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世界的女優と幼馴染な僕  作者: 河蛙
13/25

13 ゲームの時間③

 

「「……」」


 静寂が、場を支配する。


 その静寂の中、場違いなほど陽気なBGMだけが、カードゲームのスピーカーから流れ続けていた。

 けれど、僕の気分はそれにまるで追いつかない。

 むしろ、本来なら喜ぶはずの当選メールを目にして、じわりと冷や汗が滲んでくる。


 たった今、「当たるわけないよ」なんて断言した直後のこの結果。


 僕はおそるおそる、隣に座るひーちゃんへ顔を向けた。


 ……すると。


 「わぁ、おめでとう! たけくん、ゲーム機当たったんだね!」


 ひーちゃんは満面の笑みを浮かべ、心から祝福してくれるような声で言った。


 「あの、ひーちゃん? え、怒らないの?」


 「なんで怒るの? たけくん、何も悪いことしてないじゃん?」


 「いや、まぁ、それは……そうだけど……」


 ──わからない。

 これは一体、どういうことだろう。


 僕は考える。


 ──きっと、さっきまであった〝感情爆発モード〟が、終わったんだろう。

 それ以外に説明のしようがない。


 ひーちゃんは、本当に驚くくらい感情のオンオフがハッキリしている。

 爆発しているときは、子供みたいで理不尽になるけど、落ち着くと、まるで何もなかったかのように、スッと優しい通常のひーちゃんに戻るのだ。


 おそらく、当選通知を見る直前にうまい具合に通常モードへ切り替わっていただろう。

 だからこそ、今こうして満面の笑みで祝福してくれているのだ。


 うん、きっとそうだ。

 そうに違いない。


 僕は、自分にそう言い聞かせながら考え込んでいると、不意に、ひーちゃんが声をかけてきた。


 「あ、たけくん。私、防御アイテムが出たから、たけくんの後ろについて、たけくんをガードするね!」


 「あ、ああ。うん。お願い……!」


 そうだった。

 僕たちは今、協力プレイ中だったのた。


 ひーちゃんが通常モードに戻ったことに、心底ホッとしながら、僕も改めてゲームに意識を向ける。


 せっかく、久しぶりに二人一緒にゲームをしているのだ。

 この時間を、思いっきり楽しまなければ。


 ──と、そう思った、その瞬間だった。


 ポイッ。


 「え?」


 後ろにいたひーちゃんが、防御アイテムを僕めがけて放り投げてきた。


 それは見事に命中し、僕のカートは急減速。

 つられて、タッグを組んでいるひーちゃんのカートもスピードが落ちる。


 「わ、ごめん! 間違って前に投げちゃった!」


 「あ、ああ。全然、大丈夫だよ……」


 苦笑しながら、なんとかそう返した。


 ひーちゃんにしては、珍しいミスだった。

 普段の彼女は、どんな状況でも的確にアイテムを使いこなすゲーマーだ。

 その彼女が、防御アイテムを誤って前方に投げるなんて──正直、驚きだった。


 しかも、たまたま間違って投げたとはいえ、狙ってもなかなか当たらないエイム機能ゼロの防御アイテムが、よりによって僕に命中するとは……。

 すごい偶然もあったものだ。


 ──うん。偶然、偶然。


 幸い、僕たちはもともと独走していた。

 相手に距離を詰められはしたものの、追い抜かれることなく首位をキープできている。


 「また防御アイテムが出たよ! 私、このまま、たけくんの後ろをキープするね!」


 「了解、お願い!」


 ひーちゃんが、再び防御アイテムを引き当てた。

 今度こそ──今度こそ、僕の背後からしっかりガードしてくれるはずだ。


 そう信じて、僕は遅れを取り戻すべく、スピードを上げる。


 ──そのとき。


 ポイッ。


 「ひ、ひーちゃん……?」


 まただ。


 またしても、ひーちゃんは僕に向かって防御アイテムを投げつけ、きっちり命中させてきた。


 「あ、ごめん!私、また。一体どうしちゃったんだろう?次は気をつけるね!」


