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世界的女優と幼馴染な僕  作者: 河蛙
28/30

28 光特報


 突如として、ひーちゃんの話題が出てしまい、僕が内心で小さくため息をつく中、内山さんが口を開く。


 「へぇ。わざわざ専用の通知音を設定するなんて……もしかして中野くんって、光ちゃんを推してるの?」


 その言葉に、中野くんは勢いよく身を乗り出して答えた。


 「はい! それはもう! 実は俺、星月 光が海外でまだ無名のエキストラだった頃から追いかけ続けてる古参ファンなんすよ!」


 「そんな昔から? それは筋金入りね」


 「ほ、僕も初耳だなぁ……そんな昔からひーち……いや、光ちゃんを追ってたなんて」


 内山さんは素直に驚いた表情を浮かべ、僕もまた、まさか中野くんがひーちゃんの古参ファンだったなんて初めて知り、額に嫌な汗が垂れてしまう。


 「ふん。それは二次元ゲームオタクのお前に話しても盛り上がらんと思ったから黙ってただけだ。だが──もし今から光を推す気があるなら、俺が喜んで指南してやるぞ! 何せ俺は星月 光ファンクラブの一員だからな! 俺に星月 光について語れないことなど、一つも存在しない! 先週金曜に話した内容なんて、ほんの断片にすぎないんだぞ?」


 「星月 光ファンクラブって……あの有名な巨大ファンクラブ? 中野くんってその会員なの?」


 「ええ。しかも、ただの会員じゃありません。何を隠そう、俺はそのファンクラブの最古参にして──創設メンバーのひとりなんです!」


 中野くんはそう胸を張り、誇らしげに告げた。


 「え? マジで? それって相当すごいことじゃない? だって、あのクラブって国内外に四十万人の会員を抱えてるって聞いたわよ?」


 驚きを隠せない内山さんは、目を丸くして中野くんを凝視する。

 かくいう僕も、まさか中野くんがそんなポジションにいたなんて夢にも思わず、ただただ驚くばかりだった。


 「フッ。まぁ、ファンクラブのメンバーの大半は、光がアジア系女優として初めての賞を取って脚光を浴びた、そのタイミングでようやく星月 光という女優の存在を知った新参者ばかりですがね。光が賞を取って知名度が上がると同時に、ファンクラブの存在も広まって、一気に巨大な応援団体へと膨れ上がりましたが──最初の頃は、十数人でひっそり活動していたんですよ」


 中野くんはそこで言葉を切り、財布を取り出してゴソゴソと中を探り、一枚のカードを取り出した。


 「これが、その最古参メンバーである証です!」


 差し出されたカードには《星月 光ファンクラブ会員証》の文字。中野くんの顔写真と名前が印字されており、さらに──金色に輝く会員番号「000003」の数字が刻まれていた。


 「……わっ、すごい。一桁ナンバーの会員証だ」


 「ですね。十数万人規模の団体での一桁ナンバーのファンカードなんて初めて見たよ。」


 そのカードを目にして、内山さんと僕は小さく驚きの声を漏らす。


 そんな僕たちの反応を見て、中野くんはにやりと口元を吊り上げ、誇らしげに言った。


 「宮野、お前は幸運だぞ。なんせ、一桁ナンバーの光ファンから直々に教えを受けられる機会なんて、滅多にないからな。同期のよしみだ。俺がお前を、どこに出しても恥ずかしくない立派な“光信者”に育て上げてやろうか?」


 そう言って、ひーちゃんについて教えを説こうとする中野くん。

 だが正直、それはごめんこうむりたい話であった。


 「い、いや……僕は遠慮しとくよ」


 「なんだ、つまらん」


 中野くんは不満そうに顔を顰めた。


 中野くんには申し訳ないが、僕の立ち位置的に、ひーちゃんについて、熱心に語られるのは少々キツイものがあるのである。

 実際に金曜日の時も、終始反応に困ったし。


 「と、まぁいい。今はそれよりこっちだ! 一体どんな最新情報が出てきたんだ? 光が映画告知で日本に帰国するってところで情報は止まってたからな。いやぁ、楽しみだぜ!」


