↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界的女優と幼馴染な僕  作者: 河蛙
18/32

18 大好き

 「え……?」 


 ──大好き。


 突然のひーちゃんからの口から発せられた好意を伝える言葉。

 あまりにも唐突すぎて、僕は頭の中が真っ白になる。

 その言葉を処理しようとしても、思考が空回りするばかりで、ただ呆然と、ひーちゃんの顔を見つめることしかできなかった。


 「もう一度言うよ? たけくん、大好き。もちろん──異性として、ね。」


 そして、そんなまだ現実を受け止めきれていない僕に向かって、ひーちゃんはさっきの言葉を再度、ハッキリと迷いのない声で繰り返した。


 まるで、僕の中にその言葉を──その意味を、深く刻み込むかのように。


 ひーちゃんからその言葉をもう一度聞いた瞬間。


 止まっていた時間が、ゆっくりと動き出す。

 凍りついていた脳がようやく働き始め、

 遅れてやってきた理解が、思考を一気に塗りつぶしていく。


 「え、ええぇええーっ!!?」


 僕は思わず、悲鳴のような声を上げていた。


 「もう……そんな大きな声出したら、上の階の人に怒られちゃうよ?」


 ひーちゃんは肩をすくめながら、まるで他人事のように苦笑して注意してくる。


 しかし、今の僕には、「誰せいで!」とか、「ひーちゃんもゲーム中、大きな声出してたじゃん!」といった、そんなツッコミを入れる余裕すらなかった。


 混乱の渦に呑み込まれながらも、ぐちゃぐちゃになった思考をどうにかかき集めて、僕は何とか言葉を発する。


 「え、えっと……ごめん。念のため、確認させて。ひーちゃん、今……僕のこと、好きって……言った?」


 「好き、じゃなくて大好き。この世で一番ね。」


 迷いのない、まっすぐな返答。

 一途に僕を見つめて、そう言いきったひーちゃんに、僕は思わず、のけぞりそうになる。


 言いたいことが、山ほど頭の中を駆け巡っていく。


 「え、えっ!?ひーちゃんが僕を好き!?い、いつから!?それにどうして今、このタイミングで?い、いきなりすぎるって!」


 「ふふっ。すごいテンパってるね?」


 ひーちゃんは、どこか楽しそうに僕の狼狽ぶりを見つめていた。


 「当たり前だよ! これが慌てずにいられるわけないでしょ!多分僕、今人生で一番びっくりしてるからね!?」


 そう、思わず叫ぶようにツッコむと、ひーちゃんは肩をすくめて、柔らかく笑い、そして小さく頷いた。


 「うん。まぁ、そうだよね。急にこんなこと言われたら、びっくりするよね。……ちゃんと順を追って説明するね?」


 そう言って、ひーちゃんはゆっくりと話し始めた。


 「まず──いつからたけくんのことが好きだったのか。これだけど、多分中三くらいからかな?」


 「え!? そんなに前から!?」


 「うん。物心ついた頃からたけくんのことは好きだったけど、異性として意識し始めたのはその頃だと思う。」


 まさかそんな前から僕のことを好きだったなんて。

 全く気づけなかった。


 「え……じゃあ、そもそも、なんで僕のことを好きになったの?」


 あまりの驚きと混乱の中で、気づけば自然にそんな言葉が口をついて出ていた。


 「それが第二ね。私がたけくんを好きになったのは──多分、物心ついたときから一緒に過ごす中で、たけくんにたくさん助けられてきたからだと思う。」


 「僕が……ひーちゃんを助けた?」


 思いがけない言葉に、僕は思わず問い返す。


 「うん。たけくんには、本当に……たくさん助けてもらったよ」



 ……僕、ひーちゃんをそんなに助けたっけ?



 正直、そんなたくさんと言うほど、ひーちゃんをこれまでに助けた記憶がなく、僕は内心で首を傾げて訝しむ。


 すると、

 そんな僕に、ひーちゃんは少しだけ視線を伏せて、突如として、意味のわからない質問を投げてきた。


 「……ねぇ、たけくん。私と一緒にいて、“イヤだな”って思ったこと、今までに一度でもあった?」


 「……え? そんなの、あるわけないよ。」


 それは反射にも近かった。

 唐突な問いに戸惑いを覚えるよりも先に、僕はそう、即答していた。


 「ひーちゃんと一緒にいてイヤだなんて、思ったことなんて一度もない。」


 僕は再度、力強く否定する。


 どうして、ひーちゃんがそんな質問をしたのか分からない。しかし!

