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世界的女優と幼馴染な僕  作者: 河蛙
15/29

15 プレゼント

 ──ひーちゃんは、ゲーム機を受け取らなかった。


 しかし、


 僕には、まだ“別の贈り物”があった。

 そう。今日の再会の日のために、ひそかに用意していたプレゼントだ。


 ゲーム機の応募に失敗をした事にまだ少し落ち込んでいるひーちゃんを、少しでも元気づけたい。

 だったら今が、渡す最高のタイミングなんじゃないかと、僕はそう思った。


 「ひーちゃん」


 「うん?」


 「実はね、プレゼントがあるんだ。ひーちゃんに」


 「……え!?」


 思いがけない言葉だったのだろう。ひーちゃんは目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。


 「久しぶりの再会だし、何か“再会記念”みたいなものを渡せたらいいなって思ってさ。ちゃんと用意してたんだよ」


 「ほんとに? ……それ、すっごく嬉しい!」


 ひーちゃんはパッと顔を輝かせて、まるで子どものように無邪気な笑みを浮かべた。


 「ちょっと待ってて。今、持ってくるから」


 「はーい! 楽しみに待ってますっ!」


 ひーちゃんは嬉しそうに体を左右に揺らしながら、テンション高く返してくる。

 こういう反応を見せるときのひーちゃんは、間違いなく──心の底から“本当に喜んでいる”ときだ。


 ──よしよし。サプライズだったけど、喜んでくれてよかった。


 あとは、この期待に応えるだけ。


 そう。

 やはり、大事なのはプレゼントの「中身」である。


 ……四年半前。

 僕はまだ“プレゼント”というものの本質を理解しておらず、客観的にみた時、完全に間違ったものを渡してしまった。


 幸い、ひーちゃんは笑って受け取ってくれて、そして、凄く喜んでくれていた。

 しかし、今振り返っても、あれは黒歴史である。


 だからこそ、今回は過去の反省を活かして、プレゼント選びの段階から四つのことを意識した。


 一つ目、「感性」。


 プレゼント選びにおいて、センスは凄く大事になる……が、僕は、ちょっとした厨二病をこじらせている節がある。

 僕の感性だけを頼りにしたら、前回みたいに変な方向に行ってしまう未来が目に見えていた。


 だから今回は、自分のセンスをあえて封印し、ネットショップの人気ランキングやレビュー、そして“おすすめ”タグを全面的に参考にすることにした。


 二つ目、「シーン」。


 今回は“久しぶりの再会”というおめでたい場面。

 場違いなものは避け、明るく、気の利いた印象を与えるものを心がけた。


 三つ目、「相手の好み」。


 前回は、自分の趣味やテンションだけで選ぶという愚行を犯してしまったが、今回は違う。

 ひーちゃんが“好きなもの”を、ちゃんと意識した。


 そして四つ目、「関係性」。


 ……前回、僕は、ペアストラップのギミックに惹かれてしまって──

 お互いのストラップを合わせると文字が完成する、という仕様に高揚し、つい“恋人向け”のアイテムを選んでしまった。


 だから今回は、僕たちが“幼馴染”であることをしっかり踏まえた上で、関係性に見合ったものを選んだ。


 ネットの評判。

 送るシーン。

 ひーちゃんの好み。

 僕たちの関係。


 それらすべてを総合的に考えた、僕なりの“正解”。


 ──それが、このプレゼントだ。


 僕は意を決して、それを手にリビングへ戻った。


 「持ってきたよー。」


 「なんだろう?凄く楽しみ!」


 僕が持ってきたものは、プレゼント用にしっかり包装されていたので、見た目からは中身がなんなのかまったく分からない。


 「はい、どうぞ。」


 そう言って手渡すと、ひーちゃんは目を輝かせながら、両手でプレゼントを受け取った。


 「ありがとう!!」


 嬉しそうに笑ってくれるその顔を見るだけで、こっちまであたたかい気持ちになる。


 「わっ、結構ずっしりしてるね。それに、なんだか固い? ねえ、今すぐ開けてもいい?」


 「もちろん。どうぞ、開けてみて」


 僕がうなずくと、ひーちゃんはわくわくした様子で包装紙を破り、中身の紙袋を丁寧に開いた。


 そしてひーちゃんがその紙袋から取り出した、僕の渾身のプレゼントは──


 「……カタログ?」


 ひーちゃんがそう呟いた。


 そう! 

 カタログギフトである!


 知らない人のために説明しておくと、カタログギフトとは一冊の本の形をしていて、その中に記載されている好きな商品を一つ選び、取り寄せることができるという形式のプレゼントである。


 プレゼントの人気ランキングの最上位にあり、祝い事の時によく用いられ、いろんな種類のものの中から、自分の好きなモノを選ぶ事ができ、また、誰に渡してもおかしくない。


 そんなすべての条件を満たしている、夢のようなプレゼント。

 それが、カタログギフトなのである!


