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世界的女優と幼馴染な僕  作者: 河蛙
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02 上司




 嘘と思われるかもしれないが本当だ。

 僕と星月 光――ひーちゃんは住んでいた家が隣同士であり、また親同士の仲が良かった事もあってよく一緒に遊んでいた。

 学校も高校まで同じところに通っており、毎日一緒に登下校をしたものだ。


 しかし、高校卒後、ひーちゃんは突如として、世界へと飛び立って行った。


 元々ひーちゃんは、容姿端麗・文武両道、何をやらせてもすぐ、プロ級の才能を発揮する超ハイスペック人間であった。

 そして、その才能は国内にとどまらず、世界でも遺憾なく発揮された。


 高校卒業と同時に単身ヨーロッパに渡ったひーちゃんは、わずか4年間でインディーズ映画から主演クラスへと駆け上がり、ロカルノ国際映画祭、釜山国際映画祭を経て、ベルリン国際映画祭メインコンペティション部門に正式出品を果たした。

 さらに、アジアフィルムアワード最優秀新人賞を受賞し、海外メディアからは「アジアの奇跡」と称されるなど、世界を舞台に活躍する新世代女優として大きな注目を集めるまでになっているのだ。


 普通の会社で普通に働いている僕とは大違いである。


 しかし、それでひーちゃんが手の届かない遠いい存在になってしまったかと聞かれたらそんな事はない。

 前述にも述べた通り、ひーちゃんとは今でもよくメールや電話で連絡を取っており、お互いの近況報告やたわいもない世間話をしている。

 立っている場所が全く異なってしまったとはいっても、ひーちゃん自身は何も変わっていない。

 世間から見たら世界的大スター 星月 光なのだろうが、あくまでも僕から見たら唯の幼馴染のひーちゃんなのである。


 と、そういったまさかすぎる事情があるので、僕は中野くんの様にテンション高く驚く事は出来ず、どんな反応をしたらいいのか分からなかった。

 なので僕は適当に言葉を返す。


 「うん、そうだね。凄いね」


 しかし中野くんはそんな僕の反応に納得出来なかったらしい。


 「何だよ、その適当な返しは。宮野、まさかお前、このビックニュースに興味が無いのか?」


 「えっとー、興味が無いわけじゃ無いんだけど、そこまで驚く程じゃ無いというか、そもそも驚けないというか――」


 「マジかよ………」


 中野くんは僕を信じられない様なものを見る様な目で見る。

 しかし、次には何かを納得した様に相槌を打つ仕草をした。


 「あ、でもそういや宮野はアニメや漫画が好きで、三次元にはあまり興味が無いんだっな。だからこのニュースにもそんなに驚かないのか」


 「あー。うん、そうだね」


 と、中野くんはそう都合よく解釈してくれたので、僕はそれに乗っておく事にした。

 しかし、それが不味かった。


 「しゃーねーな。それじゃ二次元のことしか知らないお前にこの俺が星月 光の事について詳しく教えてやるか」


 「え?」


 「情報通で世間の話題にも敏感な俺の予想だと、これから暫くはこのニュースで世間は一色となるだろう。人と会話を合わせる為にも知っておいた方がいい」


 「いや、僕、人と会わないし、今、聞いてる余裕ないから――」


 「それじゃあ早速始めよう!先ずは第一章、星月 光 世界進出編――」


 僕の事象などお構いなしとばかりに、中野くんはひーちゃんについての説明を始めた。


 僕は諦め、意気揚々と話す中野くんを無視して、作業に戻ったのだが、横からつらつらと聞こえる中野くんの声をシャットアウトする事は出来ず、そのせいで気が散って、昼の作業はあまり進まなかったのであった。



 そして現在、定時間際の夕方。


 昼に進まなかった分を取り戻そうと奮起してみたのだけど――

 まあ、新米の僕が、気合いだけでどうにかなるほど社会人は甘くない。


 結果、見事に残業が確定となってしまった。


 とはいえ、奮起したのが無意味だったわけではない。

 残業といっても、あと1時間半程度で終わる見込みにはなっていた。


 つまり、ひーちゃんと会う時間は少し減ってしまうけれど、約束をキャンセルするほどではない、ということだ。


 (はぁ……結局終わらなかった。仕方ない。ひーちゃんには申し訳ないけど、会うのは遅くなるって連絡しておこう)