 中野くんは、ウキウキした表情でスマホに視線を落とした。


 その瞬間、僕の体に緊張が走る。

 理由はもちろん、ひーちゃんの事務所からの最新情報についてである。


 まさか中野くんが、ここまでひーちゃんの大ファンだったとは思ってもしていなかった。


 もしその情報が映画告知に関するものなら問題ない。だが──もし交際の件だったら。


 その時の中野くんの反応を想像するだけで、気が滅入る。


 もちろん、僕がひーちゃんの交際相手だとバレることはないだろう。

 しかしそれでも、中野くんの機嫌が荒れるのは、先ほどの熱弁からして容易に想像ができた。


 どうか、映画告知関係の情報でありますように──。


 僕が必死にそう願う中、中野くんは画面を凝視し、ひーちゃんの最新情報を確認していく。

 そして次の瞬間──目を見開き、息を呑んだ。


 「……な、なんと!」


 「えっ、何て書いてあったの?」


 「驚かないでください。なんと……星月 光、既に日本に到着していて、今週の金曜日には映画告知の記者会見を開くそうです!」


 中野くんは驚愕した表情を浮かべて告げた。


 ──よかった、そっちの情報だった!

 僕は思わず胸を撫で下ろし、大きく安堵の息をつく。


 そんな僕の横で、内山さんも中野くんほどではないにしろ、少し驚いた顔を見せて口を開いた。


 「え? 光ちゃんって、もう日本に戻ってるの? てっきり帰国日時を公表してから帰ってくるものだと思ってた」


 どうやら、内山さんも僕と同じように“芸能人なら帰国もイベントの内に入る”と考えていたらしい。


 「まぁ、確かに母国への帰国ですから、そういったファンサを期待していた人は多いと思いますよ。でも、俺は逆に安心しました」


 「え? 安心? どういうこと?」


 小首をかしげる内山さん。不思議そうな視線が中野くんに向けられる。


 その内山さんの疑問に中野くんは応える。


 「どういうことかと言いますとね。大前提として、光は時間をかけて少しずつ人気を積み上げたタイプじゃなくて、いきなり現れた超新星で、一気に爆発的な人気を得たタイプなんです」


 「まぁ、にわかの私でも、なんとなくそういうイメージはあるわね。それで?」


 ここで中野くんは表情を少し曇らせる。


 「悲しいことに……いきなり頭角を現すと、その人気に比例して必ず多くの反感も集まるんですよ。“何だ、この突然出てきた新参者は”って感じの批判が」


 「そうなんだ……」


 「はい。だから、日本といえど、帰国の時間や場所を下手に公表すれば、タチの悪い連中に狙われる危険がなきにしもあらずなんです。だからこそ、今回の密かな帰国は正解だったと思います」


 そう理路整然と説明を終えた中野くん。

 それに対して、内山さんは感心したように目を丸くし、ゆっくりと頷いた。


 「なるほどねぇ。流石、古参ファンなだけあって、光ちゃんのことをしっかり考えてるのね」


 その言葉に、僕も胸の奥で同意する。

 正直なところ、僕は中野くんなら「空港で出迎えしたかった!」と嘆くかと思っていた。けれど、実際の彼はひーちゃん──星月 光の安全を何より優先していて、僕はその姿勢に、浅はかな予想をしてしまった自分を恥じた。


 「フッ……まぁ、ホンモノのファンなら当然の考えですよ。ファンは応援するために存在するのであって、自分のエゴを押し付けるためにいるわけじゃない。光の状況や気持ちを考えられないやつなんて、ファンとは呼べませんから」


 そうファンの在り方について語る中野くん。


 「素晴らしい考えね」

 「うん。中野くんはファンの鏡だと思うよ。」


 「いやぁ。当たり前の事をしてるだけですよ。はははは!」

 

 内山さんと僕が素直にそう口にすると、中野くんは謙遜しつつも、嬉しそうに笑う。

 頬が緩みきっていて、褒められてご満悦なのが一目瞭然であった。


 そんな中野くんを見ながら、僕と内山さんは心の中で同時に思う。


 ((その気遣いを、恋人作りに活かせたら良かったのに……))


