表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/149

立花香帆との出会い 2

 立花さんを連れて自分の控え室に入る。


「誰もいない部屋に連れて来られたわ。もしかして私を襲うつもりなの?」

「アホかっ!」


 襲われるかもしれないと思ってるような素振りを全く見せない立花さんへ、すぐさま否定の言葉を言う。


「それで、なぜ俺が俳優業を舐めていると思ったんだ?」


 これから一緒に仕事をする立花さんとは仲良くしなければならないため、俺に怒っている原因を取り除く必要がある。

 そのため、まずは俺が俳優業を舐めていると思った理由を尋ねる。


「それは優秀主演男優賞を受賞した翌年に芸能界を引退したからよ」


 そう言って立花さんが話を続ける。


「私、子役として活動してる時から夢があったの。その夢を叶えるため、小さい頃から頑張ってきた。それが日本アカデミー賞で優秀主演女優賞を受賞することだった」


 その言葉を聞いて、俺に怒っている理由を概ね理解する。


「私みたいな凡人が一生かけても手に入らない賞を受賞したアナタのことを本気で尊敬したわ。私も夏目凛に近づけば受賞できるんじゃないかって希望も抱いた。でも、夏目凛は受賞した翌年に引退した。それを知った時、私は夏目凛に夢を馬鹿にされたと思ったわ。こんな賞なんか価値がない、受賞しても無駄だと言われてるような気がして」


 引退するということは受賞した栄光をも捨てることになるため、価値がない、受賞しても無駄だと言っていることになる。


(そりゃ俳優業を舐めているって言われても否定できないわ)


 そう思い、立花さんの言葉に何も反論できない。


「だから私は夏目凛に怒りが湧いたの。それと同時に絶対、夏目凛には負けたくないと思った。引退したアナタと比べるのは間違ってると思ったけど、私は夏目凛なんかに負けないという執念で今日まで頑張ってきたわ」


 きっと俺に負けないという気持ちだけで人気女優になったのだろう。


(その気持ちが立花さんを奮い立たせ、ここまで上達させたのか)


 どうやら引退した俺が立花さんの役に立ったらしく、嬉しさのあまり笑みをこぼす。


「な、なに笑ってるのよ!」

「あ、いや。立花さんは凄いよ。俺なんかよりずっと凄い女優だ」

「そ、そんなことないわよ!だってアナタは天才なんだから!」

「……天才かぁ」


 確かに昔、天才だの神童だのと呼ばれていたが、俺は1度たりとも自分のことを天才だと思ったことはない。

 だが、立花さんは俺のことを頑なに天才だと思い込んでいるようだ。


「そうよ。アナタは天才なの。だから私はアナタに勝つことがどれだけ難しいことか理解している。でも私は夢を馬鹿にした夏目凛には負けたくない。その気持ちが私を奮い立たせ、挫けそうな時も頑張れた。全てはアナタを超えるために!」


 立花さんの言葉から『絶対負けない』という強い意志を感じる。


(確かに俺は神童と呼ばれ、俳優としての才能があることも理解している。そうでなければ小5で優秀主演男優賞の受賞などあり得ない)


 何十年も俳優として活躍されている大人たちを押し退けて優秀主演男優賞を受賞できた理由は日々の努力に加え、演技の才能があったから。

 さすがの俺でも才能なんかないと謙遜することはできない。


「引退してたから6年のブランクがあるけど、かつて神童と呼ばれた夏目凛には関係ないよね?それとも、『二十歳過ぎれば只の人』という言葉通り、今は才能の無い只の人になり下がったの?」

「そんなわけないだろ」


 俺は堂々と答える。


「それは楽しみね。天才の演技を間近で見られるのだから。私、夏目凛の演技を見るのは好きだったの。だからガッカリさせないでよね」


 俺の発言を聞き、笑みを浮かべる立花さん。


「それと最後に一言。復帰してくれてありがとう。これで私はアナタを超えたことを証明できるわ」


 今まで引退した俺を超えるために頑張ってきたんだ。

 目標としていた人が復帰し、比べることができる状況となったため、俺の復帰を聞いて1番嬉しかったのは立花さんかもしれない。

 そんなことを思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