受け二人はレジスタンスの司令室のある下水道の最奥へと向かった。
地下街は広くまるで人体に張り巡らされた血管の中を行き来している細胞の様に人々が行き交い生活を営んでいた。「二人共こっちだフランシスが待ってるぞ」司令室の門番の男に案内され二人は下水道の中心部に建てられた廃材小屋へと来た。建物は高床式になっており大きさは2階建ての一軒家程で中では毎日の様に会議が行われていた。
「フランシス、二人が来たぞ通してくれ」門番が戸を3回叩きながら言うと中から「通せ」と男の声が聞こえた。
二人が中に入ると大きな会議用の長机を囲みながらレジスタンスの幹部達が話していた。
「今こそ紅の城へ攻め込むべきだ!これ以上民衆と争う訳にはいかないだろう!?」幹部の一人が進言する。
「待て、待て物には順序があるだろう?確かに現在地上は民衆達が暴徒と化していてそれの鎮圧で城の兵士達が駆り出されている。だがそれでも女王には勝てない今はまだあの方の合図を待つべきだ」もう一人の幹部が宥める。
「参謀、司令官からの連絡はまだ無いのか?あれから1週間経つが今だに音沙汰が無いがもしかして既に女王の手に掛かったのか?」話を振られ参謀のフランシスに全員の視線が集まる。
「司令官からの連絡は現状まだ無い、だがあの広場での騒ぎの中1週間後の今日ここに戻って来ると言伝を受けている。そしてもし現れ無かった場合は女王に殺されたと判断し以降指揮権は参謀である私に譲渡される」
フランシスの説明を聞き幹部達が静まる中有栖とレイが入って来る。それを見たフランシスが声を掛ける。
「二人共来てくれたか、有栖手の具合は大丈夫かい?」
「はい、お陰様で助かりました。」軽く会話を済ませるとフランシスが席に着くよう促す。
そして二人も幹部達の座る席へと着く。
「さて、役者も揃った所で現在の状況を整理しよう、今地上では我々反女王のレジスタンスと女王の支持派の民衆達との衝突が繰り広げられている。我々の被害も甚大で現在も多くの仲間が犠牲になっている。そして3日前から女王の命により鎮圧部隊が送られ状況は更に悪化している。そして我々の司令官であるあのお方がまだ現れていない中今後の采配をどうするかで意見が割れている」
フランシスの話を聞き幹部の一人であるロバーツが意見を出す。「今が絶好の機会だ今直ぐに女王の城に攻め込むべきだろう!城の中は鎮圧部隊を送った事で手薄の筈だ今を逃したら女王を討つチャンスは永遠に訪れない」
その意見を聞きもう一人の幹部であるリオーネが意見する。
「私は反対するね今は司令官の安否を確認するべきだ、今直ぐに城に攻め込むと言った所で一体何人ついてくるんだい?今は私達レジスタンスの象徴である司令官の帰還を待ってそこから立て直しを図った方が良い気がするね」リオーネの意見とロバーツの意見を聞きフランシスが口を開く。
「二人の言い分は分かった、それでそれを踏まえて外から来た者達の意見を聞きたい」フランシスがそう言いながら有栖とレイの方を見る。
「単刀直入に言います私は女王を殺す事ができます」
有栖が言うと一斉に幹部達が有栖を見る。
「こんな小娘にあの化け物を殺す術があるだと?冗談にしては笑えないな」ロバーツが小馬鹿にした様に言う。
「それが出来るなら何であの時そうしなかったの?そうすればあんな痛い思いせずにすんだのにねお嬢ちゃん」それに続くようにリオーネも苦笑しながら言う。そして二人の反応を見た他の幹部達も冷笑する。
「レイ私との約束覚えてる?」無言でナイフを抜くレイに囁く。「ごめん、でもこれ以上有栖を貶すようならその時は私にも我慢の限界があるから」レイはそう言いながらナイフを納める。
「信じていただけないのは分かります、ですが女王の隙をつければ殺せます」有栖が言うと一斉に笑いが巻き起こる。ある者は手を叩き、またある者はテーブルを叩きながら笑い転げる。
「お嬢ちゃんコメディアンの才能があるな」
「こりゃぁ一本取られたな」
その光景を見てレイが冷たい表情でナイフを抜き去ったその時だった。
「何がそんなに可笑しいんだね?」フランシスの冷静な一言にさっきまで笑って居た者達が静まり変える。
「有栖、君の話を聞こう話してくれ」フランシスに促され有栖は自分の目的とバニーから授かった拘束の腕輪、そして協力者であるJOKERについて話した。
「つまり君は別の世界から来た人間で、その腕輪が女王に対抗出来る唯一の手段なんだね?」有栖の話を聞いたフランシスが真剣な表情で聞く。
「はい、私にこれを授けてくれた人の話が正しければこの腕輪で一度だけ女王を拘束する事ができます」
有栖の話を聞き他の幹部達も聞き入る。
「それでそのJOKERが誰かどうやって分かるんだ?」ロバーツが聞く。
「聞いた話では資格のある者が現れると自ずと分かると言われました。」有栖が答えるとロバーツが言う。
「なんだその曖昧な話はそれを聞いてその腕輪の信憑性も怪しくなったな」
「私は信じようこの絶好の好機を作り出したのも彼女達自身でもあるしこれも何かの巡り合わせだろう」フランシスがそう言った直後司令室のドアが叩かれる。
「フランシス!司令官が戻って来たぞ!」門番の伝令を聞きフランシスを含めた幹部達が司令室を飛び出す。二人も後に続き地下街へと向かう。
「生きておられたのですね!」「貴方は私達の希望だ死なれては困る!」街の中は人だかり出来ており幹部達がその人だかりを掻き分けながら進む。
そして司令官の前に来ると一斉に跪づく。
「お待ちしておりました司令官」二人も後に続きながら進む。
「ああ、皆無事で良かった」聞き覚えのある声を聞き立ち止まる。
「司令官、指示通り二人を保護しています」フランシスがそう言うと立ち上がり二人に紹介する。
「二人ともこの方が我々の司令官にしてこの国カロッザの真の王族」フランシスの説明を受け黒い鎧に身を包んだ美丈夫が現れる。
「改めて自己紹介させて頂こう、カロッザ王国第34代国王アイザック・ギグスの嫡男にして第一王子のアーサー・ギグス以後お見知り置きを」そして深々と礼をする。
「貴方がレジスタンスの司令官?女王の剣と呼ばれていた貴方が?」レイが有栖を後ろに隠しながら警戒する。
「話せば長くなるがこれだけは言わせてくれ、私は君達の味方だ」
「そんな簡単に信じられる訳無いでしょ?直接刃を交えた私には分かるあの時の貴方は本気で殺しに来てたでしょう?そんな奴信用できない」レイがアーサーに冷たく言う。
「何これ?」レイの背後に居た有栖が困惑した様に言った。見ると有栖の手の甲に獅子の紋章が浮かび上がる。
「その紋章が何故君にも」アーサーがそう言うと自分の手の甲を見せるそこには有栖と同じ紋章が現れていた。
「これがバニーの言っていた資格?それじゃ貴方が」
有栖はアーサーの方を見て呟いた。
「JOKER」と。
第8劇 完
第9劇に続く。