 と、


 もちろん、それを口には出したりはしない。

 わざわざ分かりきってる地雷を踏みにいくほど愚かではないのである。


 とはいえ、褒められて浮かれていた中野くんも、ふと我に返ったのか首を軽く振る。


 「と、それはそれとして──確かに光がもう日本に来てたことは衝撃ですけど、それより重要なのは後半の文です!」


 「金曜日に記者会見を開くってとこ?」


 「はい、そうっす!これは是非とも見ないといけませんね。本当なら会見場に駆けつけたいところですが、関係者以外は入れないでしょうし……せめてライブで見なければ!」


 「でも金曜日は普通に会社でしょ?」


 「丁度、昼休みに重なる時間に記者会見を開くみたいなので大丈夫です。まぁ、仮に仕事と重なっても、有給を使って見ましたけどね」


 「そこまでしてリアルタイムで見ないといけないものなの?」


 そう、内山さんが口にした何気ない疑問の言葉に、中野くんは勢いよく噛みつく。


 「当たり前ですよ!ファンとして当然です。リアルタイムで見ないなんて、末代までの恥ですよ!!」


 「そ、そう……」


 中野くんの勢いに若干引き気味の内山さん。 

 まぁ、ファンじゃない一般の人からすれば、それが普通の反応だろう。

 僕もまた、中野くんは本当にひーちゃんのことが好きなんだなと、その熱量を思い知らされる。


 そして同時に、ひーちゃんに関する情報が交際関係ではなかったことに改めて胸を撫で下ろした。


 ……だが、その時の僕は忘れていた。

 つい三十分前。中野くんに「交際している」と告げた際、急に僕を褒め出したあの瞬間。そして、ひーちゃんとゲームをしていたあの時、ひーちゃんの機嫌が治りかけてたあの瞬間。僕の予想に反して起こったあのパターンを。



 「ピロン」



 そう──安心している時ほど、望んでいない展開はやってくるものなのだ。


 中野くんのスマホから再度、通知音が鳴る。

 それもさっきと同じ音が。


 「ん? また何か情報が来たぞ?」


 スマホを手にしていた中野くんは、そのまま画面を開く。

 指先でスワイプし、目を走らせた瞬間──


 中野くんが固まった。

 驚愕か、動揺か。又は両方が合わさった様な表現を浮かべ、声も出さず、ただスマホの画面を凝視したまま硬直していた。


 「な、中野くん?」


 僕が恐る恐る声を掛けると、中野くんは何も言わずに自身のスマホを僕たちに見せる様に、スッとテーブルの上に置く。


 僕と内山さんはそのスマホの中を確認すると、そこには──




*日本語訳


交際に関するご報告


平素より、弊社所属タレントを温かくご支援いただき、誠にありがとうございます。


この度、当社所属の 星月 光 が交際を始めましたことをご報告申し上げます。

お相手は一般の男性です。


本人たちは、この出来事を自ら公表する決断をいたしましたが、あくまで私生活の一端であり、今後は温かいご理解とご配慮を賜れれば幸いに存じます。


また、報道関係者の皆さまにおかれましては、お相手が一般の方であることから、プライバシーを尊重していただけますよう、お願い申し上げます。


そして、日頃より応援してくださるファンの皆さまへ──どうか変わらぬご支援とご声援を賜り、光の芸能活動をこれまで同様に支えていただければ幸いです。


星月 光は、これまで寄せられた温かい応援に心より感謝するとともに、今後も変わらぬ情熱をもって活動を続けてまいります。


代理発表 芸能事務所 ノヴァ・アーティスツ・マネジメント



 「…………」


 静寂が場を支配する。


 内山さんはこの発表に目を見開いて、凄く驚いた表現を浮かべている。しかし、その驚き以上にひーちゃんの熱狂的なファンである中野くんの反応が気になるのだろう。下手に声を出せないでいる。