 ひーちゃんはそう言って屈託のない笑みを僕に浮かべた。

 僕は何故か、その笑みを怖いと思った。


 「う、うん。まぁ。ミスま誰にでもあるからね。2回連続で前に投げちゃう事もあるよ。」


 そう。

 ミスは誰にでもある。

 ひーちゃんだって人間なのだ。

 2回連続、間違って防御アイテムを前に投げてしまう事だってあるだろう。

 そして、その2回ともが、本来狙っても当てることができない、プレイヤー直撃になる事だってきっとある筈だ。多分。おそらく。


 僕たちは、二回連続でアイテムを当てられたことで、まだ追い抜かされこそしなかったものの、次にミスをすれば首位を取られる──そんなギリギリの差まで詰め寄られてしまっていた。


 そして、そんな緊迫した場面で──


 「あ、また防御アイテムが出たよ!」


 またしても、ひーちゃんに防御アイテムが出た。


 「それじゃあ私、またまた、たけくんの後ろにつくね?」


 「う、うん。お願い……。でも、今度は──」


 「もちろん分かってるよ! 今度はミスなんてしないから!」


 「そ、そっか。それじゃあ、任せるよ……」


 「任せて!」


 ひーちゃんは、元気よく宣言し、僕のすぐ背後にぴたりとついた。


 コースは大きな弧を描くカーブに入る。

 僕は慎重にドリフトを決めながら、細心の注意を払って走っていた、そのとき──


 ポイッ。


 ……もう、言わなくても分かるだろう。


 「あの、ひーさん?」


 「うん?」


 僕は恐る恐る、言葉を選びながら切り出す。


 「つかぬことをお伺いしますが……」


 「なに?」


 「もしかして、かなり怒ってます?」


 「……」


 「……」


 「そんなことないよ」


 「絶対ウソだ!! 今の間、何!? 絶対怒ってるじゃん!! 三連続で防御アイテムを前にいる相手に当てるなんて、狙わないとできないよ!? いや、狙っても普通できないよ!?」


 もはや、確信犯だった。


 特に、最後のカーブでの一撃なんて、水平に投げたくらいじゃ到底当たらない。

 相手の動きやライン取りを完璧に読みきったうえで、計算づくで投げなければ命中するわけがないのだ。


 そして、そんな、ひーちゃんの三連撃による自爆で、僕たちはついに抜かされ、首位から転落してしまった。


 そんな無念をにじませながら僕が言葉を絞り出すと──ひーちゃんはついに、貼り付けていた笑顔をかなぐり捨てた。


 「そうだよ! ウソだよ!! わざと当てたんだよ!! 私を裏切って当選なんかしたたけくんを、懲らしめるためにね!!」


 ひーちゃんは、目に涙を浮かべながら僕に叫んだ。


 やっぱり、あの笑顔は全部作り物だったらしい。

 さすがトップ女優──

 腹底を微塵も見せない完璧な笑みだった。

 しかし、今はそんなことに感心している場合ではない。


 ひーちゃんの感情は、落ち着きかけていたところから、完全に〝感情爆発モード〟へと逆戻りしてしまったのだ。

 どうやら、通知が来た時点ではまだギリギリ通常モードに戻れていなかったらしく──

 間一髪、アウトだったらしい。


 「別に裏切ったわけじゃないよ! 仕方ないじゃん! 僕だって、まさか当たるなんて思ってなかったんだから!」


 「何で、たけくん当たるの!? あれだけ確率が低いとか、抽選当たった試しが無いとか言って当たらないムーブかました直後に当選とか、完全に私への当て付けじゃん!! 嘲笑ってるじゃん!!」


 「誤解だよ! 偶然なんだって!!」


 「偶然でも何でも、当てたたけくんが悪いの!!しっかり報いを受けて!!というか、八つ当たりさせて!!!」


 「そんな理不尽な!!」


 こうして僕は、味方であるはずのひーちゃんに延々と攻撃を浴びせられ──

 途中までの首位は何だったのか、最終的には堂々の最下位でゴールインすることとなったのだった。


最後までお読み下さりありがとうございました!

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