 僕自身、こんな素晴らしいものがあるとは今まで、全く知らず、カタログギフトの商品説明を見た時は、これほど条件をコンプリートしたものが存在するのかと驚いたものである。


 これなら、絶対喜んでもらえるはずだ……!


 そう信じて選んだ渾身のプレゼントだった。


 ……だったのに。


 5秒。


 10秒。


 15秒……。


 20秒経っても──


 ひーちゃんの反応がない。


 (……あれ?)


 沈黙が思った以上に長くて、不安が胸の奥からじわりと広がってきた。

 まさか、気に入らなかった? いや、そんなはずは──。


 「ぷ……ふふっ」


 僕が不安に駆られて始めていた時、ようやく、ひーちゃんが口を開いた。けれど、それは言葉ではなく、


 「ははっ、ははははっ、はははははっ!」


 突如として、ひーちゃんは大声で笑い出した。

 それも、息ができなくなるほど、お腹を抱えて、涙が出るくらいに。


 こんなに笑っているひーちゃんを見るのは、たぶん初めてだった。


 「あ、あの……ひーちゃん?」


 僕は戸惑いながらも、大笑いをするひーちゃんに恐る恐る声をかける。

 ひーちゃんは涙を拭きながら、ようやくこちらを向いた。


 「あー……ごめんね、急に。でもね、あまりにもこのプレゼントが、たけくんらしすぎて……なんか、もう、ツボっちゃって」


 「僕らしい……?」


 「うん。このカタログを見て、改めて思った。ああ、たけくんって、やっぱりたけくんなんだなって」


 「え、どういう意味?」


 僕には話の流れがまるで見えなかった。だから思わず問い返すと、ひーちゃんは優しい目で言った。


 「たけくんのことだからね。すっごく真面目に考えてくれたんだろうなって分かるの。私のことをちゃんと想って、変なものにならないようにって、一生懸命選んでくれたんだよね。でもね……」


 言いづらそうに、ひーちゃんは言葉を濁しながら続けた。


 「これは、ズレてるというか……惜しいというか……うーん、本末転倒って感じかな?」


 「えっ!? これ、ブレてたの!?まさか、僕、やらかしてた!?」


 「うん。盛大にね」


 がーん、という音が聞こえそうな衝撃だった。

 僕は、真剣に、誠心誠意、これ以上ないというくらい考えて選んだのに。

 まさか“盛大にやらかしてる”とは──。


 何をやらかしてしまったのか、理由は分からない。でも、今やるべきことははっきりしていた。


 「ご、ごめん! ひーちゃん!」


 僕はすぐさま、ひーちゃんに頭を深く下げた。

 何が悪かったのか具体的にはわからないが、僕に非があるのは確かなのだろう。

 僕は誠心誠意の謝罪をする。


 でも、そんな僕を見て、ひーちゃんは笑いながら首を振った。


 「ううん、謝らなくていいよ? だって、これ、すごく嬉しかったから」


 「え? でも今、ズレてるって……」


 僕が戸惑うのも当然だろう。

 やらかしてるのに嬉しい──その言葉の矛盾が、僕には理解できなかったのだ。


 そんな混乱する僕にひーちゃんは少し表情を柔らかくして言った。


 「うん、確かにズレてたし、ツボに入って笑っちゃった。でも、このプレゼント……たけくんが私のことを考えて、一生懸命選んでくれたんだよね?だったら、私はそれだけで、もう十分嬉しいの」


 その声には、ほんの少し照れたような感じが滲んでいた。


 「間違ってたって、ズレてたって、気にしないよ。私のために考えてくれたってだけで、嬉しいんだもん。──極端な話、これがガチャポンとかだったとしても、そこに気持ちがこもってるなら、私はいいんだよ。」


 「いやいや……いくら僕でも、さすがにガチャポンは渡さないよ!」


 思わずツッコミを入れると、ひーちゃんはくすっと笑った。


 「分かってるってば。たとえ話だよ。でもね、本当にそう思ってるの」


 そして、彼女は穏やかな瞳で、僕を見つめながら言った。


 「プレゼントって、“モノ”そのものよりも、そこに込められた“気持ち”のほうが何倍も大事なんだよ。どれだけ私のことを想ってくれたのか、どんなふうに考えてくれたのか──それが伝わってくるだけで、私はすっごく幸せになれるの」