 そう思って、僕はスマホを手に取った――そのときだった。


 「お疲れー。宮野くん、どこまで作業進んだ?」


 上司の内山さんが僕に声をかけてきた。


 説明が遅れたが、内山さんは僕の上司兼、教育担当である。

 年は僕と三つしか違わないのだが、僕とは正反対に、すごく優秀で何でもそつなくこなすバリバリのキャリアウーマンだ。

 ちなみに容姿も端麗で、彼女が僕の教育担当に決まったときには、社内中の独身男性から妬みの視線を向けられたものである。

 中野くんに至っては、一緒に飲んでいた時に「なんでお前だけ!? 俺なんて六十のイカついおっさんが上司なのに!!」と叫んで男泣きする始末で、宥めるのが大変だったのは記憶に新しい。


 僕は内山さんに、進捗を伝える。


 「お疲れ様です。えっと……結構進みましたけど、残り残業で1時間半ってとこですかね」


 「そっか、それじゃあ宮野くん。今日はもう帰っていいよ。残りの作業は私が引き継ぐから」


 「え!?」


 突然すぎて、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。


 そんな僕を見て、内山さんはくすっと笑った。


 「だって、宮野くん。今日、何か大事な予定があるんでしょ?」


 「え、どうして分かったんですか?」


 「分かるわよ。宮野くん、思ってることが、すぐ顔や行動に出るから。昼休みにも黙々と仕事してたし、それに、一日中、“ツイテナイ”って顔してたでしょ?何度かため息も出してたし」


 「うっ……」


 「社会人としては減点よ?」


 「す、すいません……」


 まさか、見抜かれていたとは。

 確かに僕は、感情がすぐ表に出てしまう方だ。

 そして、内山さんは、そんな僕の欠点をしっかり把握していたらしい。

 ――けれど、内山さんは続けて、


 「まぁ、そういうところが可愛くもあるんだけどね」


 と言い、いたずらっぽく笑って、軽く肩をすくめる。

 年上の綺麗な人からそう言われて、僕はむず痒い気持ちになる。


 僕はそんな気持ちを誤魔化すように話題を戻した。


 「でも内山さんにも用事はあるんじゃないですか?今日は金曜日ですし、」


 「大丈夫よ。今日は特に予定は入れてないから。だから残りは私にドンと任せてもらっていいわよ」


 内山さんは胸を叩きそう言ってくれる。


 しかし、そんな内山さんの優しさに甘えていいのかと僕は思った。


 「いや、悪いですよ。急に来た案件とはいえ、定時までに終わらせられなかったのは僕の責任ですし。ちゃんと最後までやります」


 ひーちゃんとの約束は大事だけど、僕にも社会人としての責任がある。

 ただでさえ普段から、分からないことを内山さんにたくさん聞いて時間を取っているのに、任された仕事を丸投げするなんて、できるわけがなかった。


 だけど、僕の言葉に内山さんは首を振る。


 「責任感があるのはいいことだけど、上司の好意は素直に受け取るものよ。それに宮野くん、普段、私が忙しくしている時、何か手伝えることないかって聞きに来てくれるでしょ? あれ、実は意外と助かってるの。だから今回はそのお礼。恩とか引け目とか、感じなくていいわよ」


 「内山さん……ありがとうございます」


 内山さんの優しさが、じんわりと心に染みた。

 僕は深く頭を下げて、感謝の気持ちを込めてお礼を言った。


 「はい、どういたしまして。それじゃあ、何の用事があるのかは知らないけど――楽しんでらっしゃい」


 「はい! ……って、あれ? どうして僕の用事が楽しいことだって?」


 「だから言ったじゃない。宮野くんは、すぐ顔に出るって。自分では気づいてないかもしれないけど……今週ずっと、ウキウキしてたわよ?」


 「マジですか……?」


 「マジよ」


 内山さんの言葉に、僕は言葉を失った。


 自分ではそんなつもり、まったくなかったのに。

 どうやら僕は――思っていた以上に、ひーちゃんと再会するのを楽しみにしていたらしい。


 「プライベートのことだから、何があるのかまでは聞かないけど……楽しかったかどうかは、後日こっそり教えてね?」


 「は、はい。わかりました」


 今週中ずっと、そんな浮かれた姿を見られていたのかと思うと、恥ずかしさで顔が熱くなる。

 僕はこれからはもっと表情に気をつけようと、心の中で固く誓ったのであった。


最後までお読み下さりありがとうございました!

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