03 再会
僕は改めて内山さんに頭を下げてお礼を言い、会社を後にする。
外に出ると、涼しい風が頬を撫でた。
季節は秋。歩くのにちょうどいい、心地よい気温だ。
僕は風に吹かれながら、徒歩でひーちゃんとの待ち合わせ場所へと向かう。
そして、歩く事20分。
僕は待ち合わせ場所の噴水広場に到着した。
現在時刻は17時45分であり、待ち合わせは18時なので、15分早く着いたことになる。
この噴水広場は、このあたりでは有名な待ち合わせスポットだ。
普段から人は多いのだが、明日が土曜日ということもあり、いつも以上にに多くの人達が集まっていて、かなりの賑わいを見せていた。
「あ、」
そして。そんな多くの人で溢れている中に、僕は見覚えのある女性を見つけた。
いや、見覚えがあると言うと、語弊を感じさせるかもしれない。
何故なら、その女性は女性であること以外に何一つ情報が分からなかったからでる。
というのも、その女性は深めにかぶったニット帽にサングラス、さらにマスクまで装着していて、顔のほとんどを完全に隠していたのである。
彼女を女性だと判断できるのは、帽子の下から覗く黒く長い髪と、黒のロングコート越しにもわかる胸のふくらみ――それだけであり、ぱっと見は不審者も同然であった。
にもかかわらず、僕には直感的に分かった。
彼女は、ひーちゃんであると。
では、何故分かったのかというと、僕にも上手くは説明は出来ないが、高校まで一緒に過ごしてきたが故の空気のようなものかもしれない。
なんというか、立ち仕草や雰囲気が僕の知っているひーちゃんだったのだ。
僕はひーちゃんのもとへと歩き出す。
待ち合わせの十五分前であるにもかかわらず、すでに僕より先に到着していたことに驚きを覚える。
同時に、もしかするとひーちゃんも再会を心待ちにしていたのかもしれない――そんな思いが胸をよぎり、わずかに頬が緩む。
もちろん、それは僕の一方的な想像であり、もし的外れであれば、気恥ずかしい話ではあるのだが。
ひーちゃんも僕に気づいたのか、軽く手を振ってくる。
こうして、実に四年半ぶりに、僕はひーちゃんは再会を果たしたのだ。
「久しぶり。ひーちゃん」
「うん。久しぶり、たけくん」
会うと僕達はお互いに軽く挨拶を交わす。
メールや通話でよく近況報告はしていたので、特段、感動的な再会みたいな雰囲気にはならない。
会うのは久しぶりだが、話すのは先週ぶりなので当然といえば当然である。
因みに、気になっていた人もいるかもしれないが、ひーちゃんと言うのは僕が光ちゃんを呼ぶ時の呼び名である。
僕としては中学生あたりからこの呼び方が恥ずかしくなり、何度か、呼び方を光ちゃんにしよう、と提案したのだが、絶対にイヤといって譲らなかった為、諦めて、大人になった今でもひーちゃんと呼んでいるのである。
「ふふ、会うのは久しぶりだけど、全然そんな感じしないね」
マスク越しに、ひーちゃんが微笑んだ。
「そりゃ、週一で連絡取り合ってたらね、懐かしいとはならないよ」
「遠く離れていても、まるで隣にいるみたいに話せるのがSNSの良いところだけど――感動の再会ができないのは欠点かも。私としては、ドラマのワンシーンみたいな再会がしたかったんだけどな」
「会うなり感極まって、抱きついたりとか?」
「そうそう。そして、そのままキスまでいっちゃうやつ」
ひーちゃんの言葉に、僕は苦笑いを返す。
「ロマンチックだけど、僕たちじゃそうはならないよ。だって、恋人じゃないんだし」
「はぁ……ほんと、そういうところ変わらないよね」
何故か、僕はひーちゃんにため息をつかれた。
彼女の冗談に付き合っただけのつもりだったのだが、これは一体どういうことだろう。
「まぁいいや。ここじゃ立ち話も何だし、たけくんの家に連れて行ってよ。確か今、一人暮らししてるんでしょ?どんな所に住んでるのか見てみたいし」
「うん。僕もそのつもりだったよ」
「あ、でもその前にコンビニにでもよる?何か夕ご飯買わなきゃだし」
「それは大丈夫だよ。せっかくの久しぶりの再会なんだ。今日は僕が腕によりをかけてひーちゃんの好物を作るよ」
「ホントに!?」
「うん。確かひーちゃん、肉じゃがとだし巻き卵が好きだったよね?前もってに材料は買ってあるから、帰ってから作るよ」
「さすが、たけくん。こういう嬉しい気遣いができるところ、昔から変わらないね。たけくん、料理上手だからすごく楽しみ」
「期待に応えられるよう、頑張ります。それじゃあ、行こうか。ここじゃ、ひーちゃん、誰かに気づかれるかもしれないから」
さっきも述べた通り、この噴水広場は今現在、かなりの人で溢れており、こうして話している今もどんどんと人が増えてた。
しかも、あちこちで、今日発表された、ひーちゃんの事についての話題が上がっていたのだ。
万が一、星月 光がここにいる事を気付かれたら、大騒動になってしまうのは明白であったので、早くこの場を離れる必要があった。
「そうだね。ただでさえ、今の私、不審者みたいな格好で変に注目集めてるから。早くこの場を離れますか」
そうして、僕とひーちゃんは人の多い噴水広場を離れ、僕の住んでいるマンションへと向かうのであった。
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