撮影開始まで 1
〜立花香帆視点〜
凛と顔合わせを行った翌日。
さっそく『生徒会長は告らせたい』の撮影が始まる。
「昨日はいきなり宣戦布告のようなものをしてしまったけど、さすがに言い過ぎよね。何なら怒りが湧いているとまで言ってしまったし」
今から一緒に撮影をする仲なので、昨日の件で私と仲良くしないような態度を取られると非常に困る。
「凛に怒りを抱いていたことは事実だし、いずれ宣戦布告のようなものをするつもりだったけど、さすがに会ってすぐ言うのは間違ってたわ」
そう思い、昨夜は少しだけ反省した。
「もし凛が友好的な態度をとってくれなかったら撮影に影響が出てしまうわ。そうなった時は真奈美に相談するしかなさそうね」
怒りが湧いていると言った翌日に「やっぱり仲良くしましょう」とは言えないので、その時は全力で真奈美を頼ろうと思う。
そんなことを思っていると撮影現場である学校に到着する。
今日は生徒会室での撮影を行うらしく、私は原作に出てくる制服を着用して監督たちのいる空き教室へ入る。
「おはよう、立花さん。今日からよろしくな」
すると真っ先に凛が話しかけてきた。
女性なら一瞬で恋に堕ちてしまうくらい爽やかな笑顔で。
「………」
「ん?どうした?ボーっとしてるぞ」
「……な、なんでもないわ」
私は咄嗟に凛から目線を外して返答する。
(相変わらずカッコいいわね。一瞬、見惚れてしまったわ。昨日は特訓のおかげで見惚れることなんかなかったのに)
昨日の私は特訓のおかげで凛のカッコ良さに見惚れることなく宣戦布告できたが、先ほどの爽やかな笑顔には耐性がなかったようで、一瞬だけ見惚れてしまった。
今では凛のことを超えるべき人としか見てない私は見惚れるなんてことがあってはならないため、凛に見惚れないよう家で特訓していた。
その特訓内容は先日発売された凛の1st写真集をひたすら眺めること。
その特訓を実行するため、わざわざ深夜遅くに出掛けて1st写真集を買ってきたのだ。
ちなみにこの特訓方法がお母さんにバレた時は滅茶苦茶ニヤニヤされた。
「こほんっ。おはよう、夏目凛」
「あぁ、おはよう。立花さん」
咳払いを挟み、見惚れていたことを勘付かれないよう挨拶をする。
「今日から撮影だな。俺、立花さんとの共演が今から楽しみだ」
「そうね、私も凛との共演が楽しみだわ……ってそういえば凛。昨日、私から散々言われたことを忘れたの?」
「いや、しっかり覚えてるぞ」
そう返答するが、昨日の出来事を忘れているのではないかと勘違いしてしまいそうなほど、普通に接している。
「昨日は色々と立花さんから言われたけど、立花さんの言ってることは理解できた。俺のことが嫌いかもしれないが今から撮影を行う関係だ。撮影中だけでも仲良くしてくれると嬉しいな」
そう言って凛が微笑む。
(こういうところが性格もイケメンって騒がれてる理由ね)
先ほどの心配は杞憂だったようだが、なぜ友好的な関係をとろうと凛から動いているかが気になる。
「ねぇ。私は昨日アナタに散々言ったわ。嫌われてるような人と友好的な関係をとろうとは普通思わないはずだけど、なぜアナタは私に歩み寄ろうとするの?」
「ん?そんなの立花さんに興味があるからに決まってるだろ?」
「………え?」
突然、告白のようなことを言われ、固まってしまう。
(も、もしかして告白……っていやいや!絶対違うわ!)
宣戦布告しただけで告白されるなんて有り得ないので、その考えを瞬時に振り払う。
「……凛は私に興味があるの?」
「あぁ。俺は立花さんのことが知りたいんだ」
しかし冗談ではないようで、真剣な表情で凛が言う。
「……ドMなの?」
「違うわ!」
私から嫌われていると分かっていても関わろうとするなんてドMとしか考えられないが違うらしい。
「なら何で私なんかに興味を持つのよ?」
「それは良い撮影をしたいからだ。演技となれば共演者の癖や性格、特徴は把握すべきだからな」
そう言って凛が自論を話し出す。
(なるほど。つまり私との呼吸を合わせるため、親密になりたいってことね)
さすがの天才でも共演する相手のことを知らないと良い演技は難しいらしい。
「仕方ないわね。そういうことならアナタと仲良くしてあげるわ」
ここに来るまで凛と仲良くしなければと思っていたことを全力で棚に上げ、仕方なく仲良くしてあげることにする。
「そうか。ありがとう、立花さん」
どこかホッとするような表情で凛が言う。
「じゃあ、また後で」
そう言って私のもとから立ち去り、綺麗な女の子の元へ向かう。
その際、「寧々!仲良くしてくれるんだって!」と嬉しそうに綺麗な女の子へ話しかけていた。
(凛が話しかけた女の子、アイドル並みに可愛いわ。女優ではなさそうだけど……もしかして凛の彼女とか?)
そう思うと、何故か仲良さそうに話している2人の邪魔をしたくなる。
そのため2人のもとへ歩き出そうとすると、いつの間にか側に真奈美がいた。
「じーー」
「な、なによ?」
「私はツンデレ香帆ちゃんにも負けないからね!」
「わ、私はデレてなんかないわよ!」
どの部分で私がデレてると思ったか、小一時間くらい問い詰めたい。
「ううん!香帆ちゃんはツンデレだよ!だから私、香帆ちゃんのことライバル認定してるから!」
「なんでよ!」
「だって凛くんのことをずーっと想い続けて努力してたんだよね!そんなの凛くんのことが大好きな人だよ!」
「わ、私はあんな奴、好きじゃないわよ!」
そう声に出して否定する。
昨日、凛と控室で話し合った内容については全て真奈美に話しており、私が凛に宣戦布告したことも伝えている。
そのため私が凛のことなんか好きじゃないことを知っているはずだが、真奈美は納得してないようでジトーっとした目を向けてくる。
「ねぇ香帆ちゃん。凛くんのことを一度たりとも忘れたことないんだよね?」
「当然よ。1秒たりとも忘れたことなんてないわ」
「挫けそうな時、凛くんを思い浮かべてだんだよね?」
「えぇ、凛の顔を思い浮かべたわ」
「凛くんが芸能界に復帰して嬉しい?」
「ものすごく嬉しいわ」
「……もしかして凛くんが表紙の『読モ』や凛くんの1st写真集を購入してる?」
「仕方なく買ってあげたわ。凛の写真を部屋に飾るためにね」
「……うぅ、香帆ちゃんも敵だったなんて……」
「だ、だから私はあんな奴、好きじゃないわよ!」
私は真奈美に向けてそう叫んだ。