27 恋愛ご教授
「いただきます」
僕はテーブルに並んだ中華セットに手を伸ばす。
まずは、やっぱりメインの酢豚からだ。
箸で豚肉と玉ねぎ、ピーマンを一緒に掴み、つやつやと光るあんにしっかり絡めて口へ運ぶ。
──うん、美味しい!
甘酸っぱさと濃厚さが一気に広がって、思わず頬がゆるむ。
恐らく黒酢を使っているのだろう。
まろやかでコクがありながら、しつこさを感じさせない。絶妙なバランスで仕上がっている。
では次は、白ご飯と一緒に頂いてみる。
僕は白ごはんに酢豚を乗せて、一気に掻きこむ。
──言わずががな。やっぱり、美味しい。
酢豚の甘酢タレがご飯に絡んで、箸が止まらなくなる。
「これ、美味しいですね!外はカリッとして中はジューシーで……濃い味付けがご飯に合います」
そう感想を口にすると、内山さんは嬉しそうに頷いた。
「そうでしょ! このお店のおかずって、ご飯が進むものが多いのよね!」
お気に入りの店の味を共感できたからだろう。内山さんも満足気である。
「あ、そうそう。ここのご飯はおかわり無料だから、遠慮なくしてね。」
内山さんは、言い忘れていたとばかりに、さらりと教えてくれる。
この値段でおかわり自由とは……驚きである。
「すいませーん! ご飯おかわり!」
間髪入れずに中野くんが手を挙げて店員さんを呼んだ。
「はやっ!? もう食べ終わったの!?」
見れば、中野くんの茶碗はすでに空っぽ。
僕なんてまだ数口しか食べていないのに……余りにも早すぎる。
「中野くん、もう?」
内山さんも目を丸くする。
「はい! あまりの美味しさに、気付けば茶碗が空になってました! さすが内山さんのお勧め! いやぁ、こんなお店を知ってるなんて……内山さんのサーチ力には驚かされますよ!」
ここぞとばかりにヨイショをかます中野くん。
そして、軽口を叩いていた顔を、次の瞬間には妙に真剣に引き締めた。
「内山さん。ぜひ俺にいいお店を教えてくれたお礼をさせて下さい。実は家の近くに、オシャレで雰囲気のいいカフェがあるんです。今週末の休日にでも、ご一緒にどうですか?」
「……あー、ごめん。今週末の土日は無理かな。ちょっと予定が立て込んでて」
「では、今週金曜の会社帰りとかは?」
「んー……それも無理ね。色々と忙しいの」
「そ、そうですか……」
中野くんはこの機に内山さんとお近づきになろうと画策していたのだろう。
しかし、見事断られてしまう。
二連続のアタック失敗。
野球で言うなら2ストライクである。
だが、まだもめげずに、中野くんは内山さんにアタックを続ける。
「では、いつなら空いてますか!? 俺、内山さんに合わせますよ!」
「……中野くん」
「? はい」
「積極性があるのは悪いことじゃないけど、物事には段階ってものがあるの。プライベートに誘うなら、まずは会社での関係をもう少し深めてからにしたほうがいいわよ。そうじゃないと、普通に引かれるわよ?」
「ぐほっ!」
痛烈な嗜められ、中野くんはのけぞった。
これで空振り三振、アウトである。
「や、やっぱり……引かれますか」
「まぁ、必ずしも全員がそうとは言わないけど、多くの人は困るでしょうね」
「そ、そうですか。因みに何ですけど、どういった所に引き要素がありましたか?」
「そうねぇ……一番は“欲が見え見え”なところかな。『あ、この人、お返しを口実に私を狙ってるな』ってのが手に取るように分かっちゃうのよ」
「うっ!」
図星をつかれた中野くんはわかりやすく狼狽する。
「別にそれ自体が悪いとは言わないけどね。でも、段階をすっ飛ばして距離を詰められると、こっちは『え、いきなりもう?』ってなるのよ。だからもう少しスローペースで、関係を築いたほうがいいと思うわ。……あと付け加えるなら、“彼女欲しい欲”をあまり表に出さないほうがいいかもね。まぁ、あくまで私の意見だけど」