 そして僕もまた、まさかのワンクッションを挟んでからの、フェイントのような交際報告に、ただただ呆然とするしかなかった。


 期待を煽っておいて一気に突き落とされる。

 上げて落とされるとは、まさにこのことだ。


 首筋を伝う汗は、緊張のせいなのか、それとも恐怖のせいなのか。自分でも判別できない。

 けれど胸の奥に広がるざわめきだけは、はっきりと自覚していた。


 僕はごくりと喉を鳴らし、内山さんと同じ様に中野くんの方へ、恐る恐る視線を隣へと向ける。


 するとそこには、感情という感情が抜け落ちたかのように、虚ろな瞳で宙を見つめる中野くんの姿があった。まるで思考が停止した人形のように、ただ呆然と座り込んでいる。


 10秒……20秒……30秒……


 耐えがたい沈黙だけが場を支配し、時間の流れが妙にゆっくり感じられた。


 そして四十秒を過ぎたあたりで──


 「グボァ!!」


 ドンッ!


 止まっていた時計の針が一気に動き出したかのように、中野くんは勢いよく前のめりになり、テーブルに突っ伏した。


 「中野くん、大丈夫!?」

 「中野くん! しっかり!」


 僕と内山さんは慌てて身を乗り出し、声をかける。


 だが中野くんは答えない。ただピクピクと痙攣を繰り返し、苦しげに身じろぎするだけだった。


 そして、さらにそのまま、一分……二分……三分……と時間が経過していき、


 「うっうう」


 五分ほど経ったころ、ようやく彼は震える腕でテーブルを押し、ふらつきながらも体を起こした。


 「な、中野くん、大丈夫?」


 内山さんが心配そうに声を掛ける。


 「は、はい。大丈夫です。ご心配をおかけしました。な、何とか致命傷で済んでます」


 「それ全然大丈夫じゃ無いんだけど」


 思わずツッコミを入れる内山さん。


 「た、確かに文面を読んだときは脳の理解が追いつかずに、フリーズしてしまって、そして追いついたと同時に押し寄せる感情の波でショートしてしまいましたが、今は何とか頭を整理して立ち直りました」


 「とてもそうには見えないんだけど。側から見て中野くん、今にも死にそうよ」


 内山さんがいう様に、中野くんは今、顔面蒼白で死んだ目をなっており、体全身が震えていた。とてもではないが、大丈夫そうには見えなかった。


 「い、いえ、ホントに大丈夫です。確かに現在進行形で物凄いショックは受けてますが、でも、ずっと以前からこうなる事は覚悟はしていたので、」


 「え?」


 「覚悟してた?」


 僕と内山さんはがどういうことかと疑問に思うと、中野くんは掠れた声で続けた。


 「実は光……公に出始めた頃から、ずっとスマホにストラップを付けてたんですよ」


 「あ……」


 「ストラップ?」


 内山さんはまだ意味が分からずに、首を傾げるが、しかし、僕はそれを聞いた瞬間、すぐに理解した。


 そっか、そういえばそうであった。

 僕達はあのストラップがあったんだった。


 僕が心の中で納得してある中、中野くんはさらに説明を続ける。


 「これは光を推してるファン界隈では有名な話なんですが……光には恋人がいるんじゃないかって、ずっと囁かれてたんです。その理由が、今言ったストラップなんですよ」


 そこで一度言葉を切ると、中野くんはスマホを取り出し、画面を操作して僕らに見せた。


 「これです」


 表示されたのは、光がスマホを持つ場面を拡大・鮮明化した画像だった。写真の片隅にあるストラップ部分がアップになっていて、そこに刻まれた文字まではっきり読み取れる。


 「見てもらえれば分かる通り、これ……ペア仕様のストラップの片方なんですよ」


 「ホントだ。光ちゃんって、こんなのつけてたのね。全然気づかなかったわ。えっと、英語で……“we are together”。私たちは一緒、って意味ね」


 「はい、そうです。そして、すでにもう片方の存在も特定されていて……そっちには “Even if we’re apart” と書かれてるんです。つまり合わせると、“離れていても私たちは一緒”って意味になるんですよ!」


 「……へぇ。そうなんだ。確かに、それなら恋人がいるって噂になっても不思議じゃないわね」


 内山さんはわずかに間を置いてそう言い、そしてほんの一瞬だけ、僕の方へ視線を向けた──気がした。


 気のせいかな?


