救世主、矢上さん
〜立花香帆視点〜
「そんな立花さんに良いニュースを持ってきました!」
体育座りで俯いている私に凛のマネージャーである矢上さんが声をかけてきた。
「……え?」
私は俯いていた顔を上げて矢上さんを見る。
「なんと!私たち芸能事務所は立花さんと凛さんの写真集発売を考えてます!」
「………へ?」
突然のことで脳が理解できない。
「え、えーっと……私と凛の写真集ですか?」
「はいっ!あ、立花さんの事務所には話を通してますので、後ほどご連絡があると思います!」
そのタイミングでポケットに入れていたスマホが震え出す。
『もしもし』
『あ、香帆ちゃんっ!大変だよ!』
私のマネージャーである谷口アスカが普段よりも大きな声で話し出す。
『お、落ち着いてください。谷口さん』
『あっ、そ、そうですね』
声色から冷静でないことを理解した私はすぐに落ち着くよう伝え、深呼吸を促す。
そして幾分か落ち着いた谷口さんが本題を話し出す。
その内容は矢上さんが言った通り、私と凛の写真集を発売したいという内容だった。
『香帆ちゃん、リン様との写真集発売だけどーするの?』
『当然やるわ!』
『おっけー!そう先方には伝えておくよ!』
そう言って電話が終了する。
「矢上さんの働きかけで私にオファーが来たとマネージャーから聞きました。ありがとうございます」
私は矢上さんに頭を下げる。
「いえいえ!ちょうど立花さんのような方を探してましたので!」
「私のような人を……ですか?」
「はいっ!凛さんに恋をしてる乙女を探してました!」
「り、凛に恋をしてる乙女……っ!」
矢上さんの言葉に顔を真っ赤にする。
矢上さんによると写真集の相手は凛に恋をしてる女の子でないとダメらしく、社長の指示で凛に惚れている女の子を探していたらしい。
「あのツンデレっぷりは素晴らしいです!誰がどう見ても凛さんに恋してるのが分かりますよ!多分、立花さんの好意に気づいてないのは凛さんくらいですね!」
「うぅ……恥ずかしい……」
周囲の人たちにバレバレだとは思っていたが、改めて言われると恥ずかしい。
でもそのおかげで凛と撮影できそうなので、心の中で『良くやった』と自分を褒める。
「撮影日時等は後日連絡しますので、撮影の時はよろしくお願いします!」
そう言って矢上さんが頭を下げた後、私のもとから立ち去る。
「凛に恋する乙女を探してたなら私より真奈美の方が乙女のような気がするけど……」
真奈美が凛に恋をしているのは周囲の人たちみんなが気付いているだろう。
そんな真奈美の恋心を矢上さんが気づかないわけがない。
「これは真奈美よりも私の方が凛との写真集に相応しいと思ったってことよね」
そう思うと先ほどまで不甲斐ない自分に頭を悩ませていた気持ちが嘘のようになくなる。
「よしっ!写真撮影までに少しでも凛との距離を詰めるわよ!まずは凛を嫌ってないことをアピールしなきゃ!」
そう思い、ツンデレヒロインのような対応を封印することを心に決め、私は撮影現場に向かった。
その後、凛とたくさんの時間を過ごしたが、全く素直に接することができず、自分の性格の悪さを呪うだけとなった。
〜夏目凛視点〜
本日、ドラマの撮影現場に向かう前に内山社長のいる事務所に寄ることとなった。
「先日、立花さんから凛くんとの写真集発売のOKが出た。ドラマの撮影が落ち着いた時、写真撮影を行うぞ」
「………え?OKが出たんですか?」
社長の言葉に耳を疑う。
以前、矢上さんから立花さんとの写真集発売の話をもらい、俺は立花さんから嫌われているため断ろうとした。
その時、矢上さんから…
『凛さんは立花さんのことが嫌いですか?』
『そんなことありません。俺と立花さんはお友達なので』
『じゃあ問題ないですね!』
『あ、いや。友達と思ってるのは俺だけで立花さんは俺のこと嫌ってて……』
『社長ー!凛さんから立花さんとの撮影にOKが出ました!』
『って聞けよ!』
と、俺の話を聞かず話がサクサク進んだ。
そのため『立花さんが俺との撮影に了承すれば撮影を行う』という話となり、何故か立花さんから了承を得たらしい。
「立花さんから無事にOKが出たから、ウチの事務所は撮影の準備に取り掛かっておく。凛くんは良い撮影をするために、立花さんとの距離を縮めてた方がいいんじゃないか?」
「そ、そうですね……が、頑張ります」
今も距離を縮めるよう頑張ってるが、全く縮まってる感じがしない。
昨日なんか立花さんが散らかってたテーブルの上を自主的に掃除していたので…
『掃除ありがと、立花さん』
『これくらい大したことないわ。私が気になったから掃除してるだけだもの』
『いやいや。気になっても掃除をする人は少ないぞ。だから立花さんはすごいよ』
『っ!ふ、ふんっ!私は当然のことをしただけよ!だから……あ、アンタなんかに褒められても嬉しくないんだからね!』
『そ、そうだよな。俺なんかに褒められても嬉しくないよな』
といった感じで盛大に嫌われている。
(立花さんとの写真集発売か。無事、発売できるといいなぁ)
そんなことを思った。