 もし、ひーちゃんがそう誤解をしている可能性が少しでもあるのなら、それは絶対に訂正しなければならない。

 そう思っての重ねての否定であった。


 ひーちゃんといてイヤなことなんて──あるはずがない。

 それは、心の底からの本音。


 そんな僕の返答を聞いたひーちゃんは、ふっと微笑んだ。

 それは、嬉しそうな、安心したような、でも、それでいてどこか寂しさを滲ませるような、そんな微笑みであった。


 「……それってね、本当はすごいことなんだよ。たけくんにとっては、何でもないことかもしれないけど。だって私ね、誰かと関わっても……基本、長続きしないから」


 「……!」


 そう、影を落として発した思いもよらない言葉に僕は思わず息を呑む。


 ひーちゃんはそっと目を伏せ、小さく息を吐く。


 「たけくんも知ってるでしょ? 私が不用意な言葉で、人を傷つけちゃうところ」


 「う、うん。でもそれは──」


 「庇わなくていいよ。結局、あれは私が悪いんだから」


 「ひーちゃん……」


 「でもね。私が何も言わなくたって、向こうから離れていくことだってあったんだよ。」


 「え……?」


 「……自分で言うのも変な話なんだけど、」


 そう前置きして、ひーちゃんは少し息を整えた。

 そして、静かに言葉を紡ぎ始める。


 「私、自分がいろんな面で恵まれてるって、自覚してるの。容姿とか、頭の回転とか、運動神経とか──そういう分かりやすいことだけじゃなくてね。

 記憶力、論理力、理解力、適応力。それに、美術のセンスとか、創造力、発想力、演技力、歌唱力、家事の器用さなんかも。……多分、私はいろんな分野で、平均よりずっと上にいると思う」


 自分が持っている才能を次々と上げていくひーちゃん。

 話の内容だけを聞けば、自分の才能誇示しているように聞こえるかもしれない。


 けれど──それがまるで違うのは、すぐに分かった。


 なぜなら、彼女の声には誇らしさも、自慢げな響きも微塵もなかったからだ。

 ただ、そこに“そうである事実”があるから、それを淡々と語っている──そんな冷静さだけがあった。


 むしろ、そのひーちゃんの静かな声の奥には、淡い哀しみのような響きが宿っている気さえした。


 ひーちゃんは続ける。


 「やろうと思ったことは、たいてい何でもすぐにできちゃうし、その過程で“苦労する”って感覚を覚えることも殆どない。勿論、スランプとか賞を逃したりとか、全てが思い通りに事が運ぶわけじゃないけど、それでも、他の人達よりはずっと早く成長できるし、その節々の同年代と比べた時、成績とか実績とかキャリアとかは、何段も上にいる──そういう自覚はあるんだ」



 そこまで言うと、ひーちゃんは一度、言葉を切った。

 静かな沈黙が落ちる。


 「でも──だからこそ、なのかな。」


 彼女の声は、少しだけかすれていた。


 「気づけば、みんな、少しずつ私を遠ざけていったの。」


 そう言って、ひーちゃんは視線をそっと落とす。

 まるで、その一つひとつを思い返すように。


 「ある日ね、友達だと思ってた子に言われたんだ。『光と関わってると、自分が惨めになる。引き立て役にされてるみたいで、つらい』って……。『だから、もう光とは関わりたくない』って」


 「……っ」


 ──それは、僕も覚えている。

 中学生の頃、泣きじゃくりながら帰ってきたひーちゃんが、凄く取り乱したがら、「友達に縁を切られた」と言って、僕にすがりついてきた日があった。


 「それ以外にもね。『自分が必死で努力してできたことを、光に平然とやられて傷ついた』とか、『光の言動の全てが上から言ってる様に感じる』とか、『好きな男の子が光ばかり見てる』とか……。いろんな理由で、みんな、私から離れていった」