「な、なるほど……! すごく参考になります! 確かに内山さんの言う通りです。さっきはいきなり誘ってしまって、本当にすみませんでした!」
中野くんは椅子からずり落ちそうな勢いで、深々と頭を下げた。
その真剣さに、内山さんは思わず苦笑し、気にしていない風に手をひらひらと振る。
「いやいや、こっちこそごめんね。つい上から目線でズバズバ言っちゃって……“何様だよ”って感じに聞こえたでしょ?」
「とんでもないです!」
中野くんは即座に力強く否定する。
「内山さんの助言は説得力があって、すっごく良かったです! 少なくとも、恋人がいながら一つも助言できないヤツよりは、何倍も役立ちました!」
……ヤツ、というのは間違いなく僕のことだろう。確かに、幼馴染という関係性のせいで、まともなアドバイスは出来ていないが、そもそもの話、恨まれる筋合いなど、これっぽっちもないのだからそろそろ許して欲しいものである。
僕は餃子に舌鼓を打ちながら心の中でそうぼやいた。
「中野くんって、本当に恋人持ちが許せないのねー」
「はい。恋人を作るコツ一つ教えられない彼女持ちなんて、爆死すべきだと思います」
「そこまで堂々と言い切ると逆に清々しいわね。でもね、確かに宮野くんは助言的なことはしてないけど……女性目線で見て、宮野くんには中野くんが学べる部分があると思うの」
「ほう? それは一体なんでしょう?」
「そうね。教えてもいいけど──その話を聞いて“タメになった”って思ったら、見返りとして宮野くんを許してあげてくれる?」
「む……」
「! 内山さんっ!」
僕は思わず声を上げた。
中野くんに許してもらうために、わざわざ橋渡しをしてくれるなんて……内山さんの優しさに胸が熱くなる。
そんな僕の視線を受けて、彼女はふっと微笑む。
「ま、乗りかかった船だし、中野くんに宮野くんに助言を求めるように促したのは私だからね。最後まで付き合ってあげるわ。」
「ありがとうございます!」
「いいのよ、このくらい。で、どう? 中野くん」
「……まぁ、そうですね。慈悲深い内山さんに免じて、そのお話次第ではありますが──コイツを許してやるのも、やぶさかではありません」
どうやら中野くんもそれでいいみたいである。
まぁ、でも、さっきも言ったように、そもそもの話が、僕は何一つ悪い事はしておらず、完全な逆恨みであるのだが、それを口にするのはかえって怒りを増幅させてしまいそうなのでここは流しておくの賢明だろう。
「よし! じゃ、それで決まりね!」
内山さんがぱんっと手を叩き、場を切り替える。
「それじゃあ早速だけど、二人に質問をするわよ?」
「「え?」」
僕と中野くんの声が、ぴたりと重なる。
「え、質問ですか? 内山さんが、その……宮野の恋人を作る上で参考になる部分を教えてくれるって話では?」
中野くんが眉をひそめ、不思議そうに問い返す。
「そうよ。でもね、ただ一方的に伝えるよりも──二人に質問して、それに答えてもらった上で話したほうが、ずっと分かりやすいと思うの。だから、まずは質問に答えてもらうわ。……何か不都合ある?」
「い、いえ。別に大丈夫っすけど……」
中野くんは少し戸惑いながらも頷いた。
なぜが僕達に何かを質問するという内山さん。
理由は分からないが、しかし内山さんのことだ。きっと考えがあってのことだろう。
──なら、僕たちは黙って従うだけである。
「それじゃ、早速いくわよ。質問一つ目。君たちは恋人と一緒に遊園地に来ました。そこで、さぁどこかで遊ぼうってなったとき──最初に向かうのはどこ?」
