立花香帆の想い 2
〜立花香帆視点〜
自分の控え室から出た私は真奈美の控え室に向かう。
そして昔は凛が好きだったことや芸能界を引退したことで嫌いになったこと、先ほどのやり取りで再び凛のことが好きになったことなど、自分の想いを真奈美に伝える。
「だから私、真奈美にも負けないから」
最後に私の本気度が伝わるよう、真剣な表情で言う。
すると…
「やっぱり香帆ちゃんはツンデレちゃんだったんだね!」
と笑顔で言った。
そんな真奈美を見て私は固まってしまう。
「……私に怒ったりしないの?」
「ん?なんでー?」
「だって凛なんか好きにならないとか言ってた私がたった1日で前言撤回して宣戦布告してるのよ。普通なら怒ったりするはずよ」
真奈美の立場になったことがないため分からないが、普通なら怒ると思った。
『たった1日で気持ちが変わるような人に凛くんを好きになる資格はない!』とか言われてもおかしくないと思ったから。
しかし真奈美はそう思わなかったようで「うーん」と考え始める。
「やっぱり香帆ちゃんはライバルになる気がしたからかな?」
真奈美は私が凛に堕とされるのは時間の問題だと思ったのだろう。
「だから私は香帆ちゃんが宣戦布告しても全く怒ったりしないよ。むしろ怒りたいのは凛くんの方。なんで可愛い子ばっかり堕とすかなーっ!ってね」
凛がいるであろう方向を向き、頬を膨らませながら怒る真奈美。
そんな真奈美を見て笑ってしまう。
「ふふっ。ありがとう真奈美」
「香帆ちゃんから感謝されることなんて何一つないよ!だって恋は自由なんだから!それに香帆ちゃんって漫画でよく見るツンデレちゃんだったからね!絶対、凛くんのことが好きになると思ったよ!」
「そうね、確かに漫画でよく見るツンデレちゃんだったわ。デレの部分なんて微塵もなかったけど」
「そんなことないよ!だって凛くんの1st写真集を買ってるんだから!」
「それ、お母さんにも言われたわ」
そんな感じで真奈美と盛り上がる。
「それにしても凛くんは相変わらず無自覚に女の子を堕とす天才だね。知ってる?モデルの雨宮桃華さんとアイドルの小鳥遊美奈ちゃんも凛くんのことが好きなんだよ」
「えっ!あの2人も!?」
私が逆立ちしても敵わないほどのスタイルを持つ雨宮さんと、同性の私でも羨ましいと思うほどの可愛さを持つ小鳥遊さんまで敵らしい。
「ほんと凛くんのバカっ!天然たらしっ!朴念仁っ!もうこれ以上、ライバルなんていらないのにっ!」
「そうね。あの男は一度、女の子から刺された方がいいと思うわ」
私たちがそれぞれ感想を述べる。
そして「「ふふっ」」と笑い合う。
「これは頑張らないといけないね。恋も演技も」
「えぇ。凛を振り向かせるには恋も演技も頑張らないといけないわ」
お互い、凛を振り向かせるために頑張らなければいけないことは把握している。
「じゃあ、私は部屋に戻るわ」
「うんっ!絶対香帆ちゃんにも負けないから!」
「私も負けないわよ。絶対、凛を堕としてみせるわ」
そう言って私は真奈美の控え室から出る。
「真奈美は強敵よ。だって人前で大胆なアプローチをするんだから」
真奈美は演技が終わった後、凛に頭を撫でるよう催促しており、周りにスタッフが居ても遠慮なくアタックしていた。
「あれくらい素直にアプローチしなきゃ真奈美に負けるわ。だから私も真奈美を見習って素直にアプローチしてみせる!」
そう決意しながら控え室へ戻った。
――私も真奈美を見習って素直にアプローチしてみせる!
そう思ってた時期が私にもありました。
「これあげるわ。麦茶よ」
「おぉー!ちょうど喉が乾いてたんだ!ありがと!立花さんっ!」
「っ!べ、別に凛のためにもらってきたわけじゃないわ!私も喉が乾いてたからついでにもらってきただけよ!感謝しなさいよね!」
「お、おう……ありがと、立花さん」
とか…
「あっ!そういえば監督から椅子を用意しとけって言われてたんだ!」
「それなら私がやっておいたわ。凛は忙しそうだったからね」
「マジで!ありがと、立花さんっ!」
「っ!か、勘違いしないでよね!撮影をスムーズに行うためにやっただけよ!凛のためにやったわけじゃないんだからね!」
「も、もちろん、勘違いなんかしないぞ。俺の手際が悪いから立花さんが動く羽目になったんだろ?ごめんな、俺が不甲斐ないせいで」
とか、漫画でよく見るツンデレヒロインのような対応をひたすらしていた。
「死にたい……」
凛と友達になってから数日後。
私は誰もいない廊下で体育座りの姿勢で俯いていた。
「どーやって凛に好意を伝えればいいか全くわからないわ」
大嫌いから大好きへと気持ちが変わったからか、元々私が好きな人に対して素直になれない性格なのかは分からないが、全然素直にアプローチできない。
「しかも凛が鈍すぎて変な勘違いしてるし……」
先日、凛が「なぁ、寧々。俺と立花さんって友達になったんだよな?全然、俺への態度が変わってないんだけど?むしろ友達になる前より嫌われてるんだけど?」と、寧々に言ったらしい。
「もういや。真奈美みたいに素直になりたい……」
今日の真奈美も積極的で、凛から頭をナデナデしてもらっていた。
ちなみに、その様子を見た私は嫉妬のあまり凛を睨みつけた。
「凛のことが好きなのに何で私は……」
そんなことをブツブツと呟きながら体育座りのまま俯いていると…
「そんな立花さんに良いニュースを持ってきました!」
と、高らかに言う女性の声が聞こえてきた。
「……え?」
私はその声に反応し、顔を上げる。
そこには凛のマネージャーである矢上さんがいた。