 言葉を重ねるほどに、ひーちゃんの声は小さく、か細くなっていく。


 「みんなに少しずつ距離を取られて……ひとりぼっちだって感じる瞬間もあった。自分が何か間違ってるのかなって、思い悩んだこともあったよ。」


 震えるその声に、かつての彼女の孤独が滲んでいた。


 でも。


 「──でもね」


 ふと、ひーちゃんの声が明るくなる。


 顔を上げ、僕の目をまっすぐ見つめるひーちゃん。その瞳には、もう先ほどの悲しみはなかった。


 代わりにあったのは──確かな光。


 「そんな中でたけくんだけは、ずっと私のそばにいてくれた」


 「……!」


 その言葉に、僕は息を呑む。


 「どんなときも、変わらずに。私が理不尽に八つ当たりしたときも……たけくんは、全部受け止めてくれた。離れたりしなかった」


 「……」


 「たけくんがそばにいてくれたから、私は思えたんだよ?──私は、ひとりじゃないって。私という存在を、そのまま受け止めてくれる人がいるって」


 そう言いながら、ひーちゃんは優しく、ゆっくりと微笑んだ。


 「たけくんの存在に……私は、すごく救われてきた。だから──私は、たけくんのことが好きになったの」


 その言葉は、静かに、けれど確かに。

 僕の心の奥深くへと、届いた。


 「……そうだったんだ」


 僕は、ただその想いの重さに応えるように、そっと呟いた。


 そして、次には、胸がきゅっと痛んだ。


 知らなかった。

 ただの一度も、気づけなかった。

 いや──気づこうと、してこなかった。

 ひーちゃんが、そんな思いを抱えたまま、ずっと僕の隣にいてくれていたなんて。


 「たけくん、今、“気づいてあげられなかった”って、後悔してたでしょ?」


 「うっ……」


 どうやらまた、顔に出てたらしい。


 「自分を責めなくていいよ。……まあ、確かに、たけくんはびっくりするくらい鈍感だけどね」


 少し茶化すような口調だったけど、それは優しさを含んだものだった。

 しかし、続けてひーちゃんは言う。


 「でもね、当時は、それ以前にもっと大きな問題があったの」


 「問題……?」


 僕の問いかけに、ひーちゃんは一拍おいて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


 「それはね……当時のたけくんが、私を“異性”として見てくれてなかったこと」


 「……!」


 その瞬間、心臓が跳ねた。


 「私は、中学くらいから、たけくんを異性として意識するようになってた。でも……たけくんは、いつまで経っても私を“幼なじみ”としてしか見てくれなかったの。」


 ひーちゃんは、少し遠くを見るような目で、懐かしむように言葉を続ける。


 「物心ついた頃から、ずっと一緒にいて……朝も昼も夜も、隣にいるのが当たり前で。幸せだったよ。本当に、幸せだった。──でも」


 そこで、ひーちゃんは小さく息をついた。

 そして、静かな声で、ひーちゃんは逆説の言葉で続ける。


 「多分、その“当たり前”が、私を“異性”として見てもらえない理由にもなってたんだと思う。」


 「……」


 僕は、何も言えなかった。


 何故なら、それは間違いなく、図星だったから。


 当時の僕にとって、ひーちゃんは“幼なじみ”で、ただそれだけの存在だった。

 気兼ねなく話せて、一緒にご飯を食べて、時には一緒に寝泊まりをする。

 そんな凄く大切な──家族のような存在として、僕はひーちゃんを見ていた。


 でも──その見方こそが、ひーちゃんを苦しめていたのだと、今さらながらに思い知らされる。


 「このままずっと隣にいたら、きっとたけくんは私を“幼なじみ”のまま扱い続ける。そう思ったら、すごく……怖くなったの。だから──寂しけど、一度たけくんのそばから離れようって決めたの」


 「……え?」


 思わぬ言葉に、反射的に声が漏れた。

 ひーちゃんは、そんな僕の反応を楽しむ様に微笑み言う。


 「私が高校卒業後に、たけくんのそばから離れた理由。それはね……たけくんに、“幼なじみ”じゃなく、“一人の女性”として見てもらいたい。その為には一緒にいたらダメだって思ったからなんだ。」


 「!!!」


 そのカミングアウトは、僕にとってあまりにも衝撃だった。


 ──僕に異性として見てもらうため。


 その為に、僕から離れた何て、想像だにしていなかった。


 僕が驚きに言葉を失っているのも気にせず、ひーちゃんは話を続ける。


 「そしてね、たけくんと離れるって選択を選んだ時に、同時に女優になる道を決心をしたの。昔から女優には憧れていて、漠然となりたいって夢は持ってたんだけど、本気で目指すならこのタイミングしかないなって思って」


 「そ、そうだったんだ……」


 「うん。まぁ、そう決心したはいいんだけど、離れてからの最初の数ヶ月は、本当にきつかったよ。覚悟を決めたつもりではいたんだけど、いざ一人になると、心細さで押しつぶされそうになって……。スマホで連絡は取れたけど、それだけじゃ全然足りなくて、喋ってる時は楽しいんだけど、それが終わると、一気に寂しくなって、よく泣いてた」