「遊園地……?」
思わず呟いてしまう。ずいぶんと意外な質問だ。
──恋人と遊園地に来たら最初に行く場所、か……。
「中野くんは“もし恋人がいたら”で。宮野くんは“今お付き合いしている女性”を想定してね」
僕の場合は……ひーちゃんと、か。
成程、ひーちゃんと遊園地なら──。
僕が考え込んでいると、中野くんが自身ありげに先に答える。
「フッ。そんなの決まってますよ。恋人と行くなら、お化け屋敷ですね。恐怖体験で自然と手を繋ぎ、恋人との距離を縮めることができます。そして夜には観覧車。席を向かい合わせにして、夜景をバックに恋人とのロマンチックを演出します」
「なるほどね。宮野くんは?」
内山さんに促され、僕は少し間を置いてから答えた。
「僕は……ひーちゃ……いや、その、相手の行きたい場所を聞いてからじゃないと何とも言えません。でも、強いて言うなら……空中ブランコ、ですかね」
「空中ブランコ?」
返した僕の答えに、中野くんが呆れ顔を向けてくる。
「おいおい宮野よ。これは“恋人と行く場所”の質問だぞ? 友達と行く場所と勘違いしてないか? なんで恋人と空中ブランコなんだよ」
「中野くん」
内山さんが中野くんを制す。
声はやわらかいが、有無を言わせぬ迫力がある。
「これは“その人ならどうするか”って質問であって、一つの正解を求めてるわけじゃないの。ちゃちゃ入れは御法度よ。宮野くんは空中ブランコ、ってことね。オッケー」
……側から見れば、変な答えなのかもしれない。
でも内山さんは、僕の意見を否定せず、きちんと受け止めてくれた。
「それじゃあ二問目。二人は恋人と外出中、夕ご飯を食べることになりました。でも、どこで何を食べるのか、何も決まっていません。さて、どうする?」
この質問にも、中野くんは間髪入れずに即答する。
「そもそも俺でしたら必ずいい店を事前に予約しておきますが、万が一その様な状況になったのなら、即座にスマホと脳内地図で付近のオシャレなお店を探し出しますね。そしてその店までスムーズに案内します」
「僕は……そうですね。相手が喜んでくれるなら何でもいいです。外食でも、帰ってご飯を作るでも……割とどの選択でも喜んでくれるとは思います」
「なんだよ。その要領を得ない返答は──」
「はい、ストップ。そういう考えもアリよ。それじゃあ最後の質問」
あ、もう次で最後か。
正直、質問の意図はよく分かってないけど……これ、大丈夫なんだろうか。
不安を抱える中、内山さんは最後の質問を僕達に出した。
「貴方達は恋人とデータに行こうと思います。デートプランはどうする?」
最後の質問も前の二つと同じ様な系統のものであった。
そしてやはり、この質問にも中野くんは即答で自信満々に答える。
「あまりにイージーな質問ですね。俺の頭の中にはいつ恋人ができてもいいよう、行く通りも試行錯誤をし、考え抜いた完璧なデートコースがあります。恋人とそのデートコースを周り、デート初めからデート終わりまで飽きさせない最高の一日を提供させますよ」
「そっか。宮野くんは?」
「僕は……相手と一緒に決めたいです。どこに行くか、何をするか……二人で相談して」
「おいおい宮野さんよ。デートコースを恋人に決めさせるのか? そういうのは男が率先してリードして、ビシッと決めるもんだぜ!」
「中野くん、やめなさい。何度も言わせないで。……うん。宮野くんはそういった感じなのね。いいわ。これで質問は終わりよ」
こうして内山さんからの質問は終わった。
結局、よく分からないまま質問に答えて、よく分からないまま終わってしまった。
一体これで、どうやって中野くんへの助言に繋がるのだろう?