 心の中で首を傾げていると、中野くんは声を荒げ、ヒートアップする。


 「俺はですね! これを知った時、当然“恋人じゃない”可能性に賭けましたよ!! このストラップはただの女友達とのお揃いで、恋人とのものじゃないんだって、自分に言い聞かせて! でも現実は残酷でした。案の定、いたんですよ! これが!! チクショー!!!」


 ドンッ!


 テーブルを叩き、顔をうずめる中野くん。その姿はまるで、酔っ払って愚痴をこぼす会社帰りのサラリーマンのようだった。違うのは、今が真昼間で、しかも彼が完全にシラフだということだろう。


 そんな中野くんの姿に、当事者である僕は、物凄く居たたまれない気持ちになる。


 そしてまた、この昼下がりの場に似つかわしくない騒ぎは、周囲の客や店員たちの好奇の視線を集めていた。


 「中野くん。もうちょっとリアクション抑えて。周りの人の目、すごく集めちゃってるわよ」


 「うぅ……すみません。覚悟はしてたことですが……いざ現実を突きつけられると、やっぱりショックで……」


 「そうみたいね。ファンとしては辛いでしょうし……でも、こればかりは時間で解決するしか──」


 「でも!!」


 ドンッ!!


 「!!!」


 中野くんは内山さんの言葉を遮り、さらに強くテーブルを叩いた。


 そして立ち上がり、注目を集める中で大きな声を張り上げる。


 「確かにこの報告は胸が裂けるほどに辛いものです。しかし! 俺は、星月 光を愛する真のファンとして! 彼女の幸せを心から祝福します!!!!」


 「お、お〜!」

 「いいぞ兄ちゃん!」


 パチパチパチパチ!


 中野くんの高らかな声が店内に響き渡る。

 意味や事情がわからずとも、その男気あふれる宣言に、周りの客たちは感嘆の声を上げて自然と拍手を送っていた。


 「な、中野くん。すごいよ」


 「うん。これは誰にでもできることじゃないと思うわ」


 当然、僕と内山さんも感嘆し、周囲に合わせて手を叩いた。


 ……これ、本当のことを言っても怒られないかも?


 拍手を送りながら、ふとそんな考えが頭をよぎる。だが、すぐに首を振ってその考えを振り払った。


 いやいや、やっぱり危険だ。

 中野くんが祝福しているのは、あくまで“星月 光”であって、“僕”ではない。

 もし僕が「星月 光と付き合ってます」なんて口にしたら──


 ブルッ。


 背筋が凍る。考えただけでも恐ろしい。


 それに、よくよく考えたら、これは僕だけじゃなくて、ひーちゃんにも関わる問題なのだ。

 僕が交際を不用意に漏らして、そのせいで、ひーちゃんに飛び火が行く可能性もゼロじゃない。

 それらを考えると、やっぱり、伝えるって選択はないな。


 と、僕がそう内心で考えを巡らせていると、中野くんが急に僕の方へ向き直り、


 そして──


 「おい、宮野。今日の夜は長くなるぞ。終電を覚悟しておけ」


 事前に釘を刺すかのように、そう通告してきた。


 「中野くん。流石に週初めなんだし、そんなに宮野くんを付き合わせたらダメよ」


 すかさず内山さんが止めに入ってくれたが、僕はそれを制する。


 「いえ、内山さん。大丈夫です。今日は中野くんに付き合います」


 「え? いいの?」


 「はい。僕自身はお酒をそんなに飲みませんし、明日の仕事に影響が出ることもありませんから、安心してください」


 「……まぁ、宮野くんがそう言うならそれでいいけど」


 止めに入ってくれた内山さんには感謝だが、中野くんがこうなってしまっている原因の10割は僕にあるのだ。

 ならば今日、真夜中まで中野くんの愚痴聞きに付き合うくらいは、しなければならないだろう。


 「今日は飲むぞー!! すみませーん! 生ひとつ!」


 「今はお昼よ。夜まで我慢しなさい」


 中野くんを軽く嗜める内山さん。そのやり取りを眺めながら、僕は夜を覚悟して、ひとつ深いため息を吐くのだった。

最後までお読み下さりありがとうございました!

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