 「……ひーちゃん」


 「そのときに、改めて気づいたんだ。私にとってたけくんがどれだけ大きな存在だったのかって。そして、同時にどれだけ今まで、たけくん依存してたのかがね。」


 ひーちゃんは当時を思い返す様に上を見上げて喋る。


 「電話越しでもいい。寂しいって言いたかった。会いたいって言いたかった。でも、たけくんに異性として見てもらいたい。そんな自分勝手な理由で離れたのに、たけくんに甘えていいわけがなかった。だから我慢した。辛くても、苦しくても、寂しくても、たけくんと携帯でやり取りする時は、心細いって感情は出さないようにしてたんだ。まぁ、演技が上手く行かないとか、そういうやつは思いっきり出してたけどね、」


 そう言ってひーちゃんは笑う


 「でも、半年くらい経った頃には、少しずつたけくんのいない毎日に慣れてきて……連絡を取り合うだけでも、心が落ち着くようになった。仕事のほうも、ちょうどその頃から少しずつ大きな役が回ってくるようになって、毎日がどんどん忙しくなっていっていった」


 「……」


 「そして、そんなある日。恋愛映画の主演オファーが届いたの」


 「それって……」


 「うん。さっき、たけくんに観てもらった、あの映画」


 言いながらひーちゃんは目を伏せ、両手の指先を重ね合わせ、膝の上でそわそわと動かす。


 「正直、悩んだよ。たとえ演技だとしても……たけくんじゃない人と恋愛をするのは、やっぱり抵抗があって。でも出演依頼がきたその映画は制作規模が大きくて、監督も有名な人で、事務所としても“ぜひ受けてほしい”って言われて……」


 そこまで言ってから、ひーちゃんは小さく息を吐いた。


 「売れてるっていっても、私はまだまだ新米で、今が一番大事な時期だし、“好きな人以外とは恋愛したくない”なんて理由で、そんな大きな仕事を断れる立場じゃなかった。だから、覚悟を決めて、出演することにしたの。──でも、どうせ出演するんだったらこの状況を活かそうって思った」


 「活かす?」


 その意味がすぐにはわからなくて、思わず聞き返す僕にひーちゃんは続ける。


 「たけくんと離れて数年。その間に、たけくんが私のことをどう思ってるのか、少しは見方が変わったのか……確かめたかったの。この映画を通して」


 「──!! じゃあ、僕にこの映画を見せたのって……」


 「うん。たけくんに、私が他の男の人と一緒にいるところを見てもらって、そのとき、どんな気持ちになるのか。やきもちを焼くのか、それとも何も感じないのか──それを、知りたかったの」


 その告白は、あまりにも真っ直ぐで、僕の胸に突き刺さった。


 「あ……」


 ようやく僕は理解した。

 胸の奥でずっと燻っていた、あの得体の知れないモヤモヤの正体を。


 ひーちゃんが、スクリーンの中で他の男の人と微笑み合うたび。手を重ね、言葉を交わすたび。僕の中で、どうしようもない黒い感情。


 ──そうだ。あれは、嫉妬だったのだ。


 ひーちゃんは、少しだけ目を伏せて、申し訳なさそうに言う。


 「ごめんね。こんな、すごく回りくどくて、めちゃくちゃ面倒くさいやり方で……」


 そして、ほんの一瞬、言葉を切る。


 「……変だよね?」


 でも──と、彼女はすぐに続ける。


 「私には、直接聞いて確かめる勇気がなかったんだ」


 その言葉には、震えるほどの本音が宿っていた。


 「もし……もし、思いきって聞いて、たけくんに“そういう風には見れない”って言われたら、たぶん私……もう当分、仕事なんてできないくらい落ち込むと思う。自信も全部なくなるし……なにより、たけくんとの連絡だって、気まずくなっちゃうかもしれない」


 それが、一番最悪のシナリオだったと、ひーちゃんは言う。


 「今までだって、ずっと、定期的に連絡を取り合って、たわいも無い話をして、笑い合って……そういう関係が、私の心の支えだったから。それすら壊れたら、もう立ち直れないかもしれなかった」


 「なるほど。だから……」


 「そう。だから、遠回りでも、面倒くさくても、こんなやり方にしたんだ。この方法だったら、感想を聞いて、もしたけくんが何も引っかからずに、私が他の男の人と恋愛している映画をすんなり受け入れても、ショックは受けるけど、それだけで済む。私の気持ちを、言わずに済ませられるから」


 ぽつり、そう零した声には、わずかに苦笑が混じっていた。


 「ずるいよね?たけくん気持ちは聞けるけど、私の気持ちは言わなくても済むなんて、」


 自嘲するように、ひーちゃんは小さく笑い、俯いた。


 そんな自己嫌悪に陥るひーちゃんに僕は慌ててを横に振って否定する。


 「そ、そんなことないよ! 誰だって、自分の気持ちを言うのは怖くて勇気がいることだし!それはひーちゃんだって……」


 ──けれど。


 言葉の途中で、俯いていた彼女がふいに顔を上げた。


 そして、悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 「とは言ってもね?映画を見せるまでもなく、たけくんが私を異性として好きだと思っていてくれている事は、この家に入ってからプレゼントを貰うまでの間にもう分かってはいたんだけどね?」


 「うっ!」


 突如、虚を突かれた僕は、思わず呻き声を出してしまう。


 その様子を見て、ひーちゃんの笑みはますます意地悪そうな色を増していく。


 「だってたけくん、家に上がって、変装を解いた私をジッと凝視してたし、私が台所で食器洗いをしてた時も見惚れてたよね?仕舞いには泊めて欲しいって言ったとき、たけくん凄く慌てていて。あの時のたけくん、可愛かったなぁ」


 「や、やめて!言わないで!」


 僕は羞恥で顔を真っ赤にしなが、顔をひーちゃんから背ける。

 確かにそうだけど!改めてそれをひーちゃんの口から言われると、恥ずかしすぎる。


 でも、そんな僕を面白がるように、ひーちゃんはくすくすと笑って、言う。


 「だからね。たけくんが私を“1人の女性”として意識してくれてるのは、もう分かってた。だけど、それだけじゃ足りなかったの」


 そう言って、ひーちゃんは静かに笑みを引っ込めた。


 「せっかく上にお願いしてまで用意した映画だったし、思いを伝えるには最後、もう一押し欲しかった。だから見せたんだ。そして──私が望んでいた、たけくんの気持ちを聞くことができた。」


 語り終えた彼女の目が、まっすぐに僕を射抜く。


 そこにあるのは、揺るぎない覚悟と、真剣な想い。


 「……私、一通り話したよ。その上でもう一度、ちゃんと言うね?」


 ひーちゃんは静かに言葉を紡ぎ始める。


 「私、たけくんのことが大好き。優しくて、人を思いやる事が出来て、真面目で。でも、鈍感で、ちょっとズレてるところもあるけど……そういうもひっくるめた、たけくんの全部が私は大好きなの」


 その声は、決して大きくはない。


 でも、一言一言が胸の奥にしっかり届いて、熱を灯していく。


 「たけくんと一緒にいると、心から安心できる。たけくんの前では、“星月 光”じゃなくて……ただの“光”でいられる。飾らずに笑えて、無理せず泣けて──本当の私を、そのまま見せる事ができる。そんな私を、そっと受け止めてくれるたけくんといると……私、本当に幸せな気持ちになれるんだ。」


 言葉に宿る温度に、僕の心臓がゆっくりと高鳴っていく。


 そして──


 「だから……」


 一呼吸、間を置いて。


 「たけくん。私と、結婚を前提に付き合ってください」


 告白の言葉が、真っ直ぐに僕の胸に届いた。


 ひーちゃんの瞳には、一片の不安も浮かんでいなかった。まるで、僕の答えを既に知っているかのように──いや、きっと、知っていたんだろう。

 だって、僕はあのとき言ったのだから。


 ──「ひーちゃんが他の男の人といるのは、嫌だ」と、


 それは、心の奥底にあった嫉妬。その存在を、今、僕ははっきりと理解している。


 だから僕の答えは、もう決まっていた。


 「こ、こちらこそ……お願いします」


 声が少し震えた。喉が詰まったような感覚の中、それでも僕はしっかりと、自分の想いを返した。


 その瞬間──


 「~~っ!!やったあああ!! たけくん、大好き!!!」


 「うわっ!?」


 ひーちゃんが勢いよく抱きついてきた。

 僕はその衝撃でそのまま仰向けに押し倒される。


 ひーちゃんは僕の上に覆いかぶさるようにしがみついて、顔をぐしゃぐしゃにして笑っていた。


 「嬉しいっ! 本当に、嬉しい……!」


 涙と笑顔が混じった顔で、ひーちゃんは僕をぎゅっと力強く抱きしめる。


 僕も──そんなひーちゃんの背中に、静かに腕を回した。


 こうして、僕とひーちゃんは恋人となったのである。

最後までお読み下さりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんなにも求められてるたけくんは幸せ者だなぁ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。