 そう言って、ひーちゃんはカタログギフトをそっと胸に抱いた。

 まるで、大切な手紙を抱きしめるみたいに。優しく、丁寧に。


 「それとね……私、もらい物に優劣をつけるのって、あまり好きじゃないんだけど」


 言いながら、ひーちゃんは少しだけ目線を伏せた。


 「たけくんからもらうものは、なんていうか……他の人からもらうものよりも、ずっと、格別に感じるんだ。」


 「……え?」


 ひーちゃんはどこか照れた様に続ける。


 「今回のカタログも含めてね。たけくんが私に何かを贈ってくれるとき、私は毎回、すごく嬉しいの。

たとえちょっとズレてたとしても、それすらも“たけくんらしさ”で──なんだか、愛おしく思えちゃうんだよね」


 「え、それって……どうして僕のだけ、そんなふうに……」


 僕が戸惑いながら聞き返そうとした、その瞬間だった。


 ひーちゃんが、ふいに身を乗り出してきたのだ。


 「ひ、ひーちゃん……?」


 「たけくん」


 「え、えっと、はい。なんでしょう?」


 気づけば、僕とひーちゃんの顔の距離は──ほんの10センチもなかった。

 お互いの吐息が触れ合いそうな距離で、僕は動けなくなる。


 ふわりと漂うシャンプーの香り。

 その香りに包まれながら、僕の心拍はどんどん早くなっていく。


 距離が近い。いや、近すぎる。

 しかも、ひーちゃんの表情はどこか真剣で──それでいて、少しだけ怒っているようにも見えた。


 あまりの緊張に、僕は思わず敬語になってしまう。


 「……あのね」


 ひーちゃんは、まっすぐに僕の目を見つめて言った。


 「鈍感もすぎるとね、さすがに私だって怒るよ?」


 「え?」


 「いい加減、気づいてほしいな。私、たけくんのことが──」


 そこで、ふっと言葉が途切れた。


 ひーちゃんは、まるで自分の言葉に驚いたように目を見開き、急に視線を逸らすと、すっと立ち上がって背を向けた。


 「ひ、ひーちゃん……?」


 声をかけると、彼女は小さく首を振り、ぽつりと呟いた。


 「……危ない、危ない」


 自分に言い聞かせるように、ひーちゃんは苦笑する。


 「プレゼントもらって、ちょっと舞い上がっちゃったのと……あまりにもたけくんが鈍感すぎて、つい、言いそうになっちゃった」


 その言葉には照れと焦りが入り混じっていて、でも、どこか悲しげでもあった。


 「えっと……」


 僕が言いかけたとき、ひーちゃんの声がそれを遮った。


 「でも、まだ……言えない」


 ひーちゃんは、俯いたまま、かすかな声で続けた。


 「まだ怖い。まだ……ダメ。ちゃんと、“あれ”を見てもらってからじゃないと……たけくんの気持ちを、聞いてからじゃないと……私は、言えないよ」


 「ひーちゃん……?」


 小さな声でポツポツと喋るひーちゃんに僕がそっと名前を呼ぶと、彼女は一度だけ肩を震わせ──


 それから、ゆっくりと、振り向いた。


 そして、その振り向いた時のひーちゃんの瞳には、どこか不安と、期待と、覚悟が入り混じっていて、


 「たけくん」


 「は、はいっ!」


 思わず反射的に返事をしてしまう。

 緊張で、胸がぎゅっと締めつけられる。


 そんな僕に向かって、ひーちゃんはふっと笑って言った。


 「まずは、プレゼントありがとう。すっごく嬉しかったよ」


 「あ、いや、その……喜んでもらえたのなら良かったです」


 色々と予想外の展開なってしまい、戸惑ってしまっているが、結果的にプレゼントは喜んでもらえているようで、僕は胸をなでおろす。


 そして、ひーちゃんは続けて言った。


 「実はね。プレゼントとはちょっと違うんだけど、私からも……たけくんに渡したいものがあるの」


 「え?僕に?」


 「うん。」


 僕は驚く。


 まさか、ひーちゃんも僕のために何かを用意してくれていたとは、

 でも、気になるのは──彼女が「プレゼントとは違う」と言ったこと。


 それが、一体どういう意味なのか、僕が考えていると、ひーちゃんは部屋の隅に置かれた自分のロングコートへと歩いていく。

 そして、コートのポケットの中を探り、そっと何かを取り出した。


 その手に握られていたのは──小さな、銀色の物体。


 僕はなんだろうと思い、ひーちゃんが手に持つそれをよく見てみると、それはUSBメモリであった。


 ひーちゃんはそれを持って僕の方は戻ってくる。


「はい。これがたけくんに渡したかったもの」


 ひーちゃんはそう言ってそれを僕に手渡した。


 「ひーちゃん。このUSBは一体?」


 僕は渡されたUSBを見る。

 特段、変わった所はない普通のUSBメモリだ。

 となると、やはり、この中身が重要なのだろう。

 僕はそれがなんなのか、ひーちゃんに聞く。


 すると、ひーちゃんは言った。


 「それはね、今度、上映される、私が主役の映画が丸々一本入ったモノだよ。」


 「え!?」


 予想だにしていなかった返答に僕は驚いた。


 「え、それって、今日ニュースで発表されてた、ひーちゃんが日本にくる理由になった映画告知のそのやつ?」


 「うん、それ。それに関する関係者用の先行データ。正式な公開前の、ほんとの“初公開”」


 ひーちゃんは一瞬だけ目を伏せ、深く息を吸い込んだ。


 そして、僕の方へ向き直る。


 その顔には、何かを決意したような、静かな気迫が宿っていて──


 そして、ひーちゃんは言った。


 「たけくん。お願いがあるんだけど……今から、この映画、見てくれない?」


最後までお読み下さりありがとうございました!

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