「さて。今、私は三つの質問を二人にしたわけだけど──実は、その答えには明確な違いがあったの。何だと思う?」
明確な違い? 何のことだろう。
僕が首をかしげていると、中野くんが自信満々に口を開いた。
「宮野と違って、俺が“できる彼氏”だってことですか?」
ドヤ顔で言い切るその様子は、自分の返答に一点の曇りもないという確信に満ちていた。
……まぁ確かに、中野くんの答えは“理想的な彼氏像”っぽく聞こえなくもない。
だが、内山さんは即座に首を横に振った。
「残念だけど、全然違うわ。──結論から言うと、中野くんは、さっきの三つの選択を全部“自分の中で”完結させていたの。対して宮野くんは、その選択を“恋人と共有”していたのよ」
「「!!」」
僕と中野くん、思わず同時に目を見開く。
「宮野くん。一つ目の質問で“空中ブランコ”って答えたわよね? どうして?」
「え? えっと、それは……僕も彼女も、両方とも空中ブランコが好きだからです」
「!」
「フフッ」
突然の問いにしどろもどろで答える僕に、中野くんは驚きの表情を浮かべ、対して内山さんは「やっぱり」とでも言うように口元を緩めた。
内山はさらに踏み込んで質問を僕に投げる。
「中野くんの言っていたお化け屋敷とか観覧車──俗に言う“恋人と行く定番スポット”は考えなかったの?」
「もちろん頭には浮かびました。でも、僕の彼女……ホラー系も絶叫系も苦手なんです。中野くんの返答を聞いて、“観覧車もいいかもな”とは思ったんですけど、それを彼女が好きかどうか分からなくて。なので、確実に一緒に楽しめる空中ブランコを選びました」
実はひーちゃんは絶叫やホラーといった、スリル系、恐怖系の類いが完全に無理なタイプなのである。
幼小中高と家族ぐるみで何度も遊園地に行ったけれど、彼女は絶叫やホラーといった類のアトラクションには一切近づかなかった。
──いや、そういえば一度だけ例外はあった。
高校の時、「克服してみたい」と無謀にも挑戦したジェットコースター。僕の忠告を押し切って乗り込んだものの……結果は案の定、大泣き。隣で僕が必死になだめ続ける羽目になった。
ひーちゃんの震える肩と涙声を今でも鮮明に覚えている。
ホラー映画も同じだ。演じる分には平気でも、“観る”となるとまったくダメ。主演を務めたホラー映画の完成試写会ですら、「観るのは嫌だから欠席したいけどいいかな?」と本気で相談してきた時には、不覚にも笑ってしまったものだ。
──少し話が逸れてしまったが、僕の彼女はそういう人なのだと説明すると、内山さんは「なるほど」と小さく頷き、優しい笑みを浮かべた。
「うん。すごくいい選択だと思うわ。よくある定番の答えじゃなくて、ちゃんと“その相手”のことを考えて選んでいる。……宮野くんらしいと思う」
「……あ、ありがとうございます」
顔が少し熱くなるのを感じながら、僕は小さく頭を下げた。
「その後の二つの質問についても同じね。宮野くんは“相手と一緒に楽しむ”ことを自然に考えていた。対して──」
そこで内山さんは、ちらりと中野くんに目を向ける。
「──中野くんは、まぁ、これは中野くんに限らず、男女問わずありがちなことだけど。恋人といる時って、良く言えばリード。実際には、相手の気持ちを置き去りにして行動を決めちゃいがちなのよね」
「ぐ……」
「その人からしたら、“相手に余計な手間をかけさせないように”とか、“出来る自分を演出したい”とか、そんな意図があるのかもしれない。でも、こっち側からすれば──え、私の意見は聞かないの?ってなるのよ」
「し、しかしそれは内山さん! 俺の場合はあくまで架空の恋人だったんで、何が好きとか分かるわけがなく──」
「宮野くんが例外なだけで、最初は誰だって相手のことなんて分からないわよ」
中野くんは反論するが、即座に切り返さる。
「だからこそ、“聞く”の。相手の意見を取り入れて、知って、少しずつ関係を深めていくの。そこを怠って、自分の中だけで全部決めてしまったら……当然、相手のことは理解できないまま。場合によっては“あれ? この人、私に興味ないのかな”って思われちゃう」
「うっ……!」
グゥの根も出ない中野くん。
さらに内山さんは、少し視線を遠くに向けながら続けて自身の体験談を語り出す。
「実際に私自身が昔付き合ってた彼氏は私を大切にする人というより、私といる時の自分が好きって感じのタイプだったわ。『恋人いる自分充実してるー!』『俺頼りになるー!』『気が利く俺スゲー!』みたいな?そんか人だった。それ自体は悪い事とは思わないけど、そこに私を見てなかったのよね」
「ガハッ!」
先程の質問に対する返答も含め、思い当たる節がありすぎるのか、中野くんが大袈裟に崩れ落ちる。
「そういった部分の他にも、色々とすれ違いが重なって、結局別れちゃった」
内山さんは、少し寂しげに吐息をもらす。
だがすぐに肩を竦め、カラカラと笑い、
「まぁ、恋愛なんて自己欲求を満たす為にする側面が強いから、そうなるのが当たり前っちゃ当たり前なんだけどね」
と、そう身も蓋もない事を言った。
「でも、だからこそ……自己欲求を満たしつつも、ちゃんと相手を見て大切にできる──宮野くんみたいな人が彼氏だったら、すごく幸せなんじゃないかって思うの」
「え……」
あまりにも唐突な言葉に、息が詰まる。心臓が一拍、強く跳ねた。
内山さんは真剣な表情で、僕を真っ直ぐに見据える。
「宮野くん。あなたには無用な心配かもしれないけど──今の恋人さん、大切にしてあげてね?」
「……はい。もちろんです」
内山さんの言葉に。何か引っかかるものを覚えながらも、僕は迷う事なく即答していた。
僕の返事を聞いた内山さんは、ほっと安堵したように、それでいてほんの少し寂しげな笑みを浮かべ、柔らかく頷いた。
そして、すっと視線を中野くんへと移す。
「まぁ、そういうことよ。これは“恋人ができてから”に限らず、“恋人になる前”にも通じる話。相手の気持ちを考えられるようになれば、自然と距離は縮まっていくはずよ」
「……は、はい。とても参考になりました。己の浅はかさと傲慢さを痛感しました……」
さっきまでの自信はどこへやら。中野くんはすっかりしおれて項垂れる。
だが内山さんは、そんな彼を励ますように柔らかく笑った。
「大丈夫よ。今日見た限りだけど、中野くんって根は実直でいい人そうだから。春が訪れるのも、そう遠くないんじゃない?」
「そ、そうですかね……?」
「ええ。ちょっと“恋人欲しい欲”が前に出すぎてるのと、さっきのことを意識すれば、頼り甲斐のある彼氏になれると思うわ。……加えるなら、体格もいいしね」
「お、おお。内山さんからそう言われると、元気が出てきました!ありがとうございます!俺、頑張ります!!」
一気に活気を取り戻す中野くん。
相変わらず単純というか、、、まぁしかし、直ぐに立ち直るポジティブさも彼の美点なのだらう。
さて、これで一通りの話は一区切り。
だが、本題はまだ残っている。立ち直った中野くんに向け、内山さんが改めて問いかけた。
「それでどう? 私の話を聞いて、宮野くんを許してくれる気になったかしら?」
「む……」
そう。
結局そこである。
僕は緊張した赴きで中野くんを見る。
中野くんは暫し、考えた素振りを見せた後、口を開いた。
そして、、、
「はい分かりました。許しましょう。そういった約束でしたし。それに、死ぬほど憎たらしいですが、実際にコイツはスゲー良い奴なので」
「!」
中野くんの返答を聞き僕は安堵する。
肩になっていた重荷が取れた気分である。
「おい。宮野よ」
「は、はい!」
思わず敬語になってしまう僕に、中野くんは口角を上げて言い放つ。
「今日、定時後開けておけよ。飲むからな」
「! うん、了解。開けておくよ」
「フフ。明日の仕事に支障きたさない位に、程々にね」
内山さんが軽く釘を刺し、空気が和らぐ。
こうして一連のやり取りが終わり、僕はようやく心を軽くして食事を再開することができた。
そして、昼休みの時間は限られている為、三人はその後は言葉少なに、それぞれ黙々と箸を動かすのであった。
と、本当ならここで一件落着だったのだろう。
「ピロリン」
食事を取ってる途中、中野くんのスマホから一件の通知オンがなる。
聞き慣れない通知オンだ。
おそらく、中野くんが独自で設定した通知オンなのであろう。
「む!?」
耳ざとく反応した中野くんは、反射的にスマホを手に取り、慌ただしく画面を覗き込む。
「急にどうしたの、中野くん? 何か緊急の連絡?」
そのあまりに素早い動作に、内山さんが目を丸くして問いかける。
「いえ、特に急ぎってわけじゃないですけど。ただ……実はこの通知音、星月 光の所属事務所から最新情報が出た時にだけ鳴るように設定してるんですよ!」
「ぶっ!!」
あまりに想定外の言葉に、僕は思わず吹き出してしまった。
「ん? どうした、宮野?」
「い、いや……ちょっとご飯が詰まっただけ。気にしないで」
僕は慌てて誤魔化すが、内心では、冷や汗を流す。
どうやらまだ、もう一山がありそうだと、
僕は心の中でため息を吐くのであった。
最後までお読み下さりありがとうございました!




