ドラマ撮影へ
【6章開始】
俺の写真集が発売された翌日。
今日から『生徒会長は告らせたい』という作品のドラマ撮影が始まる。
「おはようございます、矢上さん」
俺は自宅まで迎えに来てくれた矢上さんの車に乗り込み、挨拶をする。
「おはようございます!今日は一段と気合いが入ってますね!」
「そうですね。この作品が俳優としての復帰作になりますので」
先程寧々から「頑張ってね!」という励ましの言葉と共に背中を押されたため、余計気合いが入っている。
「では出発しますね」
そう言って車を走らせた矢上さんが運転しながら話しかけてくる。
「今日から撮影するドラマは漫画が原作となっております。原作は読みましたか?」
「もちろんです。俺は主人公の黒川くんを演じますから、何度も読みましたよ」
本作品は生徒会長である黒川くんと副会長である二宮さんのラブコメで、お互いに惹かれ合っているものの告白する勇気のない2人が、『自信がないなら相手から告白してもらおう!』という思考回路に至り、日々告白させるため努力するストーリーとなっている。
「主人公の黒川くんは学年トップの成績を収めるほどの秀才で運動神経も抜群ですが、実は運動音痴で学年トップの成績や運動神経は努力の賜物で手に入れてます。俺、努力する人は好きなので黒川くんを演じるのがすごく楽しみなんですよ」
好きな女の子である二宮さんから良く見られるため、苦手な運動や勉強に一所懸命取り組んだ結果、生徒会長という役職と文武両道という肩書きが付いてきた。
そんな努力家の黒川くんが俺は好きなので演じれることを嬉しく思う。
「それに二宮さんは真奈美が演じると聞いてます。昔みたいに真奈美と共演できるのがすごく楽しみですね」
「凛さんと愛甲さんが主演を務めるのは、凛さんが優秀主演男優賞を受賞された『マルモのおきてだよ』以来となるので、世間では放送前から注目されてますよ」
矢上さんの発言に加え俺の復帰作にもなるので、撮影が始まってないにも関わらずSNSではかなり盛り上がっている。
「みんなの期待を裏切らないよう頑張らないといけませんね」
そう思い、密かに闘志を燃やす。
すると矢上さんが思い出したかのように「あ、そういえばっ!」と声を出す。
「生徒会書記の藤崎さん役を務める立花香帆さんとは子役時代の頃、共演されたことがあるんですね!」
「そうですね。『マルモのおきてだよ』で共演したことがあります。まぁ、共演といっても一緒の作品に出たというだけで、立花さんと一緒に演技はしてませんが」
『生徒会長は告らせたい』という作品には黒川くんと二宮さんの他に、もう1人重要なキャラがいる。
それが生徒会書記の藤崎さんだ。
藤崎さんは黒川くんと二宮さんが両思いであることに気付いているが、全然付き合う気配のない2人に呆れており、2人が付き合えるよう影ながらサポートしている女の子だ。
そして今回、藤崎さん役を子役時代に共演したことがある立花香帆さんが務めている。
「『マルモのおきてだよ』では真奈美のクラスメイト役だったため目立つ役ではなかったのですが、演技の練習を主演だった俺や真奈美に負けないくらい頑張ってました。真奈美が「香帆ちゃんの演技に負けそう」と言ってたのを覚えてますよ」
立花さんは努力家で演技力も子役の頃から真奈美と同等レベルで、現在は真奈美と同じくらい人気のある女優だ。
「今回のキャスティングは凛さんが黒川くんを、愛甲さんが二宮さんを演じることが決まってから決めたらしいです。おそらく森野監督は『マルモのおきてだよ』の出演メンバーの中で選りすぐりの方を選んだみたいですね」
「そうですね。それの方が話題性はありますから、意図的に選んだと思いますよ」
メインキャストである俺と真奈美、立花さんは大ヒットとなった『マルモのおきてだよ』のメンバーである。
話題性としてはバッチリだろう。
「『マルモのおきてだよ』の撮影時、立花さんと交流はあったのですか?」
「それがですね。真奈美のクラスメイト役だったので立花さんと交流する機会がなかったんですよ。立花さんの演技を見たことは何度もありましたが」
立花さんの演技は何度も見たことあるが会話をした記憶はない。
そのため、どんな性格の女の子かが分からない。
「なら凛さんのことが大好きな女の子かもしれませんね!」
「矢上さん。俺の話聞いてましたか?会話すらしたことないって言ったんですが……」
そんな会話をしながら俺たちは撮影現場